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6-11 温泉施設での2人の会話

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 翌日の日曜日―

翔は二階堂に誘われて都内の大型温泉施設に来ていた。横になって2人並んで岩盤浴で汗を流していると、二階堂が話しかけてきた。

「悪かったな。折角の日曜日なのに呼び出してしまって。」

「いえ、いいんですよ。特に予定はありませんでしたから。」

タオルで汗を拭いながら翔が言う。

「何言ってるんだ。土日は朱莉さんとお前の子供と3人で過ごしているんだろう?」

顔の上半分にタオルを乗せた二階堂が口元に笑みを浮かべた。

「いえ・・生憎それは無いですね。残念な事に。」

「何故だ?土日位は3人で一緒に過ごそうと朱莉さんに声を掛ければいいじゃないか?」

「それが出来れば苦労はしませんよ。」

苦笑しながら翔は言った。

「・・・分からないな・・。何をそんなに気を使っているのか。書類上とはいえ、お前と朱莉さんは夫婦なんだろう?それに朱莉さんに気があるなら尚更声をかければいいのに。」

「ええ。だからこそ・・・余計に声を掛ける事が出来ないんです。」

「どういう事だ?」

「いずれ本当の家族になりたいから・・・警戒されたくないんですよ。もっと朱莉さんの信頼を得て・・朱莉さんも俺と家族になってもいいと思う感情が湧いてこない限り・・・無理ですよ。」

「ふ~ん・・・余程朱莉さんの事を大切に思っているんだな?」

言いながら二階堂は身体を起こした。

「先輩、何処へ行くんですか?」

翔はいきなり立ち上った二階堂に声を掛けた。

「少し露天風呂に入って来る。鳴海、お前はどうする?」

「俺は・・もう少しここにいますよ。」

「そうか、なら時間を決めて待ち合わせをしよう。11時半にカウンター前に集合だ。」

「はい、分かりました。」

「じゃあまた後でな。」

言うと二階堂は岩盤浴場を出て行った。1人残された翔は今朝出掛ける前の出来事を思い返していた—。



朝8時―

翔は朱莉に電話で話をしていた。

「朱莉さん。今日は何か・・・予定はあるのかい?」

『今日の予定ですか?そうですね・・・食料品の買い物もありませんし、ミルクやオムツも十分揃っているので・・とくには無いですね。でも日差しが今日は暖かいのでレンちゃんを連れてお散歩に出も行ってみようかと思っています。』

「あ、ああ・・。そうなのかい。」

(朱莉さん・・俺の予定は聞いてこないんだな・・。やはり俺には興味が無いって事か・・・。)

思わず小さくため息をつくと、朱莉に聞かれてしまったのか、翔に尋ねてきた。

『翔さん・・・ひょっとしてお疲れなんですか?』

「え?何故そう思うんだ?」

『いえ・・今ため息をついていたようだったので・・・。』

(まずい・・聞かれてしまったのか?)

「あ・・い、いや。まあ・・・多少は疲れているかな。それで実は今日は二階堂先輩と一緒に大型温泉施設に行く事になってるんだけど・・・。だから今日は・・。」

― 一緒に過ごす事は出来ない ―

その言葉を言おうとした矢先・・・。

『それは良かったですね!』

電話越しから朱莉の朗らかな声が聞こえてきた。

「え・・?」

『二階堂さんに誘われてたんですよね?疲れを取る為にも是非ごゆっくり過ごされて来て下さい。』

「あ、ああ・・・ありがとう。」



 そう言って電話を切ったのだが・・・。翔としては複雑な気分だった。気持ちよく送り出されるに越したことは無いが、出来れば少しくらいは引き留めて貰いたいと思っていた。自分達と過ごして欲しい・・・その言葉を密かに期待していたが、見事に期待を裏切られてしまった。

「まあ・・仕方が無いよな・・・俺は朱莉さんに散々酷い事をしてきたから・・信頼を得られるのはまだまだ先になりそうだ・・・。」

そして翔は溜息をついた―。


「ほら、鳴海。お前も車で来ていないんだから、酒飲めよ。」

お風呂上がりで赤ら顔の二階堂がテーブルに置かれたメニューを注文するタッチパネルを翔に渡すと言った。

「分かりました。先輩は何を注文するんですか?」

「俺か?それは当然ビールだろう?」

「そうですね。なら俺もビールにします。」

「ついでに何か適当に料理も頼んでくれ。」

「ええっ?!俺が勝手に注文してもいいんですか?」

翔の言葉に二階堂は少し考えると言った。

「ああ、任せるよ。でも・・そうだな・・・それじゃ取りあえず、だし巻き卵に鶏のから揚げ、ホッケの塩焼きにシーザーサラダ、焼きおにぎりに串揚げの盛り合わせを頼んで貰うかな。」

「・・・先輩。」

翔は二階堂を見た。

「うん?何だ?」

「もうそれだけ注文すれば十分ですよね?もうこれで頼むの終わりにしますよ?」

「え?それで終わりにするのか?なら追加で焼き鳥の盛り合わせと広島焼きを追加してくれ。」

「・・・・。」

翔は思わず唖然として二階堂を見た。

「どうした?鳴海?」

「い、いえ・・昔から女性に大人気の先輩が何故未だに独身なのか分かりましたよ。」

「おい、何だ未だにって?俺はまだ30歳だぞ?」

「ええ、でもその調子では40を過ぎても独身になりそうですね?先輩の胃袋を満たせそうな女性は中々見つからないと思いますよ?」

すると二階堂が冗談めかして言った。

「なーに。それならいざとなったらお前の契約婚が切れて、朱莉さんに捨てられたらお前の所に転がり込んで食事の世話になるさ。」

「先輩・・・今のは冗談にしては質が悪いですよ・・?」

翔は恨めしそうな目で二階堂を見るのだった―。



 やがて料理とビールがテーブルに届き、2人で食事をしながら翔が言った。

「あ、そうだ。先輩、言い忘れていましたが・・来月引っ越しする事にしたんですよ。」

「何?引っ越し?それはまた随分突然の話だな?」

二階堂はビールを飲みながら翔を見た。

「ええ、やはり京極の事がありますからね・・・。朱莉さんの為にも引っ越しする事にしたんです。」

「そうか、自分で物件を探したのか?」

二階堂はさり気なく尋ねた。

「いえ、違います。俺の秘書の姫宮さんに頼みました。彼女の知合いの不動産会社に勤めている女性に頼んで探して貰ったそうですよ。」

「何?!お前・・・秘書に引っ越し先を探して貰ったのか?!」

突然二階堂の目が険しくなった。

「え?ええ・・・。そうですけど・・・?」

「お前・・何でそんな事頼んだんだよ?」

「え・・?彼女の方から申し出てくれたので・・・。」

するとそれを聞いた二階堂は頭を押さえて深いため息をついた。

「鳴海・・・お前って奴は・・。」

「先輩?どうかしましたか?」

「おい、鳴海。今度・・お前の秘書に会わせろ。何か適当に話を作って俺の前に連れて来い。そうだな・・俺とお前の昼食会と言う名目でもあれば怪しまれないか?来週の日程で2時間ばかり都合が取れる日はあるか?」

「ええと・・水曜日なら時間は取れますけど・・・それよりも先輩。急にどうしたというんですか?姫宮さんがどうかしたのですか?」

訳が分からない翔は二階堂に尋ねた。

「翔・・落ち着いて良く聞けよ?俺は・・・お前の秘書が怪しいと思っている。」

「え・・?怪しい・・?一体どういう意味ですか?」

「おまえはすぐ態度に出る所があるからな・・。あまり話したくはないが・・・。」

二階堂が言い淀むが、翔は引き下がらない。

「何言ってるんですか?!俺の秘書ですよ?当然俺には知る権利がありますよ?」


「そうか・・・。」

二階堂は翔を見ると言った。

「姫宮静香・・・お前の秘書はひょっとすると京極と何か関係があるかもしれない。」

「!」

翔は二階堂の言葉に息を飲んだ―。
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