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6-10 邂逅
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『ここは何処かしら……?』
ジェニファーは色とりどりに咲き乱れる花畑の中に立っていた。空を見上げれば雲一つない青空が広がり、大きな虹が見える。
『何て素敵なところなのかしら……』
今迄見たことも無い美しい景色に、ジェニファーはすっかり魅入られていた。
『それに身体がとても楽だわ』
先程迄は息も出来ないほどの全身の痛みと熱さで苦しかったのに、今はとても身体が軽くて気持ちがいい。ずっとここに居たいくらいだった。
そのとき、ふと前方にキラキラと輝く大きな川が見えた。
『川だわ……でも何故光っているのかしら?』
不思議に思ったジェニファーは川を見に行くことにした。
裸足で花畑を踏みしめて歩き、川に辿り着いた。川面は日の光を浴びてキラキラと光り輝き、色鮮やかな小魚が泳いでいる。
『まぁ、フフフ……可愛い魚だわ』
少しの間、ジェニファーは魚が泳ぐ姿を眺めていた。やがて魚が泳ぎ去ってしまったので立ち上がった時、ふと川向うに男女の人影があることに気付いた。
『あら、誰かしら……え!? ま、まさか……』
目をゴシゴシこすると、もう一度川向うに立つ2人を凝視する。
『お父様……? お母様?』
男性の方はジェニファーが8歳の時に亡くなった父親、そして女性の方は写真でだけ見たことのある母親だったのだ。
2人は優しい笑みを浮かべて、ジェニファーを見つめている。
『お父様……お母様……』
見る見るうちにジェニファーの両目に涙が浮かぶ。
『お父様! お母様! 会いたかったです!』
ジェニファーは川向うにいる2人に向かって必死に叫ぶ。両親の元へ行きたいが、川に隔たれて向こう側へ行けない。
すると父親が口を開いた。
『ジェニファー。帰りなさい』
『そうよ、ジェニファー。あなたはまだここに来てはいけないわ』
母親も優しい声で語りかけてくる。それは生まれて初めて聞く母の声だった。
『いやです! 帰りません! 私はここが好き……お父様とお母様の傍に居させてください!』
波を流しながら首を振るジェニファー。
『だが、ここにはお前の居場所は無いのだよ?』
父が諭すように語る。
『居場所? 私にはどこにも居場所なんてありません。厄介者でしか無いのです。誰も私を愛してくれないし、必要としてくれません。私なんか居ないほうがいいのです……お願いです。お父様、お母様……傍に居させてください。もう辛いの……』
とうとうジェニファーは泣き崩れて、座り込んでしまった。花畑にジェニファーの流す涙がポタポタと落ちる。
『そんなこと言わないでジェニファー。側にいられなくてもいつでも私たちはあなたを見守っているわ』
『そうだよ、ここへはいつでも来れるのだ。ただ、まだその時では無いがな」
両親が交互に話しかけてくる。
『その時ではない……?』
ジェニファーは涙で濡れた顔を上げた。
『ええ、そうよ。ジェニファーを待っている人たちがいるのよ』
『そうだ。今も大勢待っている』
『そんな……私を待つ人なんてどこにもいません……え? お父様!? お母様!?』
突然2人の姿が遠くなっていき、周りの景色が暗くなっていく。
『待って! 置いていかないで! お父様! お母様!』
いつの間にか、ジェニファーは暗闇の中にいた。自分の周辺だけが明るく光っている。
『何……? ここはどこなの?』
周囲を見渡していると、遠くの方で悲し気な泣き声が聞こえてきた。
『泣き声? 一体誰の……?』
何処に行けば良いか分からなかったジェニファーはフラフラと泣き声の方へ近づいていくと、ぼんやり光っている人影を発見した。泣き声はそこから聞こえていたのだ
『あれは……?』
近付き、ジェニファーは息を飲んだ。泣いているのは少女で、ジェニーだったのだ。
ジェニーは顔を真っ赤にして、ボロボロ泣いて震えている。
『ウッウッ…‥寒い……真っ暗で寒いわ……。怖い、誰か助けて……ごめんなさい……ジェニファー。私を助けて……ウウッ……』
『!』
その言葉にジェニファーは息を飲む。
『ジェニー!』
駆け寄り、抱きしめようとしても何故か触れることはできない。しかも声が届いていないようだった。
『怖い……暗くて寒いわ……ジェニファー……ごめんなさい、ごめんなさい……』
小さな身体でボロボロ泣くジェニーは見ていて胸がつぶれそうだった。
『泣かないで、ジェニー。私は何もあなたに怒ってもいないわ。だからそんなに謝らないで?』
触れることは出来ないが、そっとジェニーの頭を撫でる。
『ジェニファー……ジェニファー……』
やがて泣いているジェニーの姿も消えていき、背後で明るい光が差し込んできた。
『光……?』
振り向くと、声が聞こえる。
『ジェニファーッ! 死なないでくれ!』
『目を開けて下さい! ジェニファー様っ!』
『お願いです……ジェニファー様をどうか連れて行かないで…‥』
『私を……呼んでいる?』
その時。
『アァアア~ンッ! マァマァ~ッ! マァマ~ッ! アァアア~ンッ!』
ジョナサンの激しい鳴き声が聞こえてきた。
『ジョナサンが泣いている……行かなくちゃ!』
ジェニファーは光の方へ向かって必死に走り……やがて眩しい光に包まれた——
ジェニファーは色とりどりに咲き乱れる花畑の中に立っていた。空を見上げれば雲一つない青空が広がり、大きな虹が見える。
『何て素敵なところなのかしら……』
今迄見たことも無い美しい景色に、ジェニファーはすっかり魅入られていた。
『それに身体がとても楽だわ』
先程迄は息も出来ないほどの全身の痛みと熱さで苦しかったのに、今はとても身体が軽くて気持ちがいい。ずっとここに居たいくらいだった。
そのとき、ふと前方にキラキラと輝く大きな川が見えた。
『川だわ……でも何故光っているのかしら?』
不思議に思ったジェニファーは川を見に行くことにした。
裸足で花畑を踏みしめて歩き、川に辿り着いた。川面は日の光を浴びてキラキラと光り輝き、色鮮やかな小魚が泳いでいる。
『まぁ、フフフ……可愛い魚だわ』
少しの間、ジェニファーは魚が泳ぐ姿を眺めていた。やがて魚が泳ぎ去ってしまったので立ち上がった時、ふと川向うに男女の人影があることに気付いた。
『あら、誰かしら……え!? ま、まさか……』
目をゴシゴシこすると、もう一度川向うに立つ2人を凝視する。
『お父様……? お母様?』
男性の方はジェニファーが8歳の時に亡くなった父親、そして女性の方は写真でだけ見たことのある母親だったのだ。
2人は優しい笑みを浮かべて、ジェニファーを見つめている。
『お父様……お母様……』
見る見るうちにジェニファーの両目に涙が浮かぶ。
『お父様! お母様! 会いたかったです!』
ジェニファーは川向うにいる2人に向かって必死に叫ぶ。両親の元へ行きたいが、川に隔たれて向こう側へ行けない。
すると父親が口を開いた。
『ジェニファー。帰りなさい』
『そうよ、ジェニファー。あなたはまだここに来てはいけないわ』
母親も優しい声で語りかけてくる。それは生まれて初めて聞く母の声だった。
『いやです! 帰りません! 私はここが好き……お父様とお母様の傍に居させてください!』
波を流しながら首を振るジェニファー。
『だが、ここにはお前の居場所は無いのだよ?』
父が諭すように語る。
『居場所? 私にはどこにも居場所なんてありません。厄介者でしか無いのです。誰も私を愛してくれないし、必要としてくれません。私なんか居ないほうがいいのです……お願いです。お父様、お母様……傍に居させてください。もう辛いの……』
とうとうジェニファーは泣き崩れて、座り込んでしまった。花畑にジェニファーの流す涙がポタポタと落ちる。
『そんなこと言わないでジェニファー。側にいられなくてもいつでも私たちはあなたを見守っているわ』
『そうだよ、ここへはいつでも来れるのだ。ただ、まだその時では無いがな」
両親が交互に話しかけてくる。
『その時ではない……?』
ジェニファーは涙で濡れた顔を上げた。
『ええ、そうよ。ジェニファーを待っている人たちがいるのよ』
『そうだ。今も大勢待っている』
『そんな……私を待つ人なんてどこにもいません……え? お父様!? お母様!?』
突然2人の姿が遠くなっていき、周りの景色が暗くなっていく。
『待って! 置いていかないで! お父様! お母様!』
いつの間にか、ジェニファーは暗闇の中にいた。自分の周辺だけが明るく光っている。
『何……? ここはどこなの?』
周囲を見渡していると、遠くの方で悲し気な泣き声が聞こえてきた。
『泣き声? 一体誰の……?』
何処に行けば良いか分からなかったジェニファーはフラフラと泣き声の方へ近づいていくと、ぼんやり光っている人影を発見した。泣き声はそこから聞こえていたのだ
『あれは……?』
近付き、ジェニファーは息を飲んだ。泣いているのは少女で、ジェニーだったのだ。
ジェニーは顔を真っ赤にして、ボロボロ泣いて震えている。
『ウッウッ…‥寒い……真っ暗で寒いわ……。怖い、誰か助けて……ごめんなさい……ジェニファー。私を助けて……ウウッ……』
『!』
その言葉にジェニファーは息を飲む。
『ジェニー!』
駆け寄り、抱きしめようとしても何故か触れることはできない。しかも声が届いていないようだった。
『怖い……暗くて寒いわ……ジェニファー……ごめんなさい、ごめんなさい……』
小さな身体でボロボロ泣くジェニーは見ていて胸がつぶれそうだった。
『泣かないで、ジェニー。私は何もあなたに怒ってもいないわ。だからそんなに謝らないで?』
触れることは出来ないが、そっとジェニーの頭を撫でる。
『ジェニファー……ジェニファー……』
やがて泣いているジェニーの姿も消えていき、背後で明るい光が差し込んできた。
『光……?』
振り向くと、声が聞こえる。
『ジェニファーッ! 死なないでくれ!』
『目を開けて下さい! ジェニファー様っ!』
『お願いです……ジェニファー様をどうか連れて行かないで…‥』
『私を……呼んでいる?』
その時。
『アァアア~ンッ! マァマァ~ッ! マァマ~ッ! アァアア~ンッ!』
ジョナサンの激しい鳴き声が聞こえてきた。
『ジョナサンが泣いている……行かなくちゃ!』
ジェニファーは光の方へ向かって必死に走り……やがて眩しい光に包まれた——
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