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9-3 母の日
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母の日の日曜日―
翔が紙バックを持って朱莉のマンションを訪れた。
「朱莉さん、これ・・・お義母さんに渡してくれないかな?」
リビングのソファに座った翔は少し照れながら蓮を抱っこしている朱莉の正面にあるテーブルの上に紙バックを乗せた。
「え・・?翔さん、これは何ですか?」
朱莉は片手で紙バックを引き寄せると尋ねた。
「こ、これは・・。俺が選んだ母の日のプレゼントなんだけど・・・。ストールなんだ。オーガニックコットンで手触りもいいし・・これならすぐに羽織る事が出来ると思ってね・・・。)
翔は照れ臭そうに言いながら、朱莉に説明した。だが、実際は選んだのは翔ではなく、修也だったのだが何故か朱莉には修也の話をしたくはなかったのだ。
「ありがとうございますっ!まさか・・・翔さんから私の母のプレゼンを頂けるなんて・・・きっと母は喜びますっ!」
朱莉は満面の笑みを浮かべた。
「朱莉さん・・・。」
(驚いたな・・・まさか、ここまで喜んでくれるなんて・・・。やはりそれほど朱莉さんに取ってお母さんはかけがえのない大切な人だって事なんだろうな・・・。なのに俺は・・・。)
翔は以前朱莉の母が外泊届を貰って、朱莉の部屋へやって来た時の事を思い出していた。あの時、翔は朱莉親子を置いて明日香の元へ行ってしまった。そしてその直後に朱莉の母は具合が悪化してしまい、救急車で運ばれる事態となった。その事実を後日京極から聞かされて・・・。
(俺は・・・今更だが・・・思い返すほど本当に最低な人間だ・・・。)
「どうしましたか?翔さん?」
不意に朱莉は翔の表情が曇ったのを不思議に思い、首を傾げて翔を見上げた。その様子があまりにも可愛らしく、翔は思わず自分の顔が赤面してしまうのが分かった。
「え?ど、どうしたんですか?!翔さん、顔が真っ赤ですよっ?!もしかして熱でもあるんですかっ?!」
すると朱莉は何を勘違いしたのか、翔のおでこに右手を当てた。
「い、いやっ!本当に何でも無い。大丈夫だから・・お母さんの所へ行ってあげるといいよ。」
翔は慌てて身を引くと言った。
「は、はい・・分かりました。それではレンちゃんをお願いします。」
朱莉は蓮を修也に預けると、出掛ける準備を始めた。
「それでは翔さん、母のお見舞いに行ってきますね。」
外出着に着替えた朱莉は翔が渡してきた紙バックを持つと言った。
「ああ、行ってらっしゃい。所で・・朱莉さんは何かプレゼントするのかい?」
「はい、実はもう母の入院している病院の住所に届けてあるんです。」
「へえ~何を届けたんだい?」
「フルーツの盛り合わせにしたんです。今日は看護師さん達もお祝いしてくれるそうなので・・・皆で頂けるかと思って。」
朱莉は本当に楽しそうに言う。
「そうか・・・なら楽しんでおいで。多少遅くなっても俺の方は全然構わないから。」
「すみません。18時には必ず帰れますので。では行ってきます。レンちゃん、お利口にしていてね。」
朱莉は翔の腕の中にいる蓮に笑顔で手を振ると言った。
「では、翔さん。よろしくお願い致します。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
そして朱莉は嬉しそうに玄関から出て行った。
「・・・・。」
朱莉が出て行った後、翔は蓮を抱きかかえたまま深いため息をつくと言った。
「駄目だ・・・どうやら俺は本気で朱莉さんの事を・・・好きになってしまったようだ・・・。」
そして顔を赤らめた—。
朱莉の母、洋子は5Fの病棟に入院している。本日は母の日のイベントを病院側が主催してくれると言う事なので、いつもはパジャマを着ている洋子も本日だけは洋服を着ていた。
談話室でお祝いをする事になっており、午後3時に看護師が車いすを持って部屋まで迎えに来てくれるので、それまで洋子は朱莉が買って来てくれた小説を読みながら呼ばれるのを待っていた。
コンコン
その時、部屋のドアがノックされて朱莉が顔を覗かせた。
「お母さん、きたよ。」
「いらっしゃい。朱莉。」
母は笑顔で朱莉を迎えた。いつもはパジャマ姿の洋子も今日は薄いサーモンピンク色の品の良いニットの上下のツーピースを着ている。これは以前に朱莉が母の為に購入した洋服である。
「うわあ・・・お母さん、その洋服・・・着てくれたんだね?」
朱莉は笑顔で言うと、病室にある椅子を母のベッドの側へ寄せながら座った。
「ええ・・・初めて着るのだけど、どうかしら・・?」
洋子は少し恥ずかしそうに尋ねた。
「素敵、とってもよく似合っているよ。久しぶりだな・・・お母さんがパジャマ以外の服を着ている姿を見るのは。」
「ええ・・・私も久しぶりだわ。でも・・・不思議な物ね。パジャマを着ていないせいかしら・・。いつもより体調が良い気がするのよ。」
それを聞いた朱莉は、母の顔をまじまじと見ながら言った。
「うん・・・そう言えばいつもより何だか元気に見える気がするよ?」
「フフ・・・それなら普段からパジャマ以外に服もこれからは着ていた方が良いかもね?」
洋子は笑顔で答えた。
「あ、そう言えばお母さん。今日ね、翔さんがお母さんに渡してくださいって言って母の日のプレゼントを用意してくれていたんだよ?」
言いながら朱莉は母のベッドの上に紙バックを置いた。
「まあ・・・翔さんが?」
結婚して2年が経過するけれども、今迄一度も翔から贈り物をもらった事が無かった洋子は驚き、そして思った。
(こんな風に私にまでプレゼンをしてくれるようになったっていう事は・・・ひょっとすると朱莉の事を今は大切に思ってくれているのかしら・・・?)
洋子は朱莉の顔をチラリと見ると、そこには以前のような陰りの表情は無かった。明るく、生き生きと輝いて見える。しかし、朱莉のその輝きが翔ではなく、蓮のお陰だと言う事を洋子は知らない。なぜなら朱莉が翔の子供を育てている事実を洋子は一切聞かされていないからだ。
「お母さん、翔さんからの贈り物・・・開けて見てもい?私も実はまだ見た事が無くて・・。」
「ええ、そうね。何をくれたのかしら?」
「翔さんの話ではストールだって聞いていたのだけど。」
言いながら朱莉は紙バックの中から綺麗にラッピングされたプレゼントを取り出した。
「開けて見るね?」
朱莉の問いかけに洋子は頷く。
包み紙を広げると、菫色の淡い色合いの大判のストールが現れた。中には母の日のお祝いのメッセージカードまでついていた。
「まあ・・・。」
洋子は感嘆の声を上げた。
「うわあ・・・綺麗な色のストール・・・それに、とっても手触りがいいね?」
朱莉は手に取ると言った。
「ほら、お母さん、巻いてみて?」
朱莉はストールをふわりと洋子の肩にかけてゆったりと巻いてみた。そのストールの色合いは肌の白い洋子に良く似合っていた。
「これ・・とっても柔らかくて・・いいわね。」
洋子もすっかり気に入り、笑顔で言った。
「うん、とってもよく似合っているよ?」
そこへタイミングよく病室のドアがノックされ、ドアが開けられた。
「お待たせいたしました、須藤さん。談話室へ向かいましょうか?」
現れたのは本日洋子を担当する看護師だった。そして洋子のストールを見ると言った。
「まあ・・・何て素敵なストールでしょう。とてもよくお似合いですよ?」
「有難うございます・・・。」
洋子は少し頬を染めながら礼を言う。
「それでは談話室へ向かいましょうか?」
看護師に促され、洋子は車いすに移動すると看護師が車いすを押し始めた。
朱莉もその後に付いて行く。
談話室には洋子と同年代位の女性達が10名ほど集まっていた。洋子以外に付き添われていた入院患者は1人も無く、洋子は皆に羨ましがられ、さらにストールは義理の息子から贈られたものだと分かると、さらに羨望の眼差しを注がれ、洋子はとても楽しそうに他の入院患者たちと会話が弾んでいる。
(翔さん・・・こんなに素敵なストールを母の為に選んでくれたなんて・・・帰ったらちゃんとお礼を言わないと・・。翔さんからの送りもの、とっても喜んでくれましたって・・・。)
朱莉はそんな母を見ながら思うのだった―。
翔が紙バックを持って朱莉のマンションを訪れた。
「朱莉さん、これ・・・お義母さんに渡してくれないかな?」
リビングのソファに座った翔は少し照れながら蓮を抱っこしている朱莉の正面にあるテーブルの上に紙バックを乗せた。
「え・・?翔さん、これは何ですか?」
朱莉は片手で紙バックを引き寄せると尋ねた。
「こ、これは・・。俺が選んだ母の日のプレゼントなんだけど・・・。ストールなんだ。オーガニックコットンで手触りもいいし・・これならすぐに羽織る事が出来ると思ってね・・・。)
翔は照れ臭そうに言いながら、朱莉に説明した。だが、実際は選んだのは翔ではなく、修也だったのだが何故か朱莉には修也の話をしたくはなかったのだ。
「ありがとうございますっ!まさか・・・翔さんから私の母のプレゼンを頂けるなんて・・・きっと母は喜びますっ!」
朱莉は満面の笑みを浮かべた。
「朱莉さん・・・。」
(驚いたな・・・まさか、ここまで喜んでくれるなんて・・・。やはりそれほど朱莉さんに取ってお母さんはかけがえのない大切な人だって事なんだろうな・・・。なのに俺は・・・。)
翔は以前朱莉の母が外泊届を貰って、朱莉の部屋へやって来た時の事を思い出していた。あの時、翔は朱莉親子を置いて明日香の元へ行ってしまった。そしてその直後に朱莉の母は具合が悪化してしまい、救急車で運ばれる事態となった。その事実を後日京極から聞かされて・・・。
(俺は・・・今更だが・・・思い返すほど本当に最低な人間だ・・・。)
「どうしましたか?翔さん?」
不意に朱莉は翔の表情が曇ったのを不思議に思い、首を傾げて翔を見上げた。その様子があまりにも可愛らしく、翔は思わず自分の顔が赤面してしまうのが分かった。
「え?ど、どうしたんですか?!翔さん、顔が真っ赤ですよっ?!もしかして熱でもあるんですかっ?!」
すると朱莉は何を勘違いしたのか、翔のおでこに右手を当てた。
「い、いやっ!本当に何でも無い。大丈夫だから・・お母さんの所へ行ってあげるといいよ。」
翔は慌てて身を引くと言った。
「は、はい・・分かりました。それではレンちゃんをお願いします。」
朱莉は蓮を修也に預けると、出掛ける準備を始めた。
「それでは翔さん、母のお見舞いに行ってきますね。」
外出着に着替えた朱莉は翔が渡してきた紙バックを持つと言った。
「ああ、行ってらっしゃい。所で・・朱莉さんは何かプレゼントするのかい?」
「はい、実はもう母の入院している病院の住所に届けてあるんです。」
「へえ~何を届けたんだい?」
「フルーツの盛り合わせにしたんです。今日は看護師さん達もお祝いしてくれるそうなので・・・皆で頂けるかと思って。」
朱莉は本当に楽しそうに言う。
「そうか・・・なら楽しんでおいで。多少遅くなっても俺の方は全然構わないから。」
「すみません。18時には必ず帰れますので。では行ってきます。レンちゃん、お利口にしていてね。」
朱莉は翔の腕の中にいる蓮に笑顔で手を振ると言った。
「では、翔さん。よろしくお願い致します。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
そして朱莉は嬉しそうに玄関から出て行った。
「・・・・。」
朱莉が出て行った後、翔は蓮を抱きかかえたまま深いため息をつくと言った。
「駄目だ・・・どうやら俺は本気で朱莉さんの事を・・・好きになってしまったようだ・・・。」
そして顔を赤らめた—。
朱莉の母、洋子は5Fの病棟に入院している。本日は母の日のイベントを病院側が主催してくれると言う事なので、いつもはパジャマを着ている洋子も本日だけは洋服を着ていた。
談話室でお祝いをする事になっており、午後3時に看護師が車いすを持って部屋まで迎えに来てくれるので、それまで洋子は朱莉が買って来てくれた小説を読みながら呼ばれるのを待っていた。
コンコン
その時、部屋のドアがノックされて朱莉が顔を覗かせた。
「お母さん、きたよ。」
「いらっしゃい。朱莉。」
母は笑顔で朱莉を迎えた。いつもはパジャマ姿の洋子も今日は薄いサーモンピンク色の品の良いニットの上下のツーピースを着ている。これは以前に朱莉が母の為に購入した洋服である。
「うわあ・・・お母さん、その洋服・・・着てくれたんだね?」
朱莉は笑顔で言うと、病室にある椅子を母のベッドの側へ寄せながら座った。
「ええ・・・初めて着るのだけど、どうかしら・・?」
洋子は少し恥ずかしそうに尋ねた。
「素敵、とってもよく似合っているよ。久しぶりだな・・・お母さんがパジャマ以外の服を着ている姿を見るのは。」
「ええ・・・私も久しぶりだわ。でも・・・不思議な物ね。パジャマを着ていないせいかしら・・。いつもより体調が良い気がするのよ。」
それを聞いた朱莉は、母の顔をまじまじと見ながら言った。
「うん・・・そう言えばいつもより何だか元気に見える気がするよ?」
「フフ・・・それなら普段からパジャマ以外に服もこれからは着ていた方が良いかもね?」
洋子は笑顔で答えた。
「あ、そう言えばお母さん。今日ね、翔さんがお母さんに渡してくださいって言って母の日のプレゼントを用意してくれていたんだよ?」
言いながら朱莉は母のベッドの上に紙バックを置いた。
「まあ・・・翔さんが?」
結婚して2年が経過するけれども、今迄一度も翔から贈り物をもらった事が無かった洋子は驚き、そして思った。
(こんな風に私にまでプレゼンをしてくれるようになったっていう事は・・・ひょっとすると朱莉の事を今は大切に思ってくれているのかしら・・・?)
洋子は朱莉の顔をチラリと見ると、そこには以前のような陰りの表情は無かった。明るく、生き生きと輝いて見える。しかし、朱莉のその輝きが翔ではなく、蓮のお陰だと言う事を洋子は知らない。なぜなら朱莉が翔の子供を育てている事実を洋子は一切聞かされていないからだ。
「お母さん、翔さんからの贈り物・・・開けて見てもい?私も実はまだ見た事が無くて・・。」
「ええ、そうね。何をくれたのかしら?」
「翔さんの話ではストールだって聞いていたのだけど。」
言いながら朱莉は紙バックの中から綺麗にラッピングされたプレゼントを取り出した。
「開けて見るね?」
朱莉の問いかけに洋子は頷く。
包み紙を広げると、菫色の淡い色合いの大判のストールが現れた。中には母の日のお祝いのメッセージカードまでついていた。
「まあ・・・。」
洋子は感嘆の声を上げた。
「うわあ・・・綺麗な色のストール・・・それに、とっても手触りがいいね?」
朱莉は手に取ると言った。
「ほら、お母さん、巻いてみて?」
朱莉はストールをふわりと洋子の肩にかけてゆったりと巻いてみた。そのストールの色合いは肌の白い洋子に良く似合っていた。
「これ・・とっても柔らかくて・・いいわね。」
洋子もすっかり気に入り、笑顔で言った。
「うん、とってもよく似合っているよ?」
そこへタイミングよく病室のドアがノックされ、ドアが開けられた。
「お待たせいたしました、須藤さん。談話室へ向かいましょうか?」
現れたのは本日洋子を担当する看護師だった。そして洋子のストールを見ると言った。
「まあ・・・何て素敵なストールでしょう。とてもよくお似合いですよ?」
「有難うございます・・・。」
洋子は少し頬を染めながら礼を言う。
「それでは談話室へ向かいましょうか?」
看護師に促され、洋子は車いすに移動すると看護師が車いすを押し始めた。
朱莉もその後に付いて行く。
談話室には洋子と同年代位の女性達が10名ほど集まっていた。洋子以外に付き添われていた入院患者は1人も無く、洋子は皆に羨ましがられ、さらにストールは義理の息子から贈られたものだと分かると、さらに羨望の眼差しを注がれ、洋子はとても楽しそうに他の入院患者たちと会話が弾んでいる。
(翔さん・・・こんなに素敵なストールを母の為に選んでくれたなんて・・・帰ったらちゃんとお礼を言わないと・・。翔さんからの送りもの、とっても喜んでくれましたって・・・。)
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