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5-4 知られざるジェニーの過去 4
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ジェニファーへの謝罪の手紙をどうしてもここで書きたいと願うジェニーの為に、ペンと便箋を用意してあげた。
『ごめんなさい。ここは教会なので、あまり良い便箋を用意してあげられなかったのだけど、これでも良いかしら?』
決して上質とは言えない便箋とペン。貴族令嬢のジェニーには似つかわしくないのは分かっていた。
『いいえ、そんなことありません。用意して頂いただけで充分です。本当にありがとうございます』
ジェニーは私に笑顔を向けると、早速懺悔室のテーブルで手紙を書き始めた。
余程真剣に考えながら書いているのだろう。途中何度も手を止め、読み返しながら手紙を書き続け……1時間かけて書き終えた。
『シスター! ジェニファーへの手紙、書けました!』
ジェニーは手紙の入った封筒を嬉しそうに見せてくる。
『そうですか、ジェニーさんにお手紙を書くことが出来て良かったですね』
『はい、それでお願いがあります。シスターがこの手紙を預かってもらえませんか?』
『え!? 私がですか!?』
予想もしていなかったお願いに大きな声を出してしまった。
『はい。もしこの手紙を家に置いておいて、お父様に見られたりしたら大変なことになってしまいます。どうかお願いします。手紙を預かってください!』
けれど、さすがに私が手紙を預かるわけにはいかない。
『ジェニーさん。こんなに大切な手紙を私が預かることはできません。それに私はここの教会にずっといられるか分からないのです。決められた任期を全うすれば他の教会に行くこともあるのです。申し訳ありませんが御自分で保管して頂けますか?』
『だったらシスターではなく、こちらの教会で預かって貰えませんか?」
『誰にも見つからないような場所に隠しておくのはいかがですか? どこか良い場所の心当たりとかはありませんか?』
『いいえ、ありません……。それにシスター。私が手紙を預かって欲しいのにはまだ理由があるのです。私は今は元気です。でもまたいつ喘息の発作が起こって入院することになるか分からない状態なんです。もし、入院になって……こんなこと考えたくないけれど、死んでしまったりしたら? 一生ジェニファーに手紙を渡すことが出来なくなってしまいます!』
『ジェニーさん……』
まさか、まだたった12歳の少女が死を意識しているなんて……!
『どうかお願いです、シスター。手紙を預かってください!』
必死で頼んでくるジェニーの姿に……ついに、私は折れた。
『分かりました。そこまでおっしゃるのであれば、私が手紙をお預かりしますね?』
『本当ですか? ありがとうございます!』
『ええ、お任せください』
必死で頼んでくる病弱な少女の願いを断るなど……私には出来なかった――
その後、ジェニーは来た時とは別人のように明るい顔で帰って行った。
また、いつかこの教会へ来ますと言い残して。
その言葉通りジェニーはそれからも別荘に来るたびにジェニファーへの謝罪の手紙を書きに教会を訪れるようになっていた。
ジェニーは会うたびに、美しく成長し……いつしか大人の女性になっていた。
そして、ついにあの日がやってきたのだった――
****
「あの日……?」
それまでじっとシスターの話を聞いていたジェニファーは首を傾げた。
空はすっかり雲に覆われ、風も出てきたのだろう。時々、教会の窓をガタガタと震わせる。
シスターは窓の外をじっと見つめ……ぽつりと口にした。
「今にも雨が降り出しそうな天気になってしまいましたね……こんな天気の日は4年前の出来事が思い出されてなりません」
「あの、4年前に何かあったのですか?」
ポリーが尋ねる。
「4年前のあの日、2年ぶりにジェニーさんが教会を訪ねて来たのです。この度、結婚することになったと私に報告をするために」
「え!?」
その話にジェニファーは息を飲む。
「結婚の報告をしに来たはずなのに、ジェニーさんはとても苦しんでいたのです……」
そしてシスターは再び静かに語りだした。
4年前の出来事を——
『ごめんなさい。ここは教会なので、あまり良い便箋を用意してあげられなかったのだけど、これでも良いかしら?』
決して上質とは言えない便箋とペン。貴族令嬢のジェニーには似つかわしくないのは分かっていた。
『いいえ、そんなことありません。用意して頂いただけで充分です。本当にありがとうございます』
ジェニーは私に笑顔を向けると、早速懺悔室のテーブルで手紙を書き始めた。
余程真剣に考えながら書いているのだろう。途中何度も手を止め、読み返しながら手紙を書き続け……1時間かけて書き終えた。
『シスター! ジェニファーへの手紙、書けました!』
ジェニーは手紙の入った封筒を嬉しそうに見せてくる。
『そうですか、ジェニーさんにお手紙を書くことが出来て良かったですね』
『はい、それでお願いがあります。シスターがこの手紙を預かってもらえませんか?』
『え!? 私がですか!?』
予想もしていなかったお願いに大きな声を出してしまった。
『はい。もしこの手紙を家に置いておいて、お父様に見られたりしたら大変なことになってしまいます。どうかお願いします。手紙を預かってください!』
けれど、さすがに私が手紙を預かるわけにはいかない。
『ジェニーさん。こんなに大切な手紙を私が預かることはできません。それに私はここの教会にずっといられるか分からないのです。決められた任期を全うすれば他の教会に行くこともあるのです。申し訳ありませんが御自分で保管して頂けますか?』
『だったらシスターではなく、こちらの教会で預かって貰えませんか?」
『誰にも見つからないような場所に隠しておくのはいかがですか? どこか良い場所の心当たりとかはありませんか?』
『いいえ、ありません……。それにシスター。私が手紙を預かって欲しいのにはまだ理由があるのです。私は今は元気です。でもまたいつ喘息の発作が起こって入院することになるか分からない状態なんです。もし、入院になって……こんなこと考えたくないけれど、死んでしまったりしたら? 一生ジェニファーに手紙を渡すことが出来なくなってしまいます!』
『ジェニーさん……』
まさか、まだたった12歳の少女が死を意識しているなんて……!
『どうかお願いです、シスター。手紙を預かってください!』
必死で頼んでくるジェニーの姿に……ついに、私は折れた。
『分かりました。そこまでおっしゃるのであれば、私が手紙をお預かりしますね?』
『本当ですか? ありがとうございます!』
『ええ、お任せください』
必死で頼んでくる病弱な少女の願いを断るなど……私には出来なかった――
その後、ジェニーは来た時とは別人のように明るい顔で帰って行った。
また、いつかこの教会へ来ますと言い残して。
その言葉通りジェニーはそれからも別荘に来るたびにジェニファーへの謝罪の手紙を書きに教会を訪れるようになっていた。
ジェニーは会うたびに、美しく成長し……いつしか大人の女性になっていた。
そして、ついにあの日がやってきたのだった――
****
「あの日……?」
それまでじっとシスターの話を聞いていたジェニファーは首を傾げた。
空はすっかり雲に覆われ、風も出てきたのだろう。時々、教会の窓をガタガタと震わせる。
シスターは窓の外をじっと見つめ……ぽつりと口にした。
「今にも雨が降り出しそうな天気になってしまいましたね……こんな天気の日は4年前の出来事が思い出されてなりません」
「あの、4年前に何かあったのですか?」
ポリーが尋ねる。
「4年前のあの日、2年ぶりにジェニーさんが教会を訪ねて来たのです。この度、結婚することになったと私に報告をするために」
「え!?」
その話にジェニファーは息を飲む。
「結婚の報告をしに来たはずなのに、ジェニーさんはとても苦しんでいたのです……」
そしてシスターは再び静かに語りだした。
4年前の出来事を——
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