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7-5 来訪者たち 2

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「どうも、お待たせいたしました」

ニコラスは3人が待ち受ける応接室にやってきた。

「ニコラス!」
「いつまで待たせるのよ!」

「義兄さん、お久しぶりですね」

伯爵とイボンヌは苛立ったように険しい声をあげるも、義弟のパトリックだけは笑顔を向けている。

ニコラスは早速伯爵に話しかけた。

「伯爵、お久しぶりです」

「ああ。……1年ぶりだな」

ぶっきらぼうに挨拶する伯爵は、ジェニーが生きていた頃とはまるで別人だった。頬は痩せこけ、落ちくぼんだ目は生気を失っている。

(フォルクマン伯爵に会うのはジェニーの葬儀以来だが……それにしても、何て変わりようだ……以前の面影がまるで残っていない)

噂によれば、フォルクマン伯爵は最愛の一人娘を失ってから自暴自棄になってしまったと聞いていた。

「それにしても驚きましたよ。何故伯爵がこの2人と一緒に居るのです?」

「さぁな、そんなのは知らんな。たまたま『ボニート』の駅に降り立ったら、鉢合わせしただけだ」

「伯爵、そんな話を私が信じるとでも思っているのですか?」

すると赤毛の髪を逆立てるかのように、イボンヌが声を張り上げた。

「ちょっとニコラス! 私たちを無視して勝手に話を進めるとはどういうことなの!? これでも私たちは家族でしょう!? 」 

「落ち着いて下さい、母上。兄上の言うことも尤もです。僕たちは招かれざる客なのですから。そうですよね? 兄上」

イボンヌにそっくりな赤毛のパトリックは人懐こい笑みを浮かべた。

「……」

しかしニコラスは返事をせず、不審な目をパトリックに向ける。
パトリックが狡猾な人物であることは、ニコラスは良く知っていた。笑顔の下には恐ろしい野心が備わっている、油断ならない人物なのだ。まだ本心をさらけ出すイボンヌの方が相手にしやすい。

「ニコラス! 返事位したらどうなの!?」

イボンヌは増々目を吊り上げた。

「私は今、伯爵と話をしているのです。申し訳ありませんが、お2人は一旦席を外して頂けませんか?」

「な、何ですって……? よくも私にそんな口を……!」

すると、伯爵が口を開いた。

「テイラー侯爵の言う通りです。私も彼と2人きりで話がしたいので、お2人は一旦退席を願います」

「フォルクマン伯爵! 貴方と言う人は……!」

イボンヌが激高するとパトリックが止めに入った。

「落ち着いて下さい。母上」

「パトリック! 何故止めるの!?」

「兄上とフォルクマン伯爵の言う通りです。僕たちは2人にとって招かれざる客のようですから一旦席を外しましょう」

「……っ! わ、分かったわよ……」

2人は立ち上がると、ニコラスは今まで沈黙を守っていた執事長に声をかけた。

「カルロス、2人を客間に案内してくれ」

「かしこまりました。では参りましょう」

「はい」

返事をしないイボンヌに代わり、パトリックが返事をする。

「では一旦失礼いたします。兄上」

するとニコラスは顔を上げた。

「先に言っておくが、ここは私の城だ。くれぐれも勝手に歩き回らないように」

「まぁっ!! 何て失礼な……!」

するとパトリックがイボンヌを手で制し、頷いた。

「はい、勿論です」


執事長に連れられて応接室を出た2人は、扉の前に立っていたシドに気付いた。

「あ……お前はシド! どうしてここに居るのよ!?」

イボンヌが驚きの声を上げる。

「それは簡単なことです。ニコラス様に呼び戻されたからですよ」

「そうか。お前、兄上の元に戻って来たのか」

先程と違い、ガラリと態度を変えるパトリック。

「ええ、そうです。なのでもう好き勝手な真似はさせませんから」

そこへ執事長が声をかけてきた。

「シド、お2人を客間に案内する。お前もついてきなさい」

「はい、分かりました」

シドは頷き、牽制するかのように2人を睨みつけた――
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