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6-9 後悔

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 手紙を読み終えたニコラスは暫くの間、呆然としていた。

「そんな……まさか、あの時のジェニーが本当はジェニファーだったなんて……」

だが、何度も違和感を抱いたことはあった。ジェニファーを見る度に懐かしい気持ちが込み上げてきたことが何度もある。

ニコラスの記憶が曖昧だったとしても、子供の頃のジェニーは元気だったのは覚えている。しかし、大人になって再会したジェニーは虚弱な女性になっていたのだ。
雨が降れば体調を崩しがちで、季節の変わり目は喘息を起こして寝込むこともあった。
その度にジェニーは、この言葉を口にしていた。

『駄目ね、私って。子供の頃はあなたと遊べるくらいに元気だったのに。大人になって、身体が弱くなってしまったみたいなの』

そして、弱々しく笑ったのだ。

「ジェニーの身体が弱いのは当然だ……俺が子供の頃会っていたのはジェニファーだったのだから……」

ポツリとニコラスは口にした。
だからジェニーは自分が死んだ後に、ジェニファーを後妻に迎えるように遺言を残したのだ。
自分がジェニファーの居場所を奪ってしまったから……。

「夜毎うなされて、泣いていたのも罪悪感からだったのか‥‥‥」

そう考えてみれば、ジェニーの態度は全て辻褄が合う。ジョナサンをジェニファーに託したのも、彼女なら可愛がって育ててくれると確信があったからなのだろう。

ニコラスはジェニーの身体が弱かったので、子供のことは諦めようと思っていた。
夫婦2人で暮らせばよい。跡継ぎは遠縁から養子に向かえればいいと考えていた。
けれど、ジェニーが自分の子供を強く願ったのだ。

心臓が弱いのに、子供を産めばどうなってしまうか自分でも良く分かっていたはずなのに。

「もしかしてジェニー……君は罪悪感で早く死にしたかったのか? だから心臓のことを俺には黙って、ジョナサンを産んだ……?」

自分が亡くなった後、妻の座をジェニファーに譲る為に。
けれど、今となってはジェニーの気持ちを知る術はない。

「俺は……この先、一体どうしたらいいんだ? 誤解だったとは言え、再会してからずっとジェニファーに冷たい言葉を投げかけ、傷つけてしまったんだ……」

自分がかつて恋した少女に、酷い仕打ちをしてきたことを今更ながらニコラスは激しく後悔していた。
恐らく謝れば、優しいジェニファーのことだから許してくれるだろう。けれど深く傷つけた心の傷が癒えることはないだろう。

一体今までどんな気持ちでジェニファーが自分に接していたのかを思うと、申し訳ない気持ちで一杯になる。

「……ジェニファーに会いに行こう。まずは彼女の具合がどうなのか確認しなければ。その後のことは、これから考えればいい」

ニコラスが席を立った時。

「ニコラス様っ!」

突如ノックもせずに、青ざめた顔のシドが部屋に飛び込んできた。その様子にニコラスはただ事では無い何かを感じ取った。

「どうしたんだ!? シド!」

「ジェニファー様が……ジェニファー様がっ!!」

「……え……?」

ニコラスは真っ青な顔で、シドを見つめた――



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