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6-1 ジェニファーの本音
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「そう……だったのですか。そんな経緯があって、ここにジェニーの手紙があるのですね」
シスターの話を聞き終えたジェニファーは、ブリキの箱をそっと撫でた。
「はい、そうです。ジェニーさんはこの箱も持参していました。自分で手紙を入れて鍵をかけたのです」
「それがジェニファー様の誕生日の日付なのですね?」
「はい、そうです」
ポリーの質問にシスターは頷く。そこでジェニファーは試しに自分の誕生日をダイヤルしてみた。するとカチリと音を立てて鍵が開いた。
「開いた……ジェニー、私の誕生日を覚えていてくれたのね」
ジェニファーは箱を抱きしめた。すると、突然シスターが謝ってきた。
「申し訳ございません、ジェニファー様」
「シスター? 何故謝るのですか?」
「はい……私が2年前、ニコラス様に本当のことを告げるようにジェニーさんを説得することができていれば、こんなことにはならなかったはずなのに……。けれど死期が近いと聞かされ、説得できませんでした」
「シスターは何も悪くありません。それに私なら大丈夫ですから。ジェニーの夢は、いつか王子様が自分のことを迎えに来てくれることだったのです。その夢をニコラスが叶えてくれたのですから」
(ジェニーは私に色々なことを教えてくれたわ。テーブルマナーや勉強だって……。ジェニーとフォルクマン伯爵のおかげで、短い間だったけど教育を受けることも出来たのだもの)
「そ、そんな……ジェニファー様はそれでもいいんですか!?」
不意にポリーが大きな声を上げた。その顔は今にも泣きそうになっている。
「ポリー、どうしたの?」
「だってジェニー様が嘘をつかなければ、旦那様は結婚相手にジェニファー様を選んでいたわけですよ!?」
「だけど、初めに嘘をついたのは私なのだもの。ニコラスの前でジェニーと名乗ったのだから」
例え今は叶わない恋だとしても、かつては両想い同士だったのだ。それが分かっただけでもジェニファーは十分だった。
「それだって、ジェニー様に命じられたからではありませんか! こんなのって……ひ、酷すぎます……」
とうとうポリーは泣き出してしまった。
「ありがとう、ポリー。私の為に、そんなに泣いてくれるなんて。でも私、どうしてもジェニーを恨むことは出来ないの」
「何故ですか……?」
「だって、ジェニーが気の毒だからよ。身体が弱いせいで、色々な所へ出掛けることも出来なかったし、それに何より……こんなに可愛い子を残して先に逝かなければならなかったのよ? どんなにか辛かったと思うわ……」
ジェニファーはベビーカーの中で眠るジョナサンの髪をそっと撫でると、シスターに尋ねた。
「シスター、その後またジェニーに会ったのですか?」
「いいえ、会っていません。恐らく私と会えばニコラス様に秘密が知られてしまうと思ったのかもしれません」
「そうですか……でもそんなこと心配する必要は無かったのに。だってニコラスは今もジェニーのことを心から愛しているし、私との結婚を望んではいなかったのだから」
ニコラスと再会したときの出来事を思い出すと、辛い気持ちが込み上げてくる。
「ジェニファーさん。こんなことを聞いては何ですが……もしかすると、結婚生活がうまくいっていないのですか?」
悲し気なジェニファーの様子に見かねたシスターが尋ねてきた。
「はい、そうなんです。とにかく旦那様はジェニファー様に対して冷たいんですよ!」
泣き止んだポリーが不満を露わにする。
「そうなのですか? 一体何故ですか?」
「分かりません。それに、私は理由を聞いていませんから」
ジェニファーは首を振った。
ニコラスに何故自分に冷たい態度を取っているのか聞けなかった。理由を知ったところでどうにもならない。ただ余計に傷付くだけだ。
「そんな……でも、何故……」
シスターが呟いたそのとき。
ボーン
ボーン
ボーン
教会に午後1時を告げる振り子時計の音が響き渡る。
「あ、いけない。もうこんな時間だわ。そろそろ帰らないと」
後1時間後にはジョナサンのお昼寝の時間が終わって目が覚めてしまう。
「そうですね。外も今にも雨が降り出しそうですし……もうお帰りになられた方が良いでしょう」
「急ぎましょう。ジェニファー様」
「ええ、ポリー」
****
教会の外に出ると、空は重たい雲が立ち込め、吹く風は湿り気を帯びている。
シスターが通りを指さした。
「あの通りに出ると、辻馬車乗り場があります。そこに行けばすぐ馬車に乗れると思います」
「ありがとうございます、シスター」
「ありがとうございます」
ジェニファーとポリーはシスターに礼を述べると、急ぎ足で教会を後にした。
そして……事件が起こる——
シスターの話を聞き終えたジェニファーは、ブリキの箱をそっと撫でた。
「はい、そうです。ジェニーさんはこの箱も持参していました。自分で手紙を入れて鍵をかけたのです」
「それがジェニファー様の誕生日の日付なのですね?」
「はい、そうです」
ポリーの質問にシスターは頷く。そこでジェニファーは試しに自分の誕生日をダイヤルしてみた。するとカチリと音を立てて鍵が開いた。
「開いた……ジェニー、私の誕生日を覚えていてくれたのね」
ジェニファーは箱を抱きしめた。すると、突然シスターが謝ってきた。
「申し訳ございません、ジェニファー様」
「シスター? 何故謝るのですか?」
「はい……私が2年前、ニコラス様に本当のことを告げるようにジェニーさんを説得することができていれば、こんなことにはならなかったはずなのに……。けれど死期が近いと聞かされ、説得できませんでした」
「シスターは何も悪くありません。それに私なら大丈夫ですから。ジェニーの夢は、いつか王子様が自分のことを迎えに来てくれることだったのです。その夢をニコラスが叶えてくれたのですから」
(ジェニーは私に色々なことを教えてくれたわ。テーブルマナーや勉強だって……。ジェニーとフォルクマン伯爵のおかげで、短い間だったけど教育を受けることも出来たのだもの)
「そ、そんな……ジェニファー様はそれでもいいんですか!?」
不意にポリーが大きな声を上げた。その顔は今にも泣きそうになっている。
「ポリー、どうしたの?」
「だってジェニー様が嘘をつかなければ、旦那様は結婚相手にジェニファー様を選んでいたわけですよ!?」
「だけど、初めに嘘をついたのは私なのだもの。ニコラスの前でジェニーと名乗ったのだから」
例え今は叶わない恋だとしても、かつては両想い同士だったのだ。それが分かっただけでもジェニファーは十分だった。
「それだって、ジェニー様に命じられたからではありませんか! こんなのって……ひ、酷すぎます……」
とうとうポリーは泣き出してしまった。
「ありがとう、ポリー。私の為に、そんなに泣いてくれるなんて。でも私、どうしてもジェニーを恨むことは出来ないの」
「何故ですか……?」
「だって、ジェニーが気の毒だからよ。身体が弱いせいで、色々な所へ出掛けることも出来なかったし、それに何より……こんなに可愛い子を残して先に逝かなければならなかったのよ? どんなにか辛かったと思うわ……」
ジェニファーはベビーカーの中で眠るジョナサンの髪をそっと撫でると、シスターに尋ねた。
「シスター、その後またジェニーに会ったのですか?」
「いいえ、会っていません。恐らく私と会えばニコラス様に秘密が知られてしまうと思ったのかもしれません」
「そうですか……でもそんなこと心配する必要は無かったのに。だってニコラスは今もジェニーのことを心から愛しているし、私との結婚を望んではいなかったのだから」
ニコラスと再会したときの出来事を思い出すと、辛い気持ちが込み上げてくる。
「ジェニファーさん。こんなことを聞いては何ですが……もしかすると、結婚生活がうまくいっていないのですか?」
悲し気なジェニファーの様子に見かねたシスターが尋ねてきた。
「はい、そうなんです。とにかく旦那様はジェニファー様に対して冷たいんですよ!」
泣き止んだポリーが不満を露わにする。
「そうなのですか? 一体何故ですか?」
「分かりません。それに、私は理由を聞いていませんから」
ジェニファーは首を振った。
ニコラスに何故自分に冷たい態度を取っているのか聞けなかった。理由を知ったところでどうにもならない。ただ余計に傷付くだけだ。
「そんな……でも、何故……」
シスターが呟いたそのとき。
ボーン
ボーン
ボーン
教会に午後1時を告げる振り子時計の音が響き渡る。
「あ、いけない。もうこんな時間だわ。そろそろ帰らないと」
後1時間後にはジョナサンのお昼寝の時間が終わって目が覚めてしまう。
「そうですね。外も今にも雨が降り出しそうですし……もうお帰りになられた方が良いでしょう」
「急ぎましょう。ジェニファー様」
「ええ、ポリー」
****
教会の外に出ると、空は重たい雲が立ち込め、吹く風は湿り気を帯びている。
シスターが通りを指さした。
「あの通りに出ると、辻馬車乗り場があります。そこに行けばすぐ馬車に乗れると思います」
「ありがとうございます、シスター」
「ありがとうございます」
ジェニファーとポリーはシスターに礼を述べると、急ぎ足で教会を後にした。
そして……事件が起こる——
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