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6-5 ジェニーの手紙 1
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「御主人様……! し、失礼なことを口にして申し訳ございません!」
ポリーは真っ青な顔になって、謝罪した。
「ニコラス様、何故こちらにいらしたのです? ジョナサン様はどうされたのですか?」
先程のジェニファーに取った態度が許せず、シドの口調はどこか強い。
「ジョナサンは良く眠っているから、今はメイドに付き添いを任せてある。俺がここに来たのは……ジェニファーの様子が気になったからだ」
「「え??」」
その言葉にポリーとシドが目を見開く。
「ニコラス様は、ジェニファー様が心配で様子を見にいらしたのですか?」
「そうだ。あのときはジョナサンが雨に当たって濡れているのではないかと思い、あんな強い言い方をしてしまったんだ。だが、ジョナサンは何処も怪我をした様子も無いし、雨にも濡れていなかった。それはジェニファーのお陰なのだろう? それで冷静になって気付いたんだ。あの時彼女は具合が悪そうだったのに強い言い方をしてしまった。だから……一言、礼と詫びを言いに来たんだ」
申し訳なさそうに俯くニコラス。そこでシドは説明した。
「ニコラス様、ジェニファー様は今、酷い高熱を出して意識を失っています」
「何だって!? 熱を!? それで医者は呼んだのか!?」
「はい。今、女の先生に診察に来てもらうようにお願いしています」
「そうか、なら良かった……」
安堵したかのようなため息をつくと、話を続けるニコラス。
「それで先程の話だが、ジェニーからの手紙があると話していただろう? どこにあるんだ? 見せてくれ」
するとポリーが首を振った。
「いいえ。申し訳ございませんが、お見せするわけにはまいりません」
「何だって? ジェニーの手紙なのだろう? 夫である俺に見せられないとはどういうことだ?」
ニコラスが鋭い視線をポリーに向ける。
「何故ならジェニファー様に宛てられたお手紙だからです。ジェニファー様の許可なく、勝手にお見せすることは出来ません。恐らくジェニー様だって望んではおられないと思います」
ポリーは震えながらも、しっかりと返事をする。
「それは……確かにそうかもしれないが……」
けれどニコラスはどうしても納得できなかった。
(何故ジェニーは俺ではなく、ジェニファーに手紙を託したんだ? あんなにジェニファーに詫びながら泣いていたのに。それとも俺は大事な何かを見落としているのだろうか? だが、その前に本当にジェニーからの手紙なのかを確かめなければ……)
ニコラスは少しの間考え、ポリーに尋ねた。
「ジェニファー宛ての手紙には、宛名が書いてあるのか?」
「確か書いてあったと思います」
「なら宛名に書かれた筆跡だけでも見せてくれ。本当にジェニーが書いたものか確認がしたいんだ」
「旦那様……」
一介のメイドである自分に侯爵家当主が丁寧に頼んできている。さすがに、これ以上拒絶することはポリーには出来なかった。
何しろ、相手は自分の雇い主なのだ。
「……分かりました。今、お持ちします」
「ああ、」
ポリーはジェニファーの部屋に入ると、ブリキの箱を持ってきた。箱は既に鍵が外されている。
「こちらになります。ですが……開封だけは御遠慮お願いいたします」
「勿論だ」
ニコラスは差し出されて手紙の束を受け取ると、早速宛名に目を落とした。
その様子をポリーとシドが見守る。
「……間違いない。これは……ジェニーの字だ……」
懐かしいジェニーの筆跡に、ニコラスの顔に笑みが浮かび……次の瞬間、全員が息を飲むことになる。
「「「え!?」」」
手紙の束の中に、ニコラス宛ての手紙が紛れていたのだった――
ポリーは真っ青な顔になって、謝罪した。
「ニコラス様、何故こちらにいらしたのです? ジョナサン様はどうされたのですか?」
先程のジェニファーに取った態度が許せず、シドの口調はどこか強い。
「ジョナサンは良く眠っているから、今はメイドに付き添いを任せてある。俺がここに来たのは……ジェニファーの様子が気になったからだ」
「「え??」」
その言葉にポリーとシドが目を見開く。
「ニコラス様は、ジェニファー様が心配で様子を見にいらしたのですか?」
「そうだ。あのときはジョナサンが雨に当たって濡れているのではないかと思い、あんな強い言い方をしてしまったんだ。だが、ジョナサンは何処も怪我をした様子も無いし、雨にも濡れていなかった。それはジェニファーのお陰なのだろう? それで冷静になって気付いたんだ。あの時彼女は具合が悪そうだったのに強い言い方をしてしまった。だから……一言、礼と詫びを言いに来たんだ」
申し訳なさそうに俯くニコラス。そこでシドは説明した。
「ニコラス様、ジェニファー様は今、酷い高熱を出して意識を失っています」
「何だって!? 熱を!? それで医者は呼んだのか!?」
「はい。今、女の先生に診察に来てもらうようにお願いしています」
「そうか、なら良かった……」
安堵したかのようなため息をつくと、話を続けるニコラス。
「それで先程の話だが、ジェニーからの手紙があると話していただろう? どこにあるんだ? 見せてくれ」
するとポリーが首を振った。
「いいえ。申し訳ございませんが、お見せするわけにはまいりません」
「何だって? ジェニーの手紙なのだろう? 夫である俺に見せられないとはどういうことだ?」
ニコラスが鋭い視線をポリーに向ける。
「何故ならジェニファー様に宛てられたお手紙だからです。ジェニファー様の許可なく、勝手にお見せすることは出来ません。恐らくジェニー様だって望んではおられないと思います」
ポリーは震えながらも、しっかりと返事をする。
「それは……確かにそうかもしれないが……」
けれどニコラスはどうしても納得できなかった。
(何故ジェニーは俺ではなく、ジェニファーに手紙を託したんだ? あんなにジェニファーに詫びながら泣いていたのに。それとも俺は大事な何かを見落としているのだろうか? だが、その前に本当にジェニーからの手紙なのかを確かめなければ……)
ニコラスは少しの間考え、ポリーに尋ねた。
「ジェニファー宛ての手紙には、宛名が書いてあるのか?」
「確か書いてあったと思います」
「なら宛名に書かれた筆跡だけでも見せてくれ。本当にジェニーが書いたものか確認がしたいんだ」
「旦那様……」
一介のメイドである自分に侯爵家当主が丁寧に頼んできている。さすがに、これ以上拒絶することはポリーには出来なかった。
何しろ、相手は自分の雇い主なのだ。
「……分かりました。今、お持ちします」
「ああ、」
ポリーはジェニファーの部屋に入ると、ブリキの箱を持ってきた。箱は既に鍵が外されている。
「こちらになります。ですが……開封だけは御遠慮お願いいたします」
「勿論だ」
ニコラスは差し出されて手紙の束を受け取ると、早速宛名に目を落とした。
その様子をポリーとシドが見守る。
「……間違いない。これは……ジェニーの字だ……」
懐かしいジェニーの筆跡に、ニコラスの顔に笑みが浮かび……次の瞬間、全員が息を飲むことになる。
「「「え!?」」」
手紙の束の中に、ニコラス宛ての手紙が紛れていたのだった――
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