上 下
160 / 203

5-6 知られざるジェニーの過去 6

しおりを挟む
 興奮した様子で話しているため、ジェニーが何を言っているのか良く理解出来なかった。

『落ち着いて下さい、ジェニーさん』

泣いているジェニーの背中を優しく撫でると、彼女は顔を上げた。

『どういうことなのか、もう一度詳しくお話聞かせて貰えませんか?』

『はい、シスター……』

顔を上げたジェニーの頬は涙で濡れいる。その涙をジェニーはハンカチで押さえながら、ゆっくり話始めた。感情が抑えきれないのか、時折嗚咽を漏らしながら……。


**

昨年休暇で別荘に滞在していた時に、突然ニコラス・テイラーと名乗る人物が従者を連れて訪ねてきたのだ。
伝えに来た使用人から名前を聞いた時、どんな人物なのかジェニーはすぐに分かった。一度も会った事は無かったけれども、初恋の相手の名前だったからだ。
しかも何も事情を知らない父親は今、別荘にはいない。

ジェニーはすぐに応接室に通されていたニコラスに会いに行った。
初めて会うニコラスは、とても美しい青年でジェニーは一目で恋に落ちてしまい……気付けば口にしていた。

『久しぶり、ニコラス。ずっとあなたに会いたかったわ』

と——


 そこから先の流れはスムーズだった。
ニコラスは定期的にジェニーに会いに来て、2人は交流を深めていくようになった。
父親にはボニートの町で偶然知り合い、互いにその場で惹かれてしまったと説明をす
ると納得してくれた。
何しろ、相手は名門の侯爵家。フォルクマン伯爵家にとっては、申し分の相手だったからだ。

 そして出会って半年で婚約、来月には結婚することに決まったのだが……。

**

『私……ずっと、ずっと後悔していたんです。だってニコラスが本当に好きだった相手は私じゃない。ジェニファーだったのだから。だけど彼のことを愛してしまったんです。どうしても彼と結婚したかった。だって私はずっと病弱で、伯爵家に生まれたのに社交界に出たことも無かったんです。当然恋だって、このチャンスを逃せば誰とも恋愛も出来ないし結婚だって出来ないと思ってそれで……ゴホッゴホッ!」

興奮しすぎたせいなのか、ジェニーが激しく咳き込んだ。

『落ち着いて下さい、ジェニーさん。興奮すると身体に障りますよ?』

『……はい、御心配おかけして……すみません』

肩で息をしながら謝るジェニー。
それにしても不思議だ。いくら二人が似ていると言っても、所詮は全くの別人。
その事に相手の男性は気付かなかったのだろうか?

『ジェニーさん。一つお聞きしたいのですが、相手の男性はジェニーさんが別人であることに気付かれなかったのですか?』

『そのことですけど……ニコラスが話してくれました。彼には腹違いの弟がいて、当主の座を狙って争っていたそうです。何度も暗殺の危機にあったことがあって……ある日、毒殺されかかったことがあったそうなのです』

『毒殺ですって!?』

思わず声を上げてしまった。

『はい。それでニコラスは1週間ほど死の淵を彷徨い、目が覚めた時には記憶喪失になってしまったそうなのです。時間の経過と共に、徐々に記憶は戻って来ましたが……ジェニファーと過ごした子供の頃の記憶が今も曖昧だそうです。今回、昔の初恋相手に会いに来たのは、侯爵家の後を継ぐのが結婚の条件をつきつけられたそうなのです』

『それで、かつての初恋の相手が忘れられず……貴女を捜しあてて会いに来たのですね?』

『はい……』

ジェニーが小さく頷いた――


しおりを挟む
感想 476

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

愛し子は自由のために、愛され妹の嘘を放置する

紅子
恋愛
あなたは私の連理の枝。今世こそは比翼の鳥となりましょう。 私は、女神様のお願いで、愛し子として転生した。でも、そのことを誰にも告げる気はない。可愛らしくも美しい双子の妹の影で、いない子と扱われても特別な何かにはならない。私を愛してくれる人とこの世界でささやかな幸せを築ければそれで満足だ。 その希望を打ち砕くことが起こるとき、私は全力でそれに抗うだろう。 完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

犠牲の恋

詩織
恋愛
私を大事にすると言ってくれた人は…、ずっと信じて待ってたのに… しかも私は悪女と噂されるように…

処理中です...