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7-4 鳴海の血を引く者
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その日の朝―
翔が出勤してくると既に姫宮が出勤していた。何やら書類でも作成していたのか驚くべき速さでキーを叩いてた。
「おはよう、姫宮さん。」
「あ、おはようございます。翔さん。」
姫宮は手を休めて立ち上がると翔に挨拶をした。
「あの、翔さん。本日から翔さん付きの新しい秘書が参ります。翔さんと同い年の男性なのでお互いに仕事しやすいと思います。取りあえず臨時秘書と言う事ですので、半年だけの秘書にはなると思います。それで翔さん・・・。あの・・・。実は・・。」
姫宮は言いにくそうに言葉を濁した。そんな姫宮を見た翔は首を傾げた。
「どうしたんだい?姫宮さん。何かあるのか?」
「い、いえ・・・。あの・・・驚かないで下さいね?」
「え?何に?」
すると慌てたた様に姫宮は言った。
「あ、い・いえ。何でもありません。今、彼は秘書課におりますので、これからこちらへ連れて参りますね。では行ってきます。」
「あ、ああ。行ってらっしゃい。」
翔が言うと、姫宮はあたふたとオフィスを出ていった。そして1人になると翔は呟いた。
「一体・・・姫宮さんはどうしたと言うんだ?いつも冷静沈着なのに・・?らしくないな・・?」
それから約10分後―。
コンコン
ノックの音が聞こえ、ドアの外から姫宮の声が聞こえた。
「副社長。新しい秘書の方をお連れしました。入っても宜しいでしょうか?」
「ああ。大丈夫だ。通してくれ。」
「失礼します。」
姫宮はドアをガチャリと開けると1人の男性を伴って中へ入って来た。
「副社長、新しい秘書の方をお連れしました。」
「今日からよろしくお願い致します。」
姫宮の背後に立っていた男性は前に進み出て来ると翔を見て頭を下げた。その人物を見て翔は驚きの声を上げた。
「あ!お、お前は・・・っ?!」
話は今から2日前に遡る。
その日の夜―
姫宮はメールでやり取りをしていた後任の秘書となる男性と本社ビルの向かい側にあるカフェで待ち合わせをしていた。
窓際の一番奥のテーブル席。ここが相手の男性が指定してきた場所だ。約束の時間より10分程早く到着していた姫宮は席に着いて窓の外を眺めていると、不意に人の気配を感じ、声を掛けられた。
「すみません。恐れ入りますが・・姫宮さんでいらっしゃいますか?」
「あ、はい。姫宮で・・・す・・・。え・・・?」
姫宮は絶句した。
そこには翔によく似た男性が立っていたからだ。
「あ、あの・・・貴方がもしかして・・?」
姫宮は目を見開いて男性に尋ねた。
「はい。鳴海会長のご紹介でこの度姫宮さんの後任の秘書に選ばれた各務修也です。よろしくお願い致します。」
男性は優しい物腰で丁寧に挨拶をして来た。
「あ、ど・どうぞお掛け下さい。」
姫宮は慌てて各務に席を勧めた。
「はい、失礼致します。」
各務はニコニコしながら姫宮の向かい側に座った。姫宮は改めて各務をじっと見つめた。
(翔さんと似てる・・・。そっくりとまではいかないけれども・・・でも一瞬見間違えてしまう程によく似ているわ・・・。)
しかし、翔に比べると各務は物腰が柔らかく、優しい目元をしていた。あまりにも姫宮が見つめてくるので各務は照れ臭そうに言った。
「あ、あの・・・僕の顔に・・何かついていますか?」
「あ!い、いえっ!た・ただ・・あまりにも・・・。」
すると姫宮の言葉の後に各務が続けた。
「あまりにも・・・鳴海翔に似ていますか?」
「!もしかして・・・副社長の事を・・・ご存知・・なのですか・・?」
すると各務は答えた。
「ええ、勿論ですよ。何故なら彼と僕は・・・。」
各務の話に、再び姫宮は絶句するのだった—。
翔は姫宮が連れてきた各務修也を目の前にし、激しく動揺していた。
(修也・・・・何故お前が今頃になって現れるんだ?あれから10年も経つっていうのに・・!)
一方、修也も黙って翔を見つめている。その瞳は・・・どこか寂し気だった。黙ったまま互いを見つめ合う翔と修也を見て姫宮は声を掛けた。
「あ、あの・・・。」
すると翔が姫宮を見ると言った。
「すまない。姫宮さん・・・。彼と2人きりで少し話をしたいんだ。悪いけど・・30分程席を外して貰えないか?」
「はい、かしこまりました。」
姫宮は頭を下げると、その場を後にした。
2人きりになると翔が口を開いた。
「久しぶり・・・だな。修也。」
「うん・・10年ぶりだね。」
「今まで・・・ずっとどうしていたんだ?」
「お爺さんの紹介で色々なグループ系企業で働いて来たよ。去年まではカナダ支社にいたんだ。」
「修也!お爺さんじゃなくて会長と呼ぶように言われているだろう?」
翔はいつになく強い口調で言った。
「あ、ああ・・そう言えばそうだったね。ごめん・・翔。」
修也は申し訳なさそうに頭を下げた。
「だから・・・そうやってすぐに頭を下げるのはやめろ。・・お前だって・・鳴海家の正式な・・血筋の人間なんだから・・。」
「だけど僕は・・・。」
修也は言いかけたが翔が睨んでいるので口を閉ざした。
「お前・・・ひょっとしてずっと会長の元にいたのか?」
「ずっとじゃないよ。大学を卒業してからだよ・・・僕に声がかかったのは。」
「だけど・・・その後はずっと会長の元にいたんだろう?・・俺には内緒で・・。」
「・・・。」
「黙っているって事はそうなんだな。」
「ごめん・・・翔。会長には翔には絶対に言わないように口止めされていたから・・。」
「・・・っ!」
翔は悔しそうに唇を噛んだ。
(爺さんは・・・始めから俺以外に後継者を考えていたのか?!だから・・・修也の事を今まで内緒にしていたのか?父さんは・・・その事を知っていたのか・・?!)
その時、翔は肝心な事を思い出した。
「そうだ!修也!叔父さんは・・・今どうしてるんだ?」
「あ、ああ・・・。父さんは・・・今下請けの建設会社で社長をしているよ。かなり阿漕な事をして・・大分世間から恨みを買ってるみたいだよ。」
修也は項垂れた。
「叔母さんは元気なのか?」
「うん、元気にしてるよ。実は今回声がかかるまで僕は大阪支社にいたんだ。でも・・秘書の話が出てきて・・また東京に戻って来たから今は一緒に暮らしてるよ。」
「叔母さんは・・竜二叔父さんと会ってるのか?」
「多分もう会っていないと思うけど・・・。ごめん、良く知らなくて。」
「だから、謝るなって。」
翔は溜息をつくと言った。
「本当に・・・修也は相変わらずだな。叔父さんと同じ親子には見えないな。」
「そうだね・・・。会長にもよく言われてるよ。お前は父親には性格が似ていないって。むしろ・・・竜一叔父さんに似てるって言われてるよ。」
「父さんに・・・か・・。」
翔はポツリと言った。
「翔、言っておくけど僕は後継者には・・・。」
修也が言いかけると翔は言った。
「それを決めるのは・・・俺達じゃない。会長だろう?だが・・・。」
翔は修也を見ると言った。
「俺はお前に絶対負けない。俺が・・この会社を継ぐんだ。お前では無理だ。優しすぎるからな・・・。」
「翔・・・。僕は本当に鳴海グループを引き継ぐ気は無いよ。・・・陰で翔を支えるのが僕の務めだと思ってる。だから・・仲良くやっていこうよ。これからは翔の秘書になるんだから。」
「修也・・・。分かった。よろしく頼む。」
すると初めて修也は安堵の顔を浮かべた。
「ああ、良かった・・・。翔に僕が秘書になるのを拒否されたらどうしようかと心配していたけど・・安心したよ。あ、そう言えば翔。結婚したんだって?おめでとう。それで相手は・・。」
しかし、修也はそこまで言いかけて口を閉ざした。何故なら翔が物凄い目つきで睨み付けていたからだ。
「え・・・しょ、翔・・・?」
「いいか、修也。俺の秘書をするなら条件がある。」
「条件・・・?」
「ああ、そうだ。俺の妻の事を詮索するな。そして・・妻に・・俺の家族に関する一切に係わるな。分かったか?」
「わ、分かったよ・・・。翔。」
修也は翔の気迫に押されて、返事をした―。
翔が出勤してくると既に姫宮が出勤していた。何やら書類でも作成していたのか驚くべき速さでキーを叩いてた。
「おはよう、姫宮さん。」
「あ、おはようございます。翔さん。」
姫宮は手を休めて立ち上がると翔に挨拶をした。
「あの、翔さん。本日から翔さん付きの新しい秘書が参ります。翔さんと同い年の男性なのでお互いに仕事しやすいと思います。取りあえず臨時秘書と言う事ですので、半年だけの秘書にはなると思います。それで翔さん・・・。あの・・・。実は・・。」
姫宮は言いにくそうに言葉を濁した。そんな姫宮を見た翔は首を傾げた。
「どうしたんだい?姫宮さん。何かあるのか?」
「い、いえ・・・。あの・・・驚かないで下さいね?」
「え?何に?」
すると慌てたた様に姫宮は言った。
「あ、い・いえ。何でもありません。今、彼は秘書課におりますので、これからこちらへ連れて参りますね。では行ってきます。」
「あ、ああ。行ってらっしゃい。」
翔が言うと、姫宮はあたふたとオフィスを出ていった。そして1人になると翔は呟いた。
「一体・・・姫宮さんはどうしたと言うんだ?いつも冷静沈着なのに・・?らしくないな・・?」
それから約10分後―。
コンコン
ノックの音が聞こえ、ドアの外から姫宮の声が聞こえた。
「副社長。新しい秘書の方をお連れしました。入っても宜しいでしょうか?」
「ああ。大丈夫だ。通してくれ。」
「失礼します。」
姫宮はドアをガチャリと開けると1人の男性を伴って中へ入って来た。
「副社長、新しい秘書の方をお連れしました。」
「今日からよろしくお願い致します。」
姫宮の背後に立っていた男性は前に進み出て来ると翔を見て頭を下げた。その人物を見て翔は驚きの声を上げた。
「あ!お、お前は・・・っ?!」
話は今から2日前に遡る。
その日の夜―
姫宮はメールでやり取りをしていた後任の秘書となる男性と本社ビルの向かい側にあるカフェで待ち合わせをしていた。
窓際の一番奥のテーブル席。ここが相手の男性が指定してきた場所だ。約束の時間より10分程早く到着していた姫宮は席に着いて窓の外を眺めていると、不意に人の気配を感じ、声を掛けられた。
「すみません。恐れ入りますが・・姫宮さんでいらっしゃいますか?」
「あ、はい。姫宮で・・・す・・・。え・・・?」
姫宮は絶句した。
そこには翔によく似た男性が立っていたからだ。
「あ、あの・・・貴方がもしかして・・?」
姫宮は目を見開いて男性に尋ねた。
「はい。鳴海会長のご紹介でこの度姫宮さんの後任の秘書に選ばれた各務修也です。よろしくお願い致します。」
男性は優しい物腰で丁寧に挨拶をして来た。
「あ、ど・どうぞお掛け下さい。」
姫宮は慌てて各務に席を勧めた。
「はい、失礼致します。」
各務はニコニコしながら姫宮の向かい側に座った。姫宮は改めて各務をじっと見つめた。
(翔さんと似てる・・・。そっくりとまではいかないけれども・・・でも一瞬見間違えてしまう程によく似ているわ・・・。)
しかし、翔に比べると各務は物腰が柔らかく、優しい目元をしていた。あまりにも姫宮が見つめてくるので各務は照れ臭そうに言った。
「あ、あの・・・僕の顔に・・何かついていますか?」
「あ!い、いえっ!た・ただ・・あまりにも・・・。」
すると姫宮の言葉の後に各務が続けた。
「あまりにも・・・鳴海翔に似ていますか?」
「!もしかして・・・副社長の事を・・・ご存知・・なのですか・・?」
すると各務は答えた。
「ええ、勿論ですよ。何故なら彼と僕は・・・。」
各務の話に、再び姫宮は絶句するのだった—。
翔は姫宮が連れてきた各務修也を目の前にし、激しく動揺していた。
(修也・・・・何故お前が今頃になって現れるんだ?あれから10年も経つっていうのに・・!)
一方、修也も黙って翔を見つめている。その瞳は・・・どこか寂し気だった。黙ったまま互いを見つめ合う翔と修也を見て姫宮は声を掛けた。
「あ、あの・・・。」
すると翔が姫宮を見ると言った。
「すまない。姫宮さん・・・。彼と2人きりで少し話をしたいんだ。悪いけど・・30分程席を外して貰えないか?」
「はい、かしこまりました。」
姫宮は頭を下げると、その場を後にした。
2人きりになると翔が口を開いた。
「久しぶり・・・だな。修也。」
「うん・・10年ぶりだね。」
「今まで・・・ずっとどうしていたんだ?」
「お爺さんの紹介で色々なグループ系企業で働いて来たよ。去年まではカナダ支社にいたんだ。」
「修也!お爺さんじゃなくて会長と呼ぶように言われているだろう?」
翔はいつになく強い口調で言った。
「あ、ああ・・そう言えばそうだったね。ごめん・・翔。」
修也は申し訳なさそうに頭を下げた。
「だから・・・そうやってすぐに頭を下げるのはやめろ。・・お前だって・・鳴海家の正式な・・血筋の人間なんだから・・。」
「だけど僕は・・・。」
修也は言いかけたが翔が睨んでいるので口を閉ざした。
「お前・・・ひょっとしてずっと会長の元にいたのか?」
「ずっとじゃないよ。大学を卒業してからだよ・・・僕に声がかかったのは。」
「だけど・・・その後はずっと会長の元にいたんだろう?・・俺には内緒で・・。」
「・・・。」
「黙っているって事はそうなんだな。」
「ごめん・・・翔。会長には翔には絶対に言わないように口止めされていたから・・。」
「・・・っ!」
翔は悔しそうに唇を噛んだ。
(爺さんは・・・始めから俺以外に後継者を考えていたのか?!だから・・・修也の事を今まで内緒にしていたのか?父さんは・・・その事を知っていたのか・・?!)
その時、翔は肝心な事を思い出した。
「そうだ!修也!叔父さんは・・・今どうしてるんだ?」
「あ、ああ・・・。父さんは・・・今下請けの建設会社で社長をしているよ。かなり阿漕な事をして・・大分世間から恨みを買ってるみたいだよ。」
修也は項垂れた。
「叔母さんは元気なのか?」
「うん、元気にしてるよ。実は今回声がかかるまで僕は大阪支社にいたんだ。でも・・秘書の話が出てきて・・また東京に戻って来たから今は一緒に暮らしてるよ。」
「叔母さんは・・竜二叔父さんと会ってるのか?」
「多分もう会っていないと思うけど・・・。ごめん、良く知らなくて。」
「だから、謝るなって。」
翔は溜息をつくと言った。
「本当に・・・修也は相変わらずだな。叔父さんと同じ親子には見えないな。」
「そうだね・・・。会長にもよく言われてるよ。お前は父親には性格が似ていないって。むしろ・・・竜一叔父さんに似てるって言われてるよ。」
「父さんに・・・か・・。」
翔はポツリと言った。
「翔、言っておくけど僕は後継者には・・・。」
修也が言いかけると翔は言った。
「それを決めるのは・・・俺達じゃない。会長だろう?だが・・・。」
翔は修也を見ると言った。
「俺はお前に絶対負けない。俺が・・この会社を継ぐんだ。お前では無理だ。優しすぎるからな・・・。」
「翔・・・。僕は本当に鳴海グループを引き継ぐ気は無いよ。・・・陰で翔を支えるのが僕の務めだと思ってる。だから・・仲良くやっていこうよ。これからは翔の秘書になるんだから。」
「修也・・・。分かった。よろしく頼む。」
すると初めて修也は安堵の顔を浮かべた。
「ああ、良かった・・・。翔に僕が秘書になるのを拒否されたらどうしようかと心配していたけど・・安心したよ。あ、そう言えば翔。結婚したんだって?おめでとう。それで相手は・・。」
しかし、修也はそこまで言いかけて口を閉ざした。何故なら翔が物凄い目つきで睨み付けていたからだ。
「え・・・しょ、翔・・・?」
「いいか、修也。俺の秘書をするなら条件がある。」
「条件・・・?」
「ああ、そうだ。俺の妻の事を詮索するな。そして・・妻に・・俺の家族に関する一切に係わるな。分かったか?」
「わ、分かったよ・・・。翔。」
修也は翔の気迫に押されて、返事をした―。
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