上 下
272 / 355

8-11 前後不覚

しおりを挟む
 その頃―

二次会に参加した若い3人組の女性たちがテーブルの上に突っ伏して眠ってしまった九条を見つめ、コソコソと囁いていた。

「ねえねえ、あそこに座っていた男の人・・・1人いなくなったわよ。」

「あ~ん・・・残念。2人共身なりはいいし、イケメンだったから目の保養になっていたのに・・。」

「あれで険悪な雰囲気じゃなかったら声を掛けにいけたのにね~・・。」

すると、中でも一番派手な化粧にワンピースを着た髪の長い女が言った。

「私・・・あの眠ってる男性の処へ声を掛けに行ってくるわ。」

すると栗毛色の天然パーマの女性が言った。

「出たっ!肉食女、美和!」

「ま~た、男をあさりに行くのね・・・。」

真っ赤なルージュにボブヘアの女性が言った。

「あら、別にいいでしょう?だってあそこで2人きりで飲んでいたって事は・・恋人がいない可能性だってあるわけじゃない?」

美和は長い髪を手ですくいながら言った。

「でも、完全に眠ってるようだけど?」

天然パーマの女が言う。

「でも・・・声をかければ目を覚ますかもよ?」

ボブヘアの女がクイッとシャンパンを飲みながら言った。

「まあ、とりあえず行って来るわ。うまくいけば・・今夜は楽しめるかもしれないし。」

ガタンと席を立ちながら美和が言った。

「はいはい、行ってらっしゃい。それじゃ私たちは適当なところで帰るからね~。」

天然パーマの女は手をひらひらさせながら言った。

「頑張ってね~。」

ボブヘアの女はクスクス笑いながら美和を見送った―。




 それから約1時間後―

翔は二階堂と共に琢磨がいるテーブルに戻って来た。

「あれ・・・?いないな・・?」

翔はキョロキョロ辺りを見渡した。

「妙だな・・・。九条の奴・・・あんな状態で1人で先に帰ったのか?」

二階堂も不思議そうに周辺を見渡すも琢磨の姿は何所にも見当たらない。

「全く・・・先に帰るなら帰るって声を掛けて行けばいいものを・・・。」

翔はブツブツ言いながら琢磨の飲み残したグラスを片付けた。

「その通りだ。・・・半年ぶりにあったから俺の部屋で3人で飲みなおそうかと思っていたのに・・・あてが外れたな。どうする?翔。」

「先輩・・・明日はハネムーンですよね?3人で飲みなおすつもりだったなんて話・・静香さんが聞いたら怒りそうですよ?」

すると二階堂は言った。

「ああ・・・それなんだがな、静香の奴・・・女友達と一緒にカラオケをしに行ってしまったんだよ。明日の朝ホテルに帰るわね・・・って言い残してな。」

フッと寂しげな笑みを浮かべながら二階堂は言った。そんな二階堂を見て翔は言った。

「先輩・・・早速しりに敷かれているようですね・・。」

「うん・・・そういうところが実にいいんだけどな?やっぱり静香は最高の女だよ。」

二階堂は嬉しそうに言う。

「はい、良かったですね。どうぞお幸せに。俺はもう帰りますよ。もう0時を過ぎてるし。」

「どうやって帰るんだ?」

「タクシーを拾って帰りますよ。明日は朱莉さんがお母さんの面会に行く日なので俺が蓮の世話をする事になってるので。」

翔は上着を着ながら言った。

「ああ、分ったよ。今日は本当に有難な。」

「いいえ、それじゃまた落ち着いたら会いましょう。」

翔は店を出ると呟いた。

「全く・・・琢磨の奴め・・・勝手に一人で帰るなんて随分薄情になったものだ・・。」

そして翔はタクシーを拾う為に、繁華街へと足を向けた―。



 翌朝―

目が覚めた琢磨はすっかり頭の中がパニック状態になっていた。そこは見知らぬ部屋で、自分は何も服を着ていない状態でベッドの中にいた。そして隣には見知らぬ髪の長い女がこれまた裸で隣で眠っている。

(こ、これは・・・この状況は・・・どう考えても・・・。)

琢磨は頭を抱えてしまった。

昨夜、二次会の会場で翔と2人でウィスキーを飲んでいた処までは覚えている。問題なのはその後だ。

(何だ?一体・・あの後・・俺の身に何が起こった?大体・・・何だ?隣で眠っているこの派手な女は・・・?)

思い出そうとしても何一つ記憶が無い。ただ、分かることは今非常に自分がまずい立場にあると言う事だ。

(昨夜・・・何があったかなんて・・もう一目瞭然だ。くそっ・・・!)

琢磨はそっと相手の女の様子を伺った。派手な化粧にきつい香水の匂い・・・。何から何まで普段の自分なら絶対に相手にしないタイプの女だ。

(起きる気配はなさそうだな・・・。)

こうなると琢磨の取る行動は一つしかない。身体には女の香水の匂いが染みついて不快でしょうがないが、仮にシャワーを浴びている時に目を覚まされたら厄介なのは火を見るより明らかだ。

(逃げるしかない・・・っ!)

琢磨はそっとベッドから抜け出すと、床に落ちていた自分の服をかき集め、部屋の隅で音を立てないように着替え始めた。途中何度か女が寝返りを打つたびに、琢磨の心臓は止まりそうなほど跳ね上がったが、何とか服を着る事が出来た。
そして素早く辺りを見渡し、自分の持ち物が残されていないか見渡すと・・念の為にホテル代として2万円をテーブルの上に置いた。

(これではまるで金で女を買ったように思われるかもしれないが・・・断じてそんなつもりはないからなっ!これは・・あくまでホテル代だっ!)

誰に言い訳するでもなく1人納得すると、逃げるように部屋を飛び出した。

そしてホテルの外に出たところで、ようやく安堵のため息をついて、自分がいたホテルを確認して、驚いた。

「な、何て事だ・・・。お、俺が宿泊してるホテルじゃないか・・・。」

しかし、あの部屋は琢磨が宿泊していた部屋では無い。だが・・・。

(じょ、冗談じゃないっ!さっさとチェックアウトしないと・・あの女と鉢合わせしてしまうかもしれない!)

そこで慌てて琢磨はホテルに引き返し、自分の部屋へ戻って荷物を持つと急いでフロントへ行き、チェックアウトを済ませて再び逃げるようにホテルを飛び出した。

ようやく人心地着いたのはカフェでコーヒーを口にしてからだった。

(ふう~・・・・全く・・・俺はいくら酔っていたとはいえ・・・何であんな真似を・・しかも全く好みのタイプじゃないし・・。だが、本当に関係を持ってしまったのか?・・・くそっ!何一つ思い出せないなんて・・・。)

髪を掻き毟りながら琢磨は思った。これからどうしようと―。


朝10時―

昨夜は帰宅する時間が遅かった翔は、今日が日曜日と言う事もあり朝9時に起床し、洗濯を回しながら遅めの朝食を取っていると、突然スマホに着信が入って来た。

「誰だ?日曜の朝から・・。」

そして着信相手を見て驚いた。相手は琢磨からだったからである。

「あ!琢磨・・・!何だよ、今頃になって・・・。」

翔はスマホをタップした。

「もしもし。」

『翔かっ?!おい、今すぐお前の住んでるマンションに行かせてくれっ!』

「はあ・・?お前、突然何言ってるんだよ・・・。大体昨夜、お前・・・。」

『話ならお前のマンションへ行ってから聞くからっ!さっさと住所を教えろっ!』

電話越しから切羽詰まった琢磨の声が響いてくる。

「わ、分かった。今、お前どこにいるんだよ。」

『六本木の駅前だ。』

「そうか、そこからなら俺の住むマンションまで10分もあればつくな。いいか?住所は・・・・。」



「ふう・・・全く一体何だって言うんだ?琢磨の奴め・・・。」

翔は電話を切ると呟いた。

「まあいい。とりあえず・・・コーヒーでも来たらいれてやるか・・。」

そして翔はキッチンに向かった―。


しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

君が目覚めるまでは側にいさせて

結城芙由奈 
恋愛
大切な存在を失った千尋の前に突然現れた不思議な若者との同居生活。 <彼>は以前から千尋をよく知っている素振りを見せるも、自分には全く心当たりが無い。 子供のように無邪気で純粋な好意を寄せてくる<彼>をいつしか千尋も意識するようになり・・・。 やがて徐々に明かされていく<彼>の秘密。 千尋と<彼>の切ないラブストーリー

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

妹が好きな貴方を愛する私

青空一夏
恋愛
妹が好きな大樹君が気になる冴子は実は‥‥

処理中です...