上 下
1 / 4

1話

しおりを挟む
「あの、これは一体どういうことでしょうか? ブライアン様」

目の覚めるような青いドレス姿の女性の声が会場内に響き渡る。
長く伸びた黒髪が美しい伯爵令嬢――キャサリン・フリーデルは、パーティー会場に現れた伯爵令息ブライアン・マキシムの前に立ちはだかったのだ。

彼の隣には栗毛色のつぶらな瞳の女性が腕を組んで寄り添っている。

「見ての通りだ。今夜のパーティーで俺がパートナーに選んだのはネリーだ。それ位のこと、口にしなければ分からないのか?」

この2人のやりとりを周囲のパーティー参加者たちはヒソヒソ話をしながら注目している。

「あの女性……確か子爵家令嬢のネリー・フロン様よ」
「2人の衣装、お揃いに見えるな」
「キャサリン様とブライアン様って確か……」

周囲の注目を浴びながら、キャサリンは気丈にも尋ねた。

「ブライアン様。今夜のパーティーの意味を分かっていらっしゃいますか? ここに2人で一緒に現れるということは……」

「勿論だ。このパーティーではパートナーを連れての参加が必須。しかも相手は結婚していれば夫婦で、婚約中であれば婚約者を伴うのが条件だ」

「そうです。このパーティーの主旨は、公の場でパートナーをお披露目するのが目的ですよ? なのに、何故ブライアン様はそちらの女性を連れているのですか? 私はいつまで経ってもブライアン様がお迎えに来て下さらないので、1人でここまで来たのですよ?」

「お前、今日まで俺が迎えに来ると思っていたのか? 相変わらず愚かな女だ」

キャサリンとブライアンのやり取りを見るため、次第に野次馬が増えてくる。
その様子を見るとブライアンはニヤリと笑い、キャサリンをビシッと指さした。

「キャサリン・フリーデルッ! 俺は今、ここでお前に婚約破棄を告げる! 代わりに、ネリー・フロンと婚約することに決めた!」

その言葉に野次馬たちが一斉にざわめく。

「聞いた? 聞きました? 今の!」
「婚約破棄だって! こんな大勢の場で!」
「これはすごいことになったぞ」

キャサリンはチラリと周囲を一瞥し、ブライアンをじっと見つめる。

「おっしゃっている意味が良く分かりませんが……私とブライアン様の婚約は両家で取り決めたものであり、簡単には覆せませんが?」

「そんな事は関係無い。結婚というものは、お互いの意思が一番重要なのだ。第一、お前のような悪女と結婚なんてありえないからな!」

「悪女……? この私のどこが悪女なのですか?」

悪女という言葉に野次馬たちは再び騒ぐ。

「聞きました? 悪女ですって!」
「よくもまぁ、本人を前に言えるなぁ……」
「一体どんな悪事を働いたっていうんだろう?」

ブライアンは野次馬達のざわめきに、満足そうに頷くとネリーの肩を抱き寄せた。

「お前は俺に好意を寄せているネリーに散々嫌がらせを働いてきただろう!」

「嫌がらせ……? この私が、彼女にですか?」

キャサリンがネリーに視線を移した途端。

「キャッ! 怖い! キャサリン様が今私を睨んだわ!」

わざとらしく、顔をそむけてブライアンの影に隠れる。

「ほら見ろ! お前は睨むだけで、既にネリーにとって脅威の存在なんだよ! おお、よしよし……大丈夫だ、俺がついているから」

「ぐすっ……ブライアン様……」

縋り付くネリーの髪をブライアンは優しく撫でる。

「睨んだ……のか? あれは」
「さぁ? ただ見つめただけにも見えるけれど?」
「捉えように寄っては睨んでいるようにも見えないか?」

野次馬たちがヒソヒソ話している。そんな野次馬を鎮めるため、キャサリンは小さく咳払いした。

「コホン。では私が彼女にどの様な嫌がらせをしたのか教えて頂けませんか?」

「あぁいいだろう! ここにネリーからの陳述書があるからな!」

ブライアンは上着のポケットから、1枚の紙片を取り出すとその場で広げた。

「よし、今から読み上げるからな……よーく聞いているんだぞ!」

そしてブライアンはネリーからの陳述書を大きな声で読み上げ始めた――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

お父様、ざまあの時間です

佐崎咲
恋愛
義母と義姉に虐げられてきた私、ユミリア=ミストーク。 父は義母と義姉の所業を知っていながら放置。 ねえ。どう考えても不貞を働いたお父様が一番悪くない? 義母と義姉は置いといて、とにかくお父様、おまえだ! 私が幼い頃からあたためてきた『ざまあ』、今こそ発動してやんよ! ※無断転載・複写はお断りいたします。

婚約者にざまぁしない話(ざまぁ有り)

しぎ
恋愛
「ガブリエーレ・グラオ!前に出てこい!」 卒業パーティーでの王子の突然の暴挙。 集められる三人の令嬢と婚約破棄。 「えぇ、喜んで婚約破棄いたしますわ。」 「ずっとこの日を待っていました。」 そして、最後に一人の令嬢は・・・ 基本隔日更新予定です。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」 わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。 ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。 驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。 ※話自体は三人称で進みます。

処理中です...