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6-6 ジェニーの手紙 2
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封筒には『ニコラス・テイラー様へ』と書かれており、ジェニーの名前も記されていた。
「この手紙は俺宛てだから、貰って良いな?」
ニコラスはポリーに尋ねた。
「そ、それは……私では判断できません。元々はジェニファー様への手紙の中にあったものですから」
困った様子でポリーが返事をすると、シドが助け舟を出す。
「大丈夫だと思います。恐らくジェニー様はジェニファー様の性格を見通して、あえてニコラス様宛ての手紙を紛れさせたのではないでしょうか? ジェニファー様なら必ず渡してくれると思ったに違いありません」
「シド、お前の方がジェニファーのことを良く知っているようだな」
ニコラスは怪訝そうに首を傾げる。
「いえ、そんなことはありません」
他にシドは返事のしようが無かった。けれどあの手紙には真実が書いてあるに違いないという予感があった。
「では、この手紙はじっくり読ませてもらおう」
ニコラスが
ニコラスが嬉しそうにジェニーの手紙を懐にしまう様子を、ポリーとシドは複雑な思いで見つめていた。
—―その時。
「ニコラス様っ! こちらにいらしたのですか?」
メイド長が慌ただしく、駆けつけてきた。その背後には、髪を上に結い上げた女性がボストンバックを持ってついてきている。
「ああ、ここにいた。ジェニファーが心配で様子を見に来ていたのだが……そちらの女性は?」
すると、年の頃は30代半ばと思しき女性が丁寧に頭を下げてきた。
「始めまして、当主様。私はこの町の町医者です。病人がいらっしゃると聞いて、こちらの城に呼ばれて参りました」
「そうでしたか。病人はこの部屋の中にいるので、どうぞよろしくお願いします」
「かしこまりました。では失礼致します」
メイド長が部屋の扉を開けると女性医師が部屋の中に入り、メイド長とポリーも後に続いた。
—―パタン
扉が閉ざされると、ニコラスはシドに声をかけた。
「シド、俺は書斎にいる。ジェニファーの診察が終わったら呼びに来てくれるか?」
「え? こちらで待たれないのですか?」
「部屋の中に入れないのなら、ここで待っていても仕方がないだろう?」
腕組みするニコラス。
「ですが……」
すぐに中に呼ばれるのでは——?
そう口にしたかったが、言えなかった。
「俺は書斎でゆっくり、ジェニーの手紙を読みたいんだ。どうせ部屋の中には入れないんだ。ジェニファーのことは、もう医者に任せておくしかないだろう? それにジョナサンのことも気がかりだしな」
どこまでもニコラスの頭の中はジェニーとジョナサンのことしか無いのだとシドは悟った。
(ニコラス様は口ではああ言っているものの、心の底からジェニファー様を心配してはいないのだろう。だけど、俺だったら……)
しかし、口が裂けてもそんなことは言えるはず無かった
シドは言葉を飲み込むと、返事をする。
「……分かりました。ではジェニファー様の診察が終わり次第、ニコラス様に報告に伺います」
「ああ、よろしく頼む」
そのままニコラスは書斎に行ってしまった。
「……」
遠ざかって行くニコラスの後姿を無言で見つめるシド。
(ジェニファー様に託されたあの手紙……恐らく真実が書いてあるに違いない。本当のことを知った時、ニコラス様は一体どうされるのだろう?)
シドはため息をつくと、祈るように呟いた。
「ジェニファー様。早く目を覚まして下さい。俺は……あなたのことを……」
閉ざされた扉を、シドはじっと見つめるのだった――
「この手紙は俺宛てだから、貰って良いな?」
ニコラスはポリーに尋ねた。
「そ、それは……私では判断できません。元々はジェニファー様への手紙の中にあったものですから」
困った様子でポリーが返事をすると、シドが助け舟を出す。
「大丈夫だと思います。恐らくジェニー様はジェニファー様の性格を見通して、あえてニコラス様宛ての手紙を紛れさせたのではないでしょうか? ジェニファー様なら必ず渡してくれると思ったに違いありません」
「シド、お前の方がジェニファーのことを良く知っているようだな」
ニコラスは怪訝そうに首を傾げる。
「いえ、そんなことはありません」
他にシドは返事のしようが無かった。けれどあの手紙には真実が書いてあるに違いないという予感があった。
「では、この手紙はじっくり読ませてもらおう」
ニコラスが
ニコラスが嬉しそうにジェニーの手紙を懐にしまう様子を、ポリーとシドは複雑な思いで見つめていた。
—―その時。
「ニコラス様っ! こちらにいらしたのですか?」
メイド長が慌ただしく、駆けつけてきた。その背後には、髪を上に結い上げた女性がボストンバックを持ってついてきている。
「ああ、ここにいた。ジェニファーが心配で様子を見に来ていたのだが……そちらの女性は?」
すると、年の頃は30代半ばと思しき女性が丁寧に頭を下げてきた。
「始めまして、当主様。私はこの町の町医者です。病人がいらっしゃると聞いて、こちらの城に呼ばれて参りました」
「そうでしたか。病人はこの部屋の中にいるので、どうぞよろしくお願いします」
「かしこまりました。では失礼致します」
メイド長が部屋の扉を開けると女性医師が部屋の中に入り、メイド長とポリーも後に続いた。
—―パタン
扉が閉ざされると、ニコラスはシドに声をかけた。
「シド、俺は書斎にいる。ジェニファーの診察が終わったら呼びに来てくれるか?」
「え? こちらで待たれないのですか?」
「部屋の中に入れないのなら、ここで待っていても仕方がないだろう?」
腕組みするニコラス。
「ですが……」
すぐに中に呼ばれるのでは——?
そう口にしたかったが、言えなかった。
「俺は書斎でゆっくり、ジェニーの手紙を読みたいんだ。どうせ部屋の中には入れないんだ。ジェニファーのことは、もう医者に任せておくしかないだろう? それにジョナサンのことも気がかりだしな」
どこまでもニコラスの頭の中はジェニーとジョナサンのことしか無いのだとシドは悟った。
(ニコラス様は口ではああ言っているものの、心の底からジェニファー様を心配してはいないのだろう。だけど、俺だったら……)
しかし、口が裂けてもそんなことは言えるはず無かった
シドは言葉を飲み込むと、返事をする。
「……分かりました。ではジェニファー様の診察が終わり次第、ニコラス様に報告に伺います」
「ああ、よろしく頼む」
そのままニコラスは書斎に行ってしまった。
「……」
遠ざかって行くニコラスの後姿を無言で見つめるシド。
(ジェニファー様に託されたあの手紙……恐らく真実が書いてあるに違いない。本当のことを知った時、ニコラス様は一体どうされるのだろう?)
シドはため息をつくと、祈るように呟いた。
「ジェニファー様。早く目を覚まして下さい。俺は……あなたのことを……」
閉ざされた扉を、シドはじっと見つめるのだった――
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