上 下
196 / 217

7-10 その頃の彼ら 2

しおりを挟む
「伯爵の話だと、ジェニファーはジェニーにそっくりだそうじゃないか。結婚式でしか会ったことが無いけれど、ものすごい美女だったからな。亡くなってしまったと聞いた時は、実に勿体ないと思ったよ。でも兄上もやるな~今度はジェニーの従姉妹を後妻にするのだから。伯爵はジェニファーのことを金に眼が眩んだ悪女だと言っていたけれども……ん? どうしたシド。随分恐ろしい目で睨みつけてくるじゃないか」

シドの鋭い眼差しに怯むことなく、のんびりと膝を組むパトリック。

「ジェニファー様は伯爵が言うような、悪女なんかではありません。亡くなった相手をどうこう言うのは気が引けますが、俺から言わせるとむしろ悪女はジェニー様の方だと思います」

怒りを抑えつつ、シドは反論する。

「何ですって? よりにもよってジェニーを私たちの前で悪女呼ばわりするとは、いい度胸をしているじゃない? ニコラスが愛妻家だったことを私たちが知らないとでも思っているの? 今の話をニコラスが知ったらどう思うかしら?」

勝ち誇ったかのような表情を浮かべるイボンヌに対し、パトリックは面白そうに笑みを浮かべる。

「ふ~ん……随分ジェニファーの肩を持つんだな? 使用人達の話によると、随分兄上から冷遇されていると聞かされていたけれど」

「その使用人達とは、ニコラス様がクビにした者達のことですよね? でもここでは違います。今では誰もがジェニファー様を大切に思っていますから」

「君もか?」

「……どういうことです?」

「君は他人に全く関心を寄せない男だと思っていたが……どうやら、ジェニファーという女性は、君にとって特別な存在なんじゃないか?」

「一体何を……」

シドが眉を顰めたその時。

『ウワアアアアンッ! マァマッ! マァマ~ッ!』

ジョナサンの激しい鳴き声がこちらに向かって近づいて来た。

「あら? 赤子の声だわ。まさか……」

イボンヌが首を傾げる。

「ジョナサン様っ!?」

扉を開けると泣きじゃくるジョナサンを抱きかかえたポリーが小走りで近付いて来る姿がシドの目に入った。

「ポリー! 一体どうしたんだ!? 何故ジョナサン様を連れている!?」

「あ、シドさん! 実はジェニファー様が部屋を出てすぐにジョナサン様が激しく泣き出して……もう、私では手に負えなくて……」

「ウアアアアアンッ! マァマ~ッ! アアァアアアンッ!!」

今もジョナサンは激しく泣いている。

「へ~この子がジョナサンか」

「中々可愛い子ね」

するといつの間にか、パトリックとイボンヌが部屋から出て来て泣いているジョナサンを見つめていた。

「お2人とも! 部屋から出ないで下さいと言いましたよね!」

シドが強く言うも、2人は気にする素振りも見せない。

「そんなことより、早くママの所へ連れて行ってあげたらどうだい?」

「ええ、あまり泣かせては可哀そうよ」

パトリックとイボンヌは明らかに今の状況を楽しんでいるようにも見える。

「シドさん……」

困った様子のポリーに、一旦シドは唇を噛みしめ……。

「ジェニファー様の元へ急ごう!」

「はい!」

シドの言葉にポリーは返事をすると、2人は急ぎ足でジョナサンの元へ向かった――



しおりを挟む
感想 494

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

貴方の事を愛していました

ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。 家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。 彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。 毎週のお茶会も 誕生日以外のプレゼントも 成人してからのパーティーのエスコートも 私をとても大切にしてくれている。 ーーけれど。 大切だからといって、愛しているとは限らない。 いつからだろう。 彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。 誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。 このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。 ーーけれど、本当にそれでいいの? だから私は決めたのだ。 「貴方の事を愛してました」 貴方を忘れる事を。

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

婚約破棄のその先は

フジ
恋愛
好きで好きでたまらなかった人と婚約した。その人と釣り合うために勉強も社交界も頑張った。 でも、それももう限界。その人には私より大切な幼馴染がいるから。 ごめんなさい、一緒に湖にいこうって約束したのに。もうマリー様と3人で過ごすのは辛いの。 ごめんなさい、まだ貴方に借りた本が読めてないの。だってマリー様が好きだから貸してくれたのよね。 私はマリー様の友人以外で貴方に必要とされているのかしら? 貴方と会うときは必ずマリー様ともご一緒。マリー様は好きよ?でも、2人の時間はどこにあるの?それは我が儘って貴方は言うけど… もう疲れたわ。ごめんなさい。 完結しました ありがとうございます! ※番外編を少しずつ書いていきます。その人にまつわるエピソードなので長さが統一されていません。もし、この人の過去が気になる!というのがありましたら、感想にお書きください!なるべくその人の話を中心にかかせていただきます!

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

処理中です...