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3-10 それぞれの会食後
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21時半―
会食も終わった頃、朱莉は猛に言った。
「あの、そろそろ失礼してもよろしいでしょうか?レンちゃんを寝かせつけてあげたいので。」
「ああ、そう言えばそうだったな。すまなかったね、楽しくてついこんな時間まで引き留めてしまって。」
「いえ、こちらこそお陰様で素敵な時間を過ごす事が出来ました。ありがとうございます。」
朱莉は頭を下げた。
「それでは僕も失礼します。朱莉さん、一緒に帰ろう。」
翔は朱莉に声をかけた。
「おい?翔・・・なんだ。今の言い方は?夫婦なんだから一緒に帰るのは当たり前だろう?」
猛に指摘されて、一瞬翔はハッとした顔つきになったが、すぐに冷静な表情で言った。
「いえ、今のはほんの言葉のあやですから、気にしないで下さい。」
「会長、それでは私も失礼致します。」
姫宮は深々と猛に挨拶をした。
「ああ、姫宮。これからも翔の事をよろしく頼む。」
「はい、承知致しました。」
「ところで翔、明日のお宮参りは何処の神社に行く事になったんだ?」
「え?え・・と・・それは・・・。」
(しまった・・・まずいぞ・・・。朱莉さんの事だからきっともう調べてあるだろうけど・・・何処の神社か確認していなかった。)
「水天宮に行く予定です。」
猛の突然の質問に翔は戸惑ったが、すぐに朱莉は答えた。
「なるほど。水天宮か・・・うん。確かあそこは安産祈願で有名な神社だったな。それにしても翔・・・。」
猛はジロリと翔を見た。
「お前・・・ひょっとすると朱莉さんに神社を探させたのか・・?」
「あ・・そ、それは・・・。」
翔が言い淀んだので、朱莉は咄嗟に言った。
「翔さんはお忙しい方なので、私が自分で調べると申し出たんです。」
「なんだ。そうだったのか?」
猛は朱莉に声を掛けると、次に翔の方を見た。
「翔・・・お前は少しここに残れ。話がある。」
猛は不機嫌そうに翔を見た。
「はい・・分かりました・・・。」
翔はグッと歯を食いしばるように返事をした。そんな2人の様子を見て朱莉は心配になってきた。
(大丈夫かな・・・?翔先輩・・・。)
すると朱莉は突然姫宮から声を掛けられた。
「朱莉様、それでは私達はお先に失礼しましょう。」
「え?で、でも・・・。」
すると猛が言った。
「大丈夫だ、朱莉さん。車の手配は姫宮がしてくれた。多分もう玄関前に着いてると思うぞ。」
「え?そうなんですか?!」
(すごい・・姫宮さん。いつの間に・・・。やっぱり・・とても優秀な秘書なんだ・・。)
朱莉は隣に立っている姫宮を尊敬の眼差しで見つめた—。
「それでは朱莉さん、明日はよろしく頼むよ。」
玄関まで朱莉と姫宮を見送りに来た猛が声を掛けて来た。
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
朱莉は丁寧に頭を下げた。
「それでは会長、副社長、失礼致します。」
姫宮も朱莉に続いて、挨拶をすると玄関から出て行った。
ドアが閉じられると猛が背後に立っていた翔に声を掛けた。
「翔、私の書斎まで付いて来い。」
「はい・・・。」
長い廊下を無言で歩き、猛は一つの部屋の前で止まるとドアを開けて、電気をつけた。
その部屋は猛の書斎である。20畳もある広い書斎に、高級書斎机と立派な肘掛椅子が備え付けてある。
その書斎にはさらに皮張りのソファの応接セットも置かれていた。猛はソファに座ると翔に声を掛けた。
「どうしたんだ?翔。お前も早く座れ。」
「・・失礼します。」
翔がソファに座ると、猛は口を開いた。
「翔・・・、お前・・・色々と蓮の事・・朱莉さんに任せきりなんじゃないか?」
猛の言葉に翔は一瞬冷や水を浴びせられた感覚を覚えた。
「い、いえ。自分ではそのようなつもりは・・・。」
「そうか?お前は自覚が無かったのか?」
「・・・。」
「朱莉さんに蓮の写真を何枚か見せて貰ったが・・・その写真には蓮しか写されていなかったぞ?普通、家族写真があってもいいと思わないか?朱莉さんにその事を尋ねたら、答えに困っていたな・・・。だからお前に尋ねる事にした。何故、お前達の家族写真が無い。いや。せめて朱莉さんが蓮を抱いている写真位はあってもいいんじゃないのか?」
翔を責めるような口調で猛は言った。
「・・・申し訳ございませんでした。色々・・・忙しかったもので、つい家族写真がおろそかになってしまいました。明日は・・・蓮の大切な行事ですので写真をきちんと撮ります。」
「・・・そうか。ところで翔。明日香は・・どうしてる?」
「え?」
翔は、どこか見透かしたかのような猛の目に思わず背筋が凍り付きそうになった―。
「朱莉様、今日はお疲れ様でした。」
車内で姫宮が朱莉に声を掛けてきた。
「はい・・・正直、会長にお会いするまでは緊張していましたが・・意外と気さくな方で安心しました。」
すると姫宮は笑みを浮かべながら言った。
「会長は・・・朱莉様の事を気に入られておりますからね。でもあの会長に気に入られるなんて、中々無い事なんですよ。朱莉様は凄い方ですね。」
「い、いえ!わ、私なんて姫宮さんに比べたら・・・。全然駄目な人間で・・・。」
「そんな事は無いですよ。朱莉様は努力家です。子育て教室に通った訳でも、誰からも子育ての方法を教わった事がなくても・・・きちんと蓮君を育てているじゃないですか。しかも誰の手も借りずに・・・。だから・・そんな朱莉様だからこそ・・。」
姫宮はそこで言葉を切った。
「姫宮さん・・・?」
「何があっても・・・朱莉様の身の保全はお守りしますね。」
「え?」
(姫宮さん・・突然何を言い出すの・・?)
朱莉は姫宮の意味深な言葉に戸惑ってしまった。
「姫宮さん、今の言葉の意味は・・・。」
朱莉が口を開きかけた時、姫宮が窓の外を見ると言った。
「朱莉様、到着しましたよ。」
気付くと、億ションが目の前にあった。姫宮に畳んでおいたベビーカーを広げて貰い、朱莉は眠っている蓮をそっとベビーカーに移すと姫宮を見た。
「本日は色々とお世話になりました。」
「いえ、こちらこそ、会長の突然の呼び出しに応じて頂き、感謝しております。あ・・そう言えば副社長から何かお預かりしましたか?」
「え?何の事でしょう?」
朱莉は首を傾げた。姫宮は朱莉の返事に一瞬顔色を変えたが・・すぐに元の表情に戻ると言った。
「いえ、私の勘違いだったようです。どうも申し訳ございませんでした。明日は蓮君のお宮参りですから、今夜はゆっくりお休み下さい。」
「はい、それでは失礼致します。」
朱莉は頭を下げるとエントランスの中へと入って行った―。
朱莉が億ションの中へ姿を消してから少しの間、姫宮はその場に留まっていた。
そしてスマホを取り出してタップし、耳に押し当てた。
「・・・・もしもし?今大丈夫?・・・ええ。さっき自宅まで送り届けてきたところよ。・・・そうね・・・特に大きな問題は起こらなかったわ。ええ・・そう言えば、少し面白い事があったのよ。・・・中に入れて。部屋で話すわ。それじゃまた後で。」
姫宮は電話を切ると、エントランスへ入ってゆき、オートロック機器の前に立つと部屋番後を押した。するとすぐにドアが開かれた。姫宮は素早く中へ入りこむと、エレベーターホールの前に立ち、ボタンを押して呼び出した。
程なくしてエレベーターが到着した。姫宮は乗り込むと、この階の最上階を押した。
「・・・。」
監視カメラから背を向ける形で姫宮はエレベーターで最上階に登った。
やがて・・・。
チーン
エレベータの到着音と共にドアが開かれる。エレベーターを降りると姫宮は迷うことなく進み、ある部屋番号の前で止まると呼び鈴を押した。
ガチャリ・・・。
ドアはすぐに開かれた。
「こんばんは。」
姫宮はその人物を見上げ、笑みを浮かべた—。
会食も終わった頃、朱莉は猛に言った。
「あの、そろそろ失礼してもよろしいでしょうか?レンちゃんを寝かせつけてあげたいので。」
「ああ、そう言えばそうだったな。すまなかったね、楽しくてついこんな時間まで引き留めてしまって。」
「いえ、こちらこそお陰様で素敵な時間を過ごす事が出来ました。ありがとうございます。」
朱莉は頭を下げた。
「それでは僕も失礼します。朱莉さん、一緒に帰ろう。」
翔は朱莉に声をかけた。
「おい?翔・・・なんだ。今の言い方は?夫婦なんだから一緒に帰るのは当たり前だろう?」
猛に指摘されて、一瞬翔はハッとした顔つきになったが、すぐに冷静な表情で言った。
「いえ、今のはほんの言葉のあやですから、気にしないで下さい。」
「会長、それでは私も失礼致します。」
姫宮は深々と猛に挨拶をした。
「ああ、姫宮。これからも翔の事をよろしく頼む。」
「はい、承知致しました。」
「ところで翔、明日のお宮参りは何処の神社に行く事になったんだ?」
「え?え・・と・・それは・・・。」
(しまった・・・まずいぞ・・・。朱莉さんの事だからきっともう調べてあるだろうけど・・・何処の神社か確認していなかった。)
「水天宮に行く予定です。」
猛の突然の質問に翔は戸惑ったが、すぐに朱莉は答えた。
「なるほど。水天宮か・・・うん。確かあそこは安産祈願で有名な神社だったな。それにしても翔・・・。」
猛はジロリと翔を見た。
「お前・・・ひょっとすると朱莉さんに神社を探させたのか・・?」
「あ・・そ、それは・・・。」
翔が言い淀んだので、朱莉は咄嗟に言った。
「翔さんはお忙しい方なので、私が自分で調べると申し出たんです。」
「なんだ。そうだったのか?」
猛は朱莉に声を掛けると、次に翔の方を見た。
「翔・・・お前は少しここに残れ。話がある。」
猛は不機嫌そうに翔を見た。
「はい・・分かりました・・・。」
翔はグッと歯を食いしばるように返事をした。そんな2人の様子を見て朱莉は心配になってきた。
(大丈夫かな・・・?翔先輩・・・。)
すると朱莉は突然姫宮から声を掛けられた。
「朱莉様、それでは私達はお先に失礼しましょう。」
「え?で、でも・・・。」
すると猛が言った。
「大丈夫だ、朱莉さん。車の手配は姫宮がしてくれた。多分もう玄関前に着いてると思うぞ。」
「え?そうなんですか?!」
(すごい・・姫宮さん。いつの間に・・・。やっぱり・・とても優秀な秘書なんだ・・。)
朱莉は隣に立っている姫宮を尊敬の眼差しで見つめた—。
「それでは朱莉さん、明日はよろしく頼むよ。」
玄関まで朱莉と姫宮を見送りに来た猛が声を掛けて来た。
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
朱莉は丁寧に頭を下げた。
「それでは会長、副社長、失礼致します。」
姫宮も朱莉に続いて、挨拶をすると玄関から出て行った。
ドアが閉じられると猛が背後に立っていた翔に声を掛けた。
「翔、私の書斎まで付いて来い。」
「はい・・・。」
長い廊下を無言で歩き、猛は一つの部屋の前で止まるとドアを開けて、電気をつけた。
その部屋は猛の書斎である。20畳もある広い書斎に、高級書斎机と立派な肘掛椅子が備え付けてある。
その書斎にはさらに皮張りのソファの応接セットも置かれていた。猛はソファに座ると翔に声を掛けた。
「どうしたんだ?翔。お前も早く座れ。」
「・・失礼します。」
翔がソファに座ると、猛は口を開いた。
「翔・・・、お前・・・色々と蓮の事・・朱莉さんに任せきりなんじゃないか?」
猛の言葉に翔は一瞬冷や水を浴びせられた感覚を覚えた。
「い、いえ。自分ではそのようなつもりは・・・。」
「そうか?お前は自覚が無かったのか?」
「・・・。」
「朱莉さんに蓮の写真を何枚か見せて貰ったが・・・その写真には蓮しか写されていなかったぞ?普通、家族写真があってもいいと思わないか?朱莉さんにその事を尋ねたら、答えに困っていたな・・・。だからお前に尋ねる事にした。何故、お前達の家族写真が無い。いや。せめて朱莉さんが蓮を抱いている写真位はあってもいいんじゃないのか?」
翔を責めるような口調で猛は言った。
「・・・申し訳ございませんでした。色々・・・忙しかったもので、つい家族写真がおろそかになってしまいました。明日は・・・蓮の大切な行事ですので写真をきちんと撮ります。」
「・・・そうか。ところで翔。明日香は・・どうしてる?」
「え?」
翔は、どこか見透かしたかのような猛の目に思わず背筋が凍り付きそうになった―。
「朱莉様、今日はお疲れ様でした。」
車内で姫宮が朱莉に声を掛けてきた。
「はい・・・正直、会長にお会いするまでは緊張していましたが・・意外と気さくな方で安心しました。」
すると姫宮は笑みを浮かべながら言った。
「会長は・・・朱莉様の事を気に入られておりますからね。でもあの会長に気に入られるなんて、中々無い事なんですよ。朱莉様は凄い方ですね。」
「い、いえ!わ、私なんて姫宮さんに比べたら・・・。全然駄目な人間で・・・。」
「そんな事は無いですよ。朱莉様は努力家です。子育て教室に通った訳でも、誰からも子育ての方法を教わった事がなくても・・・きちんと蓮君を育てているじゃないですか。しかも誰の手も借りずに・・・。だから・・そんな朱莉様だからこそ・・。」
姫宮はそこで言葉を切った。
「姫宮さん・・・?」
「何があっても・・・朱莉様の身の保全はお守りしますね。」
「え?」
(姫宮さん・・突然何を言い出すの・・?)
朱莉は姫宮の意味深な言葉に戸惑ってしまった。
「姫宮さん、今の言葉の意味は・・・。」
朱莉が口を開きかけた時、姫宮が窓の外を見ると言った。
「朱莉様、到着しましたよ。」
気付くと、億ションが目の前にあった。姫宮に畳んでおいたベビーカーを広げて貰い、朱莉は眠っている蓮をそっとベビーカーに移すと姫宮を見た。
「本日は色々とお世話になりました。」
「いえ、こちらこそ、会長の突然の呼び出しに応じて頂き、感謝しております。あ・・そう言えば副社長から何かお預かりしましたか?」
「え?何の事でしょう?」
朱莉は首を傾げた。姫宮は朱莉の返事に一瞬顔色を変えたが・・すぐに元の表情に戻ると言った。
「いえ、私の勘違いだったようです。どうも申し訳ございませんでした。明日は蓮君のお宮参りですから、今夜はゆっくりお休み下さい。」
「はい、それでは失礼致します。」
朱莉は頭を下げるとエントランスの中へと入って行った―。
朱莉が億ションの中へ姿を消してから少しの間、姫宮はその場に留まっていた。
そしてスマホを取り出してタップし、耳に押し当てた。
「・・・・もしもし?今大丈夫?・・・ええ。さっき自宅まで送り届けてきたところよ。・・・そうね・・・特に大きな問題は起こらなかったわ。ええ・・そう言えば、少し面白い事があったのよ。・・・中に入れて。部屋で話すわ。それじゃまた後で。」
姫宮は電話を切ると、エントランスへ入ってゆき、オートロック機器の前に立つと部屋番後を押した。するとすぐにドアが開かれた。姫宮は素早く中へ入りこむと、エレベーターホールの前に立ち、ボタンを押して呼び出した。
程なくしてエレベーターが到着した。姫宮は乗り込むと、この階の最上階を押した。
「・・・。」
監視カメラから背を向ける形で姫宮はエレベーターで最上階に登った。
やがて・・・。
チーン
エレベータの到着音と共にドアが開かれる。エレベーターを降りると姫宮は迷うことなく進み、ある部屋番号の前で止まると呼び鈴を押した。
ガチャリ・・・。
ドアはすぐに開かれた。
「こんばんは。」
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