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5-2 琢磨と二階堂の秘密の会話

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 翌日―

 航は美幸と共に昨日設置した定点カメラを取りに白鳥の別荘付近に来ていた。そして植え込みの中に隠して置いたカメラを取り出すと美幸に言った。

「おい、美幸。誰かに見られる前に車に戻るぞ。」

しかし、美幸は航の声が聞こえていないのかうっとりと別荘を見つめている。

「いいな~素敵だな~こんな別荘・・・私も一度でいいから泊まってみたいな・・・。」

「全く・・・いつまでそうしているつもりなんだよ。早いとこ帰らないと・・・。」

その時、玄関の扉がガチャリと開かれる音がした。

「まずいっ!誰か出て来るっ!美幸、こっちだっ!」

航は美幸の腕を掴んで引き寄せると、2人で植え込みの中に隠れた。

「ねえ・・何でコソコソする必要があるの?」

美幸が不思議そうに聞いてくる。

「馬鹿ッ!静かにしていろっ!」

航は小声で注意すると、玄関から出て来た人物に注目し・・・息を飲んだ。

(え・・?ま、まさか・・・あれは・・・?!)

すると美幸もその人物に気が付いたのか、口を開いた。

「うわあ~すっごく綺麗な人・・・スラリとして細いし・・まるでモデルみたい・・。」

「あ・・・明日香・・・。」

気付けば航はその名を口にしていた。

「え?明日香・・・?明日香さんていうの?あの人の名前・・って言うか何故航君があの人の名前知って・・・?!」

そこで美幸は口を閉じた。何故なら航の顔色が真っ青になっていたからだ—。


 あの後、ホテルへ戻った航は定点カメラのチェックをしていた。美幸はしきりと何処かへ遊びに行こうと航を誘って来たが、遊びで来ている訳じゃないと一喝すると、美幸は大人しくなり、自分の部屋へと帰って行った。


 ようやく1人になり、静かになったところで航はリュックから機材を取り出し、定点カメラのチェックを始めた。映像の中には白鳥や明日香が出入りしている姿が何度も映し出されている。

(くっそ~・・・・京極の奴・・・俺には一切詳しい事情を明かさずに、ただ白鳥について調べろと言っておいて・・・本当の目的は明日香と白鳥の関係を調べさせる為だったのか・・・?)

そして航は京極の言った台詞を思い出していた―。



1週間前―

その電話は突然かかって来た。

「え?何だって・・・?突然電話を掛けて来たと思えば・・・調査依頼だって?」

『ああ。そうだよ。君に長野へ行って貰いたいんだ。野辺山高原にあるホテル・ハイネストの総支配人である白鳥誠也という男性の身上調査を行って欲しいんだ。』

「何の為に?」

『これから大事な取引先相手になりそうだからさ。兎に角彼に関わる者全てを調べて貰えないかい?』

「そんな曖昧な話じゃ受けられないな。ましてやもうあんたとは・・・関わりたくないんだよ。それじゃ切るからな?」

航は電話を切りかけた時・・・。

『取りあえず、初期費用として・・・前金100万支払うよ。』

「は?何だって?」

『それ以外に交通費・・・旅費・・・すべて含めて50万上乗せしよう。調査終了報酬は200万。どうだ?それ位あれば・・・安西家の調査会社も潤うんじゃないか?』

確かに驚くほどの高収入だ。航はいずれ独立を考えていた。だから・・・。

「分かったよ・・・。引き受けるよ。」

『そうか、それは助かるよ。あ、そうだ・・・必要があれば君はその自分で得た情報を他の誰かに報告、及び相談をしても構わないからね?いや・・むしろそっちの方が僕は助かるかな?』

航はその話に耳を疑った。

「は?お前・・・一体何を考えているんだ・・・?おいそれと他人の秘密を第三者に話せるはずは無いだろう?」

『いや・・勘の鋭い君になら・・僕の言わんとしている意味がすぐに分かると思うよ・・?』



「まさか・・・京極・・・知っていたんじゃないのか?明日香と白鳥が付き合っているんじゃないかって・・?それじゃ今、鳴海翔と朱莉の関係はどうなっているんだ・・?」

その時、航はクリスマス・イブの夜の事を思い出していた。あの時・・・翔はまるで航から朱莉を守るようにしっかり抱きしめていた。まさかあの翔が朱莉に対してあのような態度を取るとは思わなかった。だが、その一方・・・朱莉は翔の事を好きだったはずなのに、妙に冷静で・・・気に掛けるのは蓮の事だけだった。

「ひょっとすると・・・朱莉の気持ちは今はもう・・鳴海翔には向いていないんじゃないか・・?そして逆に鳴海翔は明日香に見切りをつけ・・朱莉に・・?」

(朱莉・・・もう一度だけ・・お前に会いたい・・・。会って・・鳴海翔の事を今はどう思っているのか・・確認したい・・!)

だが、航は朱莉のストーカー相手と言う事で姫宮が手を打ってあの場を収めた。だから航はどんなに朱莉に連絡を取りたくても、もうそれは叶わない願い。

(俺が朱莉に連絡を取れないのなら―。)

気付けば、航はスマホを握りしめていた—。




オハイオ州にある、琢磨のマンション―

まもなく日付が変わろうとしている頃、琢磨は1人ソファに座り、映画を観ながらスコッチを飲んでいた。やがて欠伸を噛み殺しながら琢磨は呟いた。

「そろそろ寝るか・・・明日からまた仕事だしな・・・。」

そして伸びをした時に、スマホに着信が入って来た。

「うん?誰からだ・・・?何だ・・航からじゃないか・・・。」

琢磨は少しだけ笑みを浮かべると、スマホをタップした。

『琢磨、元気にしているか?お前・・・いつまでそっちにいるんだよ。新年位は日本で過ごせないのか・・・。』

「全く、目上の者に無遠慮に物申して来るところ・・・相変わらずだな。」

琢磨は苦笑しながらメッセージを読み続け・・・・顔色が変わった。

「な・・・何だって・・・?!」

琢磨は震えながら航のメッセージを読んでいた。そこにはこう書かれていた。

『今、明日香は翔とは別居していて、明日香はホテル・ハイネストの総支配人<白鳥誠也>と同棲している。』

と・・・

「一体・・・これはどういう事なんだ・・・?」

琢磨は呆然とそのメッセージを見つめていた—。



 
「もしもし・・・。ああ、何だ?九条か?一体どうしたんだ?」

正月休みで自宅でくつろいでいた二階堂の元へ突然琢磨から電話がかかってきた。

『ハッピーニューイヤー。二階堂社長、御無沙汰しておりました』

「ああ。そうだな・・・しかし突然どうしたんだ?いきなり俺の個人番号に電話を掛けて来るなんて・・・。そっちで何か問題でもあったのか?」

『いえ、問題は何も起きていません。』

「そうか?なら一体何の用だ?そっちは日本と違って明日から仕事だろう?真夜中なんじゃないか?」

『ええ・・そうですね。真夜中の0時をとっくに回っていますよ。』

「急ぎの用事なのか?要件を言ってみろ?」

『ええ・・・。今月行われる記念式典・・私を代わりに参加させて貰えませんか?』

「・・・九条、本気で言ってるのか?そんな事・・許可出来るはず無いだろう?何の為にお前をアメリカへやったと思っているんだ?」

『・・分かっています・・・。』

「何かあったのか?」

『・・・個人的な事なので・・申し上げられません。』

二階堂は溜息をつくと言った。

「お前を参加させるわけにはいかないが・・・俺で良ければ力になるぞ?九条。」

『二階堂先輩・・・。』

「ハハハ・・・先輩か・・・。それで九条?お前は俺にどうして貰いたいんだ?」

『はい、実は・・・・。』


それから2人の会話は30分程続くのだった—。


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