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8-5 小さな疑念
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時間は今を遡る事2時間前―。
「それにしても・・・驚きましたよ。会長・・・。突然日本へ戻って来られたのですから。」
応接室に呼ばれた翔は祖父であり、鳴海グループの会長である鳴海猛と向かい合わせに座り、会話をしていた。
ここは鳴海邸。
突然一時帰国して来た鳴海猛が翔を邸宅に呼びつけたのだ。
「何故だ?いきなり日本に帰国すると何かお前に不都合でもあるのか?」
相変わらず威厳たっぷりに猛は翔に言う。
「いえ、別にそういう訳ではありませんが。」
翔は内心の焦りを隠しながら冷静に対応する。
「まあ・・・帰国と言っても一時的だ。中国支社にいたから、日本に久々に立ち寄っただけだ。2日後にはカルフォルニアへ行かなければならない。」
「カルフォルニア・・・ですか。これはまた随分遠くへ行かれますね。」
「ああ。最近あの地域は他の日本企業も多く進出しているからな・・負けられない。実は現地で1500人の雇用を考えているのだ。・・どうだ、翔?お前・・カルフォルニアへ行く気はあるか?」
猛の提案に翔は驚いた。
「え?そ、それは・・・。」
(そんな・・・今の状況で日本を離れるなんて・・・!)
「ハハハ・・・冗談だ。責任者は現地で調達するからお前は気にする事は無い。だが・・・いずれはお前にも海外支社を任す事になるかもしれんな。この通り、私はまだまだ身体は元気だ。当分現役で働けそうだからな。まあ・・・最もお前がこの先、より一層成長すれば・・・引退を考えてもいいだろう。可愛い曾孫も産まれる事だしな?」
猛は何処か目の奥を光らせ、翔を見た。
「そうですね。順調にいけば5か月後には・・・曾孫を抱かせてあげる事が出来ますよ。」
動揺を隠しながら翔は笑顔で猛に言う。
「それで・・・・朱莉さんは沖縄にいるそうだが・・・何故だ?」
突然の核心を突いてくる猛の言葉に翔の全身に一気に緊張が走る。
するとその時、まるでタイミングを見計らったかのようにドアをノックする音が聞こえた。
「誰だね?」
猛がドア越しに声を掛けると、外から女性の声が答えた。
「姫宮でございます。」
「ああ、君か・・・。入れ。」
会長が促すとドアが開かれ、翔の新しい秘書である姫宮静香が現れた。
「お久しぶりでございます、会長。」
「ああ・・・そうだな。どうだ?姫宮。翔の新しい秘書になって・・。何か意見はあるか?」
猛は両手を組むと声を掛けて来た。
「はい、まだお若いながら・・・中々のやり手のお方だと感じました。私もこの方の下で色々学ぶ事が出来そうです。」
姫宮は深々と頭を下げて猛に答える。
「どうだ、翔。彼女は優秀な秘書だろう?私の元で3年間秘書室で仕事をしていたからな。是非、お前の元で今度は仕事をさせたいと思い、彼女を推薦したのだから。」
猛は翔を見た。
「はい、確かに彼女はとても優秀です。お陰でこちらも色々と手助けをしてもらっています。」
翔はチラリと姫宮を見ながら言う。
「それで・・・一体何の用事かね?」
猛は姫宮に尋ねた。
「会長、副社長。そろそろ出発された方がよろしいかと思います。取引先の社長も出発されたそうですし、ホテル側も準備は整っておりますのでいつでもお越し下さいと連絡を頂いております。」
「おお、そうか。もうそんな時間だったのか・・・。よし、少し書斎に資料を残してきたから今取って来る。先に行ってるぞ。」
そして猛は後ろに影のように付き従っている2名の男性と共に、応接室を出て行った。
猛の去った後、応接室に取り残された翔はまだそこに残っている姫宮に声を掛けた。
「ありがとう・・・。助かったよ。」
「いえ、とんでもございません。これも秘書の務めですから。ですが・・・。」
姫宮は声のトーンを落とすと囁くように言った。
「会長に怪しまれない為にも・・・もっと足場を固めておくべきです。いざという時、完璧な言い訳を作っておかないと・・・何者かに足元を掬われかねませんので。」
「ああ・・・。分かってる。でも明日香を沖縄に置いてきたのは・・・正解だったかもな。」
「そうですね。その為にも・・・会長が日本にいらっしゃる間は明日香様との連絡はこのまま取らないようにして下さい。」
「しかし・・・本当にそれで大丈夫なのか?逆に明日香が不安がって連絡を入れて来るような気がするのだが・・・。」
すると姫宮は妖艶な笑みを浮かべると言った。
「いいえ・・・恐らく明日香様からの連絡は来ないと思います。これは・・同じ女としての・・直感です。」
「直観・・・・。」
翔は姫宮の言葉を繰り返した。
「はい、そうです。それでは翔様。そろそろ参りましょう。会長に・・・妙に疑われる前に・・・。」
そして再び姫宮は笑みを浮かべた—。
プルルルル・・・・。
駅に向かって歩いている時に朱莉のスマホが突然鳴り、その音に驚いた朱莉の肩がピクリと跳ねた。
「い、一体こんな時間に誰から・・・?」
朱莉は足を止めると、スマホを取り出して息を飲んだ。
(そ、そんな・・京極さん・・・?な、何故突然・・・。)
京極には明日電話を入れるとメッセージを送ってある。なのに京極から電話がかかって来るとは朱莉は思ってもいなかった。
(どうしよう・・・。このまま電話が切れるのを待つ?でも・・・そうすると京極さんをますます心配にさせてしまう・・。)
仕方が無い。出るしか無いだろう・・・そう思った朱莉は通話をタップした。
「はい、もしもし・・。」
『朱莉さん!ああ・・・やっと出てくれた。心配しましたよ。いつもすぐに電話に出てくれる朱莉さんが・・・何コール鳴っても中々出てくれなかったので・・・。』
受話器越しから京極の安堵の声が聞こえて来る。
「申し訳ございませんでした。」
朱莉は素直に謝罪する。
『朱莉さん・・・貴女の顔を見ながらお話したいのですが・・・。』
「すみません!今は無理ですっ!」
京極の提案に思わず朱莉は強い口調で断ってしまった。
『え・・?朱莉さん・・・。何故ですか・・・?』
京極の声は・・・驚きと、何処か悲しみが含まれているように聞こえた。
「あ、あの・・すみません。きつい言い方になってしまって・・・。じ、実は今・・・外にいるんです。」
『え?何ですって・・・?こんな夜分にですか・・?』
京極の声が何処か鋭くなった。
(朱莉さん・・・まさか・・・さっきの後姿・・・ひょっとすると・・・?)
「あ、あの・・・コンビニに来ているんです。何だか・・・お酒が飲みたい気分になって・・それで買いにマンションを出て来たんです。」
朱莉は必死で言いわけをする。
『そうですか・・・だから外が騒がしいんですね・・・。でも朱莉さん。あまり夜分女性が町中を歩く物ではありませんよ?特に朱莉さんは一目を引く容姿をしているのですから・・・変な男に声を掛け兼ねられない。』
「な、何をまたおかしな事を言うのですか?わ、私は平凡な容姿ですよ。」
朱莉は赤面しながら言う。
『朱莉さんは・・・自分がどれだけ魅力的な外見をしているのか・・・ご自分で気付かれていないのですね。もう一度鏡で良くお顔を御覧になってみて下さい。』
どうしたのだろう・・・?今夜の京極は何だかいつもと違うように朱莉には感じた。
「京極さん・・・もしかすると・・酔ってらっしゃいますか?」
『何故・・・そう思うのですか?』
「い、いえ・・。何となくそう思っただけです。」
『そうですね・・・。仰る通り少し酔いが回っているかもしれません・・。これ以上変な事を口走る前に・・・電話を切りますね。朱莉さんも・・早く家に帰って下さい。お休みなさい。』
「はい、お休みなさい・・・。」
するとスマホから電話を切る音が聞こえた。
朱莉は溜息をつき、夜空を見上げると呟いた。
「すみません。京極さん・・・嘘をついて・・。」
そして再び朱莉は駅に向かって足早に歩き始めた—。
「それにしても・・・驚きましたよ。会長・・・。突然日本へ戻って来られたのですから。」
応接室に呼ばれた翔は祖父であり、鳴海グループの会長である鳴海猛と向かい合わせに座り、会話をしていた。
ここは鳴海邸。
突然一時帰国して来た鳴海猛が翔を邸宅に呼びつけたのだ。
「何故だ?いきなり日本に帰国すると何かお前に不都合でもあるのか?」
相変わらず威厳たっぷりに猛は翔に言う。
「いえ、別にそういう訳ではありませんが。」
翔は内心の焦りを隠しながら冷静に対応する。
「まあ・・・帰国と言っても一時的だ。中国支社にいたから、日本に久々に立ち寄っただけだ。2日後にはカルフォルニアへ行かなければならない。」
「カルフォルニア・・・ですか。これはまた随分遠くへ行かれますね。」
「ああ。最近あの地域は他の日本企業も多く進出しているからな・・負けられない。実は現地で1500人の雇用を考えているのだ。・・どうだ、翔?お前・・カルフォルニアへ行く気はあるか?」
猛の提案に翔は驚いた。
「え?そ、それは・・・。」
(そんな・・・今の状況で日本を離れるなんて・・・!)
「ハハハ・・・冗談だ。責任者は現地で調達するからお前は気にする事は無い。だが・・・いずれはお前にも海外支社を任す事になるかもしれんな。この通り、私はまだまだ身体は元気だ。当分現役で働けそうだからな。まあ・・・最もお前がこの先、より一層成長すれば・・・引退を考えてもいいだろう。可愛い曾孫も産まれる事だしな?」
猛は何処か目の奥を光らせ、翔を見た。
「そうですね。順調にいけば5か月後には・・・曾孫を抱かせてあげる事が出来ますよ。」
動揺を隠しながら翔は笑顔で猛に言う。
「それで・・・・朱莉さんは沖縄にいるそうだが・・・何故だ?」
突然の核心を突いてくる猛の言葉に翔の全身に一気に緊張が走る。
するとその時、まるでタイミングを見計らったかのようにドアをノックする音が聞こえた。
「誰だね?」
猛がドア越しに声を掛けると、外から女性の声が答えた。
「姫宮でございます。」
「ああ、君か・・・。入れ。」
会長が促すとドアが開かれ、翔の新しい秘書である姫宮静香が現れた。
「お久しぶりでございます、会長。」
「ああ・・・そうだな。どうだ?姫宮。翔の新しい秘書になって・・。何か意見はあるか?」
猛は両手を組むと声を掛けて来た。
「はい、まだお若いながら・・・中々のやり手のお方だと感じました。私もこの方の下で色々学ぶ事が出来そうです。」
姫宮は深々と頭を下げて猛に答える。
「どうだ、翔。彼女は優秀な秘書だろう?私の元で3年間秘書室で仕事をしていたからな。是非、お前の元で今度は仕事をさせたいと思い、彼女を推薦したのだから。」
猛は翔を見た。
「はい、確かに彼女はとても優秀です。お陰でこちらも色々と手助けをしてもらっています。」
翔はチラリと姫宮を見ながら言う。
「それで・・・一体何の用事かね?」
猛は姫宮に尋ねた。
「会長、副社長。そろそろ出発された方がよろしいかと思います。取引先の社長も出発されたそうですし、ホテル側も準備は整っておりますのでいつでもお越し下さいと連絡を頂いております。」
「おお、そうか。もうそんな時間だったのか・・・。よし、少し書斎に資料を残してきたから今取って来る。先に行ってるぞ。」
そして猛は後ろに影のように付き従っている2名の男性と共に、応接室を出て行った。
猛の去った後、応接室に取り残された翔はまだそこに残っている姫宮に声を掛けた。
「ありがとう・・・。助かったよ。」
「いえ、とんでもございません。これも秘書の務めですから。ですが・・・。」
姫宮は声のトーンを落とすと囁くように言った。
「会長に怪しまれない為にも・・・もっと足場を固めておくべきです。いざという時、完璧な言い訳を作っておかないと・・・何者かに足元を掬われかねませんので。」
「ああ・・・。分かってる。でも明日香を沖縄に置いてきたのは・・・正解だったかもな。」
「そうですね。その為にも・・・会長が日本にいらっしゃる間は明日香様との連絡はこのまま取らないようにして下さい。」
「しかし・・・本当にそれで大丈夫なのか?逆に明日香が不安がって連絡を入れて来るような気がするのだが・・・。」
すると姫宮は妖艶な笑みを浮かべると言った。
「いいえ・・・恐らく明日香様からの連絡は来ないと思います。これは・・同じ女としての・・直感です。」
「直観・・・・。」
翔は姫宮の言葉を繰り返した。
「はい、そうです。それでは翔様。そろそろ参りましょう。会長に・・・妙に疑われる前に・・・。」
そして再び姫宮は笑みを浮かべた—。
プルルルル・・・・。
駅に向かって歩いている時に朱莉のスマホが突然鳴り、その音に驚いた朱莉の肩がピクリと跳ねた。
「い、一体こんな時間に誰から・・・?」
朱莉は足を止めると、スマホを取り出して息を飲んだ。
(そ、そんな・・京極さん・・・?な、何故突然・・・。)
京極には明日電話を入れるとメッセージを送ってある。なのに京極から電話がかかって来るとは朱莉は思ってもいなかった。
(どうしよう・・・。このまま電話が切れるのを待つ?でも・・・そうすると京極さんをますます心配にさせてしまう・・。)
仕方が無い。出るしか無いだろう・・・そう思った朱莉は通話をタップした。
「はい、もしもし・・。」
『朱莉さん!ああ・・・やっと出てくれた。心配しましたよ。いつもすぐに電話に出てくれる朱莉さんが・・・何コール鳴っても中々出てくれなかったので・・・。』
受話器越しから京極の安堵の声が聞こえて来る。
「申し訳ございませんでした。」
朱莉は素直に謝罪する。
『朱莉さん・・・貴女の顔を見ながらお話したいのですが・・・。』
「すみません!今は無理ですっ!」
京極の提案に思わず朱莉は強い口調で断ってしまった。
『え・・?朱莉さん・・・。何故ですか・・・?』
京極の声は・・・驚きと、何処か悲しみが含まれているように聞こえた。
「あ、あの・・すみません。きつい言い方になってしまって・・・。じ、実は今・・・外にいるんです。」
『え?何ですって・・・?こんな夜分にですか・・?』
京極の声が何処か鋭くなった。
(朱莉さん・・・まさか・・・さっきの後姿・・・ひょっとすると・・・?)
「あ、あの・・・コンビニに来ているんです。何だか・・・お酒が飲みたい気分になって・・それで買いにマンションを出て来たんです。」
朱莉は必死で言いわけをする。
『そうですか・・・だから外が騒がしいんですね・・・。でも朱莉さん。あまり夜分女性が町中を歩く物ではありませんよ?特に朱莉さんは一目を引く容姿をしているのですから・・・変な男に声を掛け兼ねられない。』
「な、何をまたおかしな事を言うのですか?わ、私は平凡な容姿ですよ。」
朱莉は赤面しながら言う。
『朱莉さんは・・・自分がどれだけ魅力的な外見をしているのか・・・ご自分で気付かれていないのですね。もう一度鏡で良くお顔を御覧になってみて下さい。』
どうしたのだろう・・・?今夜の京極は何だかいつもと違うように朱莉には感じた。
「京極さん・・・もしかすると・・酔ってらっしゃいますか?」
『何故・・・そう思うのですか?』
「い、いえ・・。何となくそう思っただけです。」
『そうですね・・・。仰る通り少し酔いが回っているかもしれません・・。これ以上変な事を口走る前に・・・電話を切りますね。朱莉さんも・・早く家に帰って下さい。お休みなさい。』
「はい、お休みなさい・・・。」
するとスマホから電話を切る音が聞こえた。
朱莉は溜息をつき、夜空を見上げると呟いた。
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