望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
166 / 237

6-5 ジェニーの手紙 1

しおりを挟む
「御主人様……! し、失礼なことを口にして申し訳ございません!」

ポリーは真っ青な顔になって、謝罪した。

「ニコラス様、何故こちらにいらしたのです? ジョナサン様はどうされたのですか?」

先程のジェニファーに取った態度が許せず、シドの口調はどこか強い。

「ジョナサンは良く眠っているから、今はメイドに付き添いを任せてある。俺がここに来たのは……ジェニファーの様子が気になったからだ」

「「え??」」

その言葉にポリーとシドが目を見開く。

「ニコラス様は、ジェニファー様が心配で様子を見にいらしたのですか?」

「そうだ。あのときはジョナサンが雨に当たって濡れているのではないかと思い、あんな強い言い方をしてしまったんだ。だが、ジョナサンは何処も怪我をした様子も無いし、雨にも濡れていなかった。それはジェニファーのお陰なのだろう? それで冷静になって気付いたんだ。あの時彼女は具合が悪そうだったのに強い言い方をしてしまった。だから……一言、礼と詫びを言いに来たんだ」

申し訳なさそうに俯くニコラス。そこでシドは説明した。

「ニコラス様、ジェニファー様は今、酷い高熱を出して意識を失っています」

「何だって!? 熱を!? それで医者は呼んだのか!?」

「はい。今、女の先生に診察に来てもらうようにお願いしています」

「そうか、なら良かった……」

安堵したかのようなため息をつくと、話を続けるニコラス。

「それで先程の話だが、ジェニーからの手紙があると話していただろう? どこにあるんだ? 見せてくれ」

するとポリーが首を振った。

「いいえ。申し訳ございませんが、お見せするわけにはまいりません」

「何だって? ジェニーの手紙なのだろう? 夫である俺に見せられないとはどういうことだ?」

ニコラスが鋭い視線をポリーに向ける。

「何故ならジェニファー様に宛てられたお手紙だからです。ジェニファー様の許可なく、勝手にお見せすることは出来ません。恐らくジェニー様だって望んではおられないと思います」

ポリーは震えながらも、しっかりと返事をする。

「それは……確かにそうかもしれないが……」

けれどニコラスはどうしても納得できなかった。

(何故ジェニーは俺ではなく、ジェニファーに手紙を託したんだ? あんなにジェニファーに詫びながら泣いていたのに。それとも俺は大事な何かを見落としているのだろうか? だが、その前に本当にジェニーからの手紙なのかを確かめなければ……)

ニコラスは少しの間考え、ポリーに尋ねた。

「ジェニファー宛ての手紙には、宛名が書いてあるのか?」

「確か書いてあったと思います」

「なら宛名に書かれた筆跡だけでも見せてくれ。本当にジェニーが書いたものか確認がしたいんだ」

「旦那様……」

一介のメイドである自分に侯爵家当主が丁寧に頼んできている。さすがに、これ以上拒絶することはポリーには出来なかった。
何しろ、相手は自分の雇い主なのだ。

「……分かりました。今、お持ちします」

「ああ、」

ポリーはジェニファーの部屋に入ると、ブリキの箱を持ってきた。箱は既に鍵が外されている。

「こちらになります。ですが……開封だけは御遠慮お願いいたします」

「勿論だ」

ニコラスは差し出されて手紙の束を受け取ると、早速宛名に目を落とした。
その様子をポリーとシドが見守る。

「……間違いない。これは……ジェニーの字だ……」

懐かしいジェニーの筆跡に、ニコラスの顔に笑みが浮かび……次の瞬間、全員が息を飲むことになる。

「「「え!?」」」

手紙の束の中に、ニコラス宛ての手紙が紛れていたのだった――


しおりを挟む
感想 551

あなたにおすすめの小説

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います

真理亜
恋愛
 ここセントール王国には一風変わった習慣がある。  それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。  要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。  そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、 「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」  と言い放ったのだった。  少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...