上 下
269 / 355

8-8 結婚式 ③

しおりを挟む
 豪華な食事やスピーチ、今回の披露宴の為に作成した動画などが流され、披露宴は盛大に盛り上がり、幕を閉じた。

そして参加者たちは出口に立つ新郎新婦に挨拶をしながら式場を次々と出て行く。



「やあ、皆・・・今日は俺と静香の結婚式に参加してくれて本当に有難う。特に・・・九条、オハイオからわざわざ来てくれて感謝している。」

琢磨に笑みを浮かべながら二階堂は言った。真っ白なタキシード姿に身を包んだ背の高い美形の二階堂は正にモデルのようないでたちであった。
現に二階堂の姿に見惚れて、頬を赤く染めていいた女性客の何と多かった事か。
ドレスに身を包んだ姫宮も微笑みながら翔、琢磨、朱莉、修也を順番に見つめて頭を下げた。

「先輩、そんな事言ってくれるなら後1か月程日本に滞在してもいいですか?どうも向こうの水はあわなくて。」

琢磨が言うと、二階堂は真面目に言った。

「琢磨、来月も会社に籍を置いて置きたいなら不要な発言は控えるべきだな。」

ニヤリと笑いながら二階堂は言う。

「う・・・・!」

思わず琢磨が言葉に詰まると素早く姫宮が口を挟んできた。

「社長、その発言はパワハラに値しますよ?どうか不用意な発言は控えて下さい。」

「お、おい・・・静香、何だよ。披露宴の場で社長だなんて・・・お前は俺の秘書である前に妻になったんだろう?」

オロオロしたように言う二階堂に翔は笑いながら言った。

「ハハハ・・・まさに姫宮さ・・じゃなかった。静香さんらしい発言だ。先輩、せいぜい尻に敷かれて下さい。」

「ええ、そうさせて頂きます。」

ニッコリ微笑む姫宮に二階堂は翔に抗議した。

「おい、翔。余計な事を言って・・後で覚えてろよ!」

「本当に、先輩は妙に子供っぽい所がありますよね・・・。」

琢磨は肩をあげながら言った。すると今迄彼等の会話を黙って聞いていた修也が口を開いた。

「皆さん、とっても仲が良さそうで羨ましい限りですね。」

「そうか?なら・・各務君。君も二次会へ来ないかい?夜7時からこのホテルの近くのバーを貸し切りで行うんだよ。九条も鳴海も参加するし・・・どうかな?」

二階堂の提案に姫宮も頷いた。

「ええ、そうですね。是非各務さんも来てください。」

「ええ・・・?ですが・・・。」

修也は躊躇していると、二階堂は今度は朱莉を見た。

「え・・・と・・・、朱莉さんは・・・。」

すると朱莉は答えた。

「いえ、私はレンちゃんがいますので遠慮しておきます。どうぞ皆さんで楽しんで来てください。」

そしてスリングの中で眠っている蓮の頭をそっと撫でた。

「朱莉さん・・・。」

翔は朱莉に申し訳ない気持ちになってしまった。朱莉だってまだ若い。本来なら飲み会を楽しんでもおかしくはない年齢だ。だが、自分と明日香の子育てを朱莉に押して付けてしまっている。それが申し訳なくて翔は言った。

「朱莉さん、なら俺も二次会には出ないで帰るよ。」

しかし、朱莉は言った。

「いいえ、翔さん。私の事はお気になさらずにどうぞ二次会に参加して下さい。折角九条さんも帰国してきている事ですし・・。」

そして琢磨をチラリと見た。

「朱莉さん・・・。」

琢磨も朱莉を見た。朱莉は琢磨と翔の仲たがいをずっと気にしていた。出来れば2人のわだかまりが解け、また以前のような親友同士に戻って貰いたいと思っていた。

(そうよ、この二次会がきっと2人の仲を元通りにしてくれるはず・・。)

「そうか・・・そうだったね。何だか悪いね。朱莉さん。」

二階堂は申し訳なさそうに答える。姫宮もすまなそうな表情を浮かべていると修也が口を開いた。

「あの、僕も遠慮しておきます。」

「「え?」」

琢磨と二階堂が声を上げた。しかし、翔だけは黙っている。

「何故だい?各務君。」

「ええ、僕はまだ新参者ですし・・・何だか二次会に参加するのは場違いな気がして・・折角のお誘いなのに申し訳ございません。また別の機会に誘っていただければ幸いです。」

「そうだな、修也はまだ日が浅いからな。いいんじゃないか?どうせ参加しても知らない連中ばかりだろうし・・。」

どことなく冷たい物言いをする翔の事が朱莉は少し気になった。

(まただわ・・・翔先輩。何だか各務さんに対して冷たい態度を取っているように見えるけど・・どうしてなんだろう?)

「それじゃ、二次会が始まるまで控室で待っていてくれ。このフロアの下にホールを貸し切っているんだ。俺達も準備が終わったらそっちへ行くから。」

二階堂は翔と琢磨を見渡すと言った。

「はい、分かりました。」

「ええ。」

翔と琢磨が返事をすると、朱莉は二階堂と姫宮を見た。

「とても素敵な式でした。どうぞお幸せになって下さい。」

すると二階堂は言った。

「いや、お礼を言うのはこちらの方だよ。俺が静香と出会えたのはある意味朱莉さんのお陰と言っても過言ではないからね。こちらこそありがとう、朱莉さん。」

「朱莉さん・・・本当に兄の件で、朱莉さんには沢山迷惑をかけてしまってごめんなさい。でも、もう兄は日本にはいません。だから・・これからはどうかお幸せに暮らしてください。」

「静香さん・・・有難うございます。」

朱莉は深々と頭を下げると言った。

「それでは・・・お先に失礼しますね。」

「僕も失礼します。」

修也もお辞儀をすると、二階堂が言った。

「そうだ、各務君。朱莉さんを途中まで送ってあげてくれないか?」

修也は一瞬チラリと翔を見た後、返事をした。

「はい、分かりました。それでは一緒に参りましょうか?」

朱莉の方に向き直ると、修也は声を掛けた。

「は、はい。よろしくお願いします。」


そして、朱莉と修也が並んで歩いていくのを翔はじっと見送っていたが・・二階堂に視線を移すと言った。

「先輩・・・・恨みますよ・・・。」

「ええ、俺も翔と同じ意見です。」

琢磨もジロリと二階堂を睨み付けた。

「ええっ?!な、何だよ・・・お前達・・・よりにもよってこんなめでたい席でそんな事を言うなんて・・!」

そんな二階堂を見ながら姫宮は溜息をつくのだった—。



 一方、朱莉は修也と並んで歩きながらホテルの出口へと向かっていると突然修也が声を掛けてきた。

「朱莉さん、荷物・・お持ちしますよ。」

「え・・?ですが・・。」

しかし修也は右手を差し出すと言った。

「さあ、荷物・・・貸してください。」

「あ・・・有難うございます・・。」

朱莉は恥ずかしそうに修也に蓮の荷物が入ったままバッグを手渡した。すると修也が言った。

「あ・・・ほら、結構重いじゃないですか。赤ちゃんを抱っこしているのにいつもこんなに重い荷物を持ち歩いているんですか?」

再び歩き始めながら修也は朱莉に尋ねてきた。

「い、いえ・・いつもはこんなに沢山荷物を入れてこないのですけど・・・今日は朝から結婚式があったじゃないですか。なのでいつもよりも多めにおむつや粉ミルクを持ってきているので・・。それにしても・・・。」

朱莉は躊躇いながら言った。

「どうかしましたか?」

「何だか・・・かえって申し訳ありません。スーツを着ている男性に・・そ、そんなママバッグを持たせてしまって・・。」

修也が今持っているママバッグは、紺色のキルティングの大きなバッグでサテンのリボンがアクセントでついている。とても男性が持つようなバッグでは無い。

「いいんですよ、そんな事気にしないで。」

修也は笑みを浮かべながら言う。

「いえ、それだけじゃありませ・・・。先程の二次会の話も・・・本当は私が参加出来ないから・・各務さんもお断りしたのじゃありませんか?」

朱莉はあの時はっきり見たのだ。二次会の誘いを修也が断る時に、朱莉の顔をチラリと見たのを・・・。

「いえ・・・別にそんなつもりではなかったのですが・・・。」

いつの間にか、2人はホテルのエントランス迄やって来ていた。

「それなら・・・何処かでコーヒーでも飲んで帰りませんか?蓮ちゃんもまだ眠っているようですし・・・。」

修也は朱莉に尋ねた。

「はい・・・そうですね。」

朱莉は躊躇いがちに返事をした。

(どうしてなんだろう・・・この人を見ていると懐かしい気持ちになって来るのは・・もう少し、一緒にいたいと思ってしまうのは・・・。)

朱莉は自分の心の中に芽生えた気持ちに戸惑うのだった—。





しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

君が目覚めるまでは側にいさせて

結城芙由奈 
恋愛
大切な存在を失った千尋の前に突然現れた不思議な若者との同居生活。 <彼>は以前から千尋をよく知っている素振りを見せるも、自分には全く心当たりが無い。 子供のように無邪気で純粋な好意を寄せてくる<彼>をいつしか千尋も意識するようになり・・・。 やがて徐々に明かされていく<彼>の秘密。 千尋と<彼>の切ないラブストーリー

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

妹が好きな貴方を愛する私

青空一夏
恋愛
妹が好きな大樹君が気になる冴子は実は‥‥

処理中です...