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4-15 姫宮の言い分
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点灯式も無事終わり、翔は朱莉の元へ向かおうとした時、姫宮に声を掛けられた。
「お疲れさまでした、副社長。」
「あ、ああ・・・。それじゃ俺は朱莉さんの処へ行くから・・・。」
「お待ちください、副社長。」
翔が背を向けて歩き出そうとした時、姫宮が声を掛けた。
「姫宮さん、悪いけど今俺は朱莉さんに話が・・・。」
「はい、その件で私からお話があります。」
「え・・?その件て・・もしかするとさっきの男の件か?」
「はい、そうです。こちらでは少しお話ししにくい内容なので・・・受付のソファに移動しませんか?今の時間は殆ど人がおりませんので。それに・・朱莉様の耳にはあまり入れたくないお話ですので、少し別の場所でお待ちいただくよう伝えてまいります。」
姫宮はそれだけ告げると朱莉と蓮が座っている観客席ブースへと向かった。
「朱莉様。」
「姫宮さん・・・。こんばんは。」
朱莉は立ち上がって挨拶をした。
「朱莉様・・・大変な事になってしまいましたね。」
姫宮は同情心を露わに朱莉に話しかけてきた。
「ひ、姫宮さん・・・か、彼は・・・。」
朱莉は声を震わせた。
「いいのですよ、朱莉様。私には説明は不要ですから。」
まるで何もかも分かり切っているような口ぶりで姫宮は言った。
「朱莉様、副社長にはどう説明されるおつもりですか?」
「・・・。」
朱莉は黙ってしまった。何も妙案が思いつかなかったからだ。朱莉のそんな様子を見ていた姫宮が言った。
「私にお任せ下さい。副社長を納得させる理由を思いつきましたので。ただし朱莉様は後程副社長に何か言われても決して反論しないで下さいね。この件につきましては安西さんも納得されているので。」
「え?航君が・・・ですか?」
「はい、そうです。全て私に一任されましたから。今は朱莉様の立場を守るのが最優先ですから。」
姫宮の言葉に朱莉は尋ねた。
「な、何故・・・姫宮さんはいつもそうやって私を助けてくれるのですか・・?」
すると姫宮はフッと笑みを浮かべると言った。
「今はまだお話しできませんが・・・いずれはお話し致します。それまでは・・待っていて下さいね、朱莉様。外は冷えますので、一度第2ビルのロビーでお待ちください。私が副社長と話をしてまいります。」
そして姫宮は一礼すると急ぎ足で去って行った。
「姫宮さん・・・。」
(どうして貴女は・・・そこまで私の為に・・・?)
「レンちゃん。それじゃ寒いから中へ入ってパパが来るの待っていようね。」
朱莉は蓮をあやしながら、ビルの中へと入って行った―。
ここは姫宮が指定したロビーである。ソファに向かい合わせに座った姫宮と翔が話をしていた。
「何だってっ?!ストーカー?!」
翔は声を荒げた。
「お静かにして下さい。翔さん。誰かに聞かれてしまいます。」
姫宮は人目を伺うように小声で注意した。
「あ・・・ああ、すまなかった。つい驚いて・・。」
翔はソファに寄りかかりながらため息をついた。
「ちっとも知らなかった・・・。朱莉さんは俺に何の相談もしてくれなかったから・・。」
「恐らく心配を掛けさせてはまずいと思ったのではないでしょうか?所詮・・朱莉様は書類上の妻ですから。」
「書類上の・・・。」
(そうだ・・・俺が朱莉さんをこんな中途半端な位置に置いてしまったから・・俺ではきっと頼りにならないと思って・・相談をしてこなかったのかもしれない・・。)
「朱莉様が契約婚を始めた頃から、偶然町で見かけ・・・つけまわしていたそうです。・・・沖縄にまで押しかけていたようですね。」
「な・・何だってっ?!それって十分な犯罪だ・・・くそっ!訴えてやる・・・!」
翔はこぶしを握り締め、テーブルを叩いた。
「落ち着いて下さい。彼の行動がエスカレートしていたのは今まで翔さん・・貴方と会ったことが無かったからです。でも・・今夜翔さんと会って・・目が冷めたそうです。」
「あいつが・・・?そんな事を言ったのか・・?」
(本当の話だろうか・・・?あの男が朱莉さんを見る目は・・完全に男が女に惚れている目つきだったぞ・・?)
しかし、姫宮はきっぱりと言い切った。
「はい、もう金輪際朱莉様に二度と付きまとわないと約束しました。」
「しかし・・・やはり訴えたほうが・・・。」
「翔さん。それは我が社のスキャンダルに発展してしまいますよ?鳴海グループの御曹司の妻が・・・ストーキングされていたとなると、マスコミはどのように面白おかしく騒ぎ立てるか分かったものではありません。最悪、契約婚の事も公になってしまう可能性があります。訴えるのは得策ではありません。それに朱莉様も望んでおられないと思います。」
「朱莉さんが・・・?」
「はい、朱莉様はおとなしい方です。目立つのを極力恐れます。それに彼に約束させました。もしもう一度同じ行いをした場合は社会的制裁を与えると告げました。」
「社会的制裁・・・。」
「はい、鳴海グループの力を持ってすれば簡単な事だと思いますが、心優しい朱莉様はそれを望んではおられません。なので・・・今回の件はこれで全て解決済みです。」
「解決済み・・・。」
翔は姫宮の言葉を口の中で繰り返した。
「し、しかし・・・。」
翔が尚も言いよどむと、姫宮は言った。
「それに・・・元はと言えば、こうなったのは多少なりとも翔さんにも責任があると思いますが・・。」
姫宮の言葉は的を得ていた。
(そうだ・・・俺が契約妻の朱莉さんを今まで蔑ろにして・・・いわば彼女を放置状態にしていたから・・妙な男に付きまとわれたんだ・・。)
「そうだな・・・俺にも責任の一環はあるよな・・。」
「はい。だからあまり朱莉様を追及されないで下さい。いわば朱莉様はストーカーの被害者ですから・・・。」
「翔さん・・・まだ話終わらないのかな・・・。」
朱莉は第二ビルのロビーのソファで蓮にミルクをあげながら翔の来るのを待っていた。
蓮にミルクを与え、抱っこをしていると翔がガラス越しからこちらへ向かってやって来るのが目に入った。
翔も朱莉の姿に気が付いたのか手を振って笑顔でこちらへ向かって来る。
(え・・・?笑顔・・?な、何故・・?もっと機嫌悪い顔で来ると思っていたのに・・?)
「朱莉さん、お待たせ。」
翔は笑顔で朱莉の向かい側に座った。
「い、いえ・・大丈夫です。レンちゃんにミルクをあげていたので・・。」
「そうか・・・。それじゃ行こうか?」
翔はすぐに立ち上がった。
「え?あ・あの・・・行くってどこへ・・?」
「ああ・・実は小さい子供を連れても利用できる個室になっているレストランを予約してあるんだ。今日はクリスマス・イブだし・・・ね。」
「え・・?そうだったんですか・・?」
「それとも・・何か予定でもあったかな?」
「い、いえ。予定は別に何もありませんでした。」
「そうか・・・。なら良かった。去年の事も含めて今年はきちんとお祝いしたかったからね。」
「そう・・ですか・・。」
「蓮なら俺が抱くよ。」
「あ、ありがとうございます。」
朱莉は立ち上がり、蓮を翔に託した。
「よし、それじゃ行こうか。」
「は、はい。」
機嫌良さそうに隣を歩く翔を朱莉は見上げた。
(何故ですか・・?翔先輩・・・。何故何も聞かないのですか・・?姫宮さん・・・航君の事、翔先輩に、何て説明したのですか・・?)
翔が何も話してくれない分・・・朱莉の心は不安でいっぱいだった。
そして最後に見た航の悲し気な顔が朱莉の脳裏に焼き付いて離れなかった―。
「お疲れさまでした、副社長。」
「あ、ああ・・・。それじゃ俺は朱莉さんの処へ行くから・・・。」
「お待ちください、副社長。」
翔が背を向けて歩き出そうとした時、姫宮が声を掛けた。
「姫宮さん、悪いけど今俺は朱莉さんに話が・・・。」
「はい、その件で私からお話があります。」
「え・・?その件て・・もしかするとさっきの男の件か?」
「はい、そうです。こちらでは少しお話ししにくい内容なので・・・受付のソファに移動しませんか?今の時間は殆ど人がおりませんので。それに・・朱莉様の耳にはあまり入れたくないお話ですので、少し別の場所でお待ちいただくよう伝えてまいります。」
姫宮はそれだけ告げると朱莉と蓮が座っている観客席ブースへと向かった。
「朱莉様。」
「姫宮さん・・・。こんばんは。」
朱莉は立ち上がって挨拶をした。
「朱莉様・・・大変な事になってしまいましたね。」
姫宮は同情心を露わに朱莉に話しかけてきた。
「ひ、姫宮さん・・・か、彼は・・・。」
朱莉は声を震わせた。
「いいのですよ、朱莉様。私には説明は不要ですから。」
まるで何もかも分かり切っているような口ぶりで姫宮は言った。
「朱莉様、副社長にはどう説明されるおつもりですか?」
「・・・。」
朱莉は黙ってしまった。何も妙案が思いつかなかったからだ。朱莉のそんな様子を見ていた姫宮が言った。
「私にお任せ下さい。副社長を納得させる理由を思いつきましたので。ただし朱莉様は後程副社長に何か言われても決して反論しないで下さいね。この件につきましては安西さんも納得されているので。」
「え?航君が・・・ですか?」
「はい、そうです。全て私に一任されましたから。今は朱莉様の立場を守るのが最優先ですから。」
姫宮の言葉に朱莉は尋ねた。
「な、何故・・・姫宮さんはいつもそうやって私を助けてくれるのですか・・?」
すると姫宮はフッと笑みを浮かべると言った。
「今はまだお話しできませんが・・・いずれはお話し致します。それまでは・・待っていて下さいね、朱莉様。外は冷えますので、一度第2ビルのロビーでお待ちください。私が副社長と話をしてまいります。」
そして姫宮は一礼すると急ぎ足で去って行った。
「姫宮さん・・・。」
(どうして貴女は・・・そこまで私の為に・・・?)
「レンちゃん。それじゃ寒いから中へ入ってパパが来るの待っていようね。」
朱莉は蓮をあやしながら、ビルの中へと入って行った―。
ここは姫宮が指定したロビーである。ソファに向かい合わせに座った姫宮と翔が話をしていた。
「何だってっ?!ストーカー?!」
翔は声を荒げた。
「お静かにして下さい。翔さん。誰かに聞かれてしまいます。」
姫宮は人目を伺うように小声で注意した。
「あ・・・ああ、すまなかった。つい驚いて・・。」
翔はソファに寄りかかりながらため息をついた。
「ちっとも知らなかった・・・。朱莉さんは俺に何の相談もしてくれなかったから・・。」
「恐らく心配を掛けさせてはまずいと思ったのではないでしょうか?所詮・・朱莉様は書類上の妻ですから。」
「書類上の・・・。」
(そうだ・・・俺が朱莉さんをこんな中途半端な位置に置いてしまったから・・俺ではきっと頼りにならないと思って・・相談をしてこなかったのかもしれない・・。)
「朱莉様が契約婚を始めた頃から、偶然町で見かけ・・・つけまわしていたそうです。・・・沖縄にまで押しかけていたようですね。」
「な・・何だってっ?!それって十分な犯罪だ・・・くそっ!訴えてやる・・・!」
翔はこぶしを握り締め、テーブルを叩いた。
「落ち着いて下さい。彼の行動がエスカレートしていたのは今まで翔さん・・貴方と会ったことが無かったからです。でも・・今夜翔さんと会って・・目が冷めたそうです。」
「あいつが・・・?そんな事を言ったのか・・?」
(本当の話だろうか・・・?あの男が朱莉さんを見る目は・・完全に男が女に惚れている目つきだったぞ・・?)
しかし、姫宮はきっぱりと言い切った。
「はい、もう金輪際朱莉様に二度と付きまとわないと約束しました。」
「しかし・・・やはり訴えたほうが・・・。」
「翔さん。それは我が社のスキャンダルに発展してしまいますよ?鳴海グループの御曹司の妻が・・・ストーキングされていたとなると、マスコミはどのように面白おかしく騒ぎ立てるか分かったものではありません。最悪、契約婚の事も公になってしまう可能性があります。訴えるのは得策ではありません。それに朱莉様も望んでおられないと思います。」
「朱莉さんが・・・?」
「はい、朱莉様はおとなしい方です。目立つのを極力恐れます。それに彼に約束させました。もしもう一度同じ行いをした場合は社会的制裁を与えると告げました。」
「社会的制裁・・・。」
「はい、鳴海グループの力を持ってすれば簡単な事だと思いますが、心優しい朱莉様はそれを望んではおられません。なので・・・今回の件はこれで全て解決済みです。」
「解決済み・・・。」
翔は姫宮の言葉を口の中で繰り返した。
「し、しかし・・・。」
翔が尚も言いよどむと、姫宮は言った。
「それに・・・元はと言えば、こうなったのは多少なりとも翔さんにも責任があると思いますが・・。」
姫宮の言葉は的を得ていた。
(そうだ・・・俺が契約妻の朱莉さんを今まで蔑ろにして・・・いわば彼女を放置状態にしていたから・・妙な男に付きまとわれたんだ・・。)
「そうだな・・・俺にも責任の一環はあるよな・・。」
「はい。だからあまり朱莉様を追及されないで下さい。いわば朱莉様はストーカーの被害者ですから・・・。」
「翔さん・・・まだ話終わらないのかな・・・。」
朱莉は第二ビルのロビーのソファで蓮にミルクをあげながら翔の来るのを待っていた。
蓮にミルクを与え、抱っこをしていると翔がガラス越しからこちらへ向かってやって来るのが目に入った。
翔も朱莉の姿に気が付いたのか手を振って笑顔でこちらへ向かって来る。
(え・・・?笑顔・・?な、何故・・?もっと機嫌悪い顔で来ると思っていたのに・・?)
「朱莉さん、お待たせ。」
翔は笑顔で朱莉の向かい側に座った。
「い、いえ・・大丈夫です。レンちゃんにミルクをあげていたので・・。」
「そうか・・・。それじゃ行こうか?」
翔はすぐに立ち上がった。
「え?あ・あの・・・行くってどこへ・・?」
「ああ・・実は小さい子供を連れても利用できる個室になっているレストランを予約してあるんだ。今日はクリスマス・イブだし・・・ね。」
「え・・?そうだったんですか・・?」
「それとも・・何か予定でもあったかな?」
「い、いえ。予定は別に何もありませんでした。」
「そうか・・・。なら良かった。去年の事も含めて今年はきちんとお祝いしたかったからね。」
「そう・・ですか・・。」
「蓮なら俺が抱くよ。」
「あ、ありがとうございます。」
朱莉は立ち上がり、蓮を翔に託した。
「よし、それじゃ行こうか。」
「は、はい。」
機嫌良さそうに隣を歩く翔を朱莉は見上げた。
(何故ですか・・?翔先輩・・・。何故何も聞かないのですか・・?姫宮さん・・・航君の事、翔先輩に、何て説明したのですか・・?)
翔が何も話してくれない分・・・朱莉の心は不安でいっぱいだった。
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