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7-9 その頃の彼ら 1

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 ジェニファーが応接室へ向かってすぐのことだった。

「フウェエエエ~ン……」

ベビーベッドで眠っていたはずのジョナサンが愚図り始めた。

「ジョナサン様? まさかもう目が覚めてしまったのですか?」

クローゼットの整理をしていたポリーは慌てて向かうと、ジョナサンは既にベッドの上で起き上がっていた。

「まぁ、ジョナサン様。本当に起きてらしたのですね」

怖い夢でも見たのか、ジョナサンは今にも泣きそうな顔をしている。

「あ、あの……ジョナサン……様……?」

恐る恐るポリーが声をかけた瞬間――

「ウワアアアアアンッ!! マァマッ! ドコ!? マァマァ~ッ!」

真っ赤な顔でジョナサンが泣き始めた。

「キャアッ! ジョナサン様!」

慌ててポリーが抱き上げるも、ジョナサンは泣きながら背中を反らせてポリーの腕から逃れようとする。

「ヤッ! マァマッ! マァマ~ッ!!」

「お願いです、ジョナサン様! どうか落ち着いて下さい!」

ポリーの必死な訴えが1歳の赤子に通じるはずが無い。

「マァマッ! マァマ~ッ! パパァ~ッ!」

ついにジョナサンはジェニファーだけでなく、ニコラス迄求めて泣き始めた。

「も、もう私では無理だわ……」

身をよじって暴れるジョナサンを抱きかかえているだけで、今にも落っことしそうになって危なくて仕方がない。

「ジェニファー様の所へ行かないと!」

ポリーは激しく泣くジョナサンを抱きしめて部屋を飛びした。
ジェニファーとニコラスのいる応接室目指して――


****

一方その頃――

 客間ではイボンヌとパトリックが紅茶を飲んでいた。

「全く、ニコラスったら一体いつまで私たちを待たせるつもりなのよ!」

カチャッ! 

イボンヌは乱暴にティーカップをソーサーの上に置く。

「落ち着いて下さい、母上。仕方ないじゃありませんか。我々は連絡も無しに兄上の実家にお邪魔しているのですから」

パトリックが母を窘め、扉の前で待機しているシドに視線を向ける。

「……何でしょう?」

パトリックの視線が気になり、シドはぶっきらぼうに尋ねた。

「いや、そんなところに立っていないで君も座ったらどうだい?」

「結構です。俺の仕事は、お2人の監視ですから」

「何ですって!? シドッ! それは一体どういうつもりなの!?」

イボンヌが苛立ちを込めた目で睨みつける。

「言葉通りの意味です。ここは正真正銘、ニコラス様の城です。勝手な行動を取らないように監視するのが専属護衛騎士である俺の役目ですから」

「相変わらず、生意気な男ね……それに聞いたわよ! お前たちが私の使用人たちを捕らえて全員クビにしたそうじゃない! 勝手な真似するんじゃないわよ!」

「あの屋敷の当主はニコラス様です。ニコラス様に歯向かう使用人がクビにされるのは当然のことです」

淡々と答えるシドに、イボンヌの苛立ちはピークに達していた。

「パトリック! あんな騎士風情に好き勝手を言わせていいの!? 何とか言いなさい!」

隣りで紅茶を飲んでいるパトリックに怒鳴りつける。

「まぁ、彼の言うことは尤もでしょう? 俺も自分が同じ立場だったら、当然クビにしますよ。それより、兄上が俺たちを見た時のあの驚きの顔……思い出すだけで滑稽だ」

パトリックは肩を震わせた。

「俺も驚きましたよ。まさかあなた方が伯爵と一緒に現れるとは思いもしていませんでしたからね」

冷たい眼差しを向けるシドに、パトリックは淡々と答える。

「ああ、偶然一緒になったんだよ。伯爵から今日、『ボニート』に行くことは手紙で
知ったからね。だからこちらも予定を合わせて訪ねて来たのさ。だけど、同じ汽車に乗り合わせることになるとは思わなかった。すごい偶然だよ」

「そんな嘘を信じるとでも思っているのですか? どうせ伯爵と待ち合わせをしてきたのでしょう?」

「何ですって!? 私たちが嘘をついているとでも言いたいわけ!?」

イボンヌがシドに噛みついてくるが、パトリックは冷静だった。

「嘘なんかついていないさ。ま、信じるか信じないかは君次第だけどね。実際伯爵は俺たちを見て驚いていたよ。『何故、あなた達がここにいるのですか?』って。まぁそんな話はどうでもいい。それよりシド、兄上が再婚したジェニファーという女性はどこにいるんだい? 物凄い美人なのだろう? 是非、会って挨拶をしたいのだけどね」

「……何ですって……?」

シドは殺気を込めた目でパトリックを睨みつけた――



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