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5-1 知られざるジェニーの過去 1
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今にも雨が降りだしそうな空の下、ジェニファー達は教会へ戻って来た。ジョナサンはベビーカーの中で気持ちよさそうに眠っている。
ポリーと一緒に礼拝堂で待っているとシスターがブリキの箱を抱えて持ってきた。
「ジェニファー様。こちらがジェニー様からお預かりしていたものです」
「え? この箱ですか?」
白く塗られ、バラの模様が描かれたブリキの箱には鍵がかかっている。
「ジェニファー様、これってダイヤル式の鍵ですよね」
ポリーがジェニファーに話しかけてきた。その鍵は4つの数字を並べて解除するものだったのだ。
「そうね……あの、鍵の番号は御存知ですか?」
ジェニファーの質問にシスターは首を振る。
「申し訳ございません。私は番号を聞いておりませんが、ジェニー様がおっしゃっておりました。解除する番号はジェニファー様の誕生日だと」
「え? 私の誕生日?」
「はい、そうです」
自分の誕生日が鍵の解除番号ということを知り、ジェニファーは目を見開く。
(どうしてジェニーは鍵の番号を私の誕生日に設定したのかしら? 確かにジェニーに誕生日を聞かれて教えたことはあったけど……)
「もしかしてジェニファー様以外には箱の中身を見られたくは無かったのではありませんか?」
「そうなのかしら……」
ポリーの話に首を傾げるジェニファー。
「ええ、そうに決まっています。そうでなければシスターに箱を預けるとき、渡す相手をジェニファー様に限定するはずありませんよ」
そこでジェニファーは再度シスターに尋ねてみることにした。
「シスター。差し支えなければ、どのような経緯でジェニーから箱を預かったのか教えて頂けませんか?」
「ええ、いいですよ。ジェニファー様には知る権利がありますから。ジェニー様が初めてこの教会を訪れたのは彼女が12歳になったばかりの頃でした……」
シスターはどこか遠い目で、過去の話を始めた——
****
それは穏やかな初夏の風が吹く5月の出来事だった。
『シスター、ではまた来週伺いますね』
『今日も素敵なお話、ありがとうございました』
『エドワード様、マーティス様。お気をつけてお帰り下さいね』
私がブランシュ教会に赴任して半年。
ようやくこの町の生活にも慣れてきた。朝の礼拝に訪れた人々を見送り、中へ入ろうとした時。薄紫色の上品なワンピースを着た10歳前後の美しい金の髪の少女がじっと教会を見つめていることに気付いた。
あの少女は一体……? そこで声をかけてみることにした。
『こんにちは、お嬢さん。何か教会に御用ですか?』
すると少女は躊躇いがちに返事をしてくれた。
『あ、あの……私、礼拝に参加したくて来たのですけど……』
『まぁ、そうだったのですか? 礼拝はたった今終わってしまったところですけど、お祈りならいつでも出来ますよ。中に入りますか?』
『本当ですか? ありがとうございます』
『では、お入り下さい』
『はい』
少女を教会の中に案内すると、感心したかのように上を見上げた。
『……すごい‥…。ここの教会はとても大きいのですね。飾られているステンドグラスもとても素敵です』
『ありがとうございます。この教会は貴族の方たちが大勢お祈りに訪れて、寄付して下さるので他の教会よりも大きくて、内装も整っているのだと思いますよ』
私は隠し立てすることなく少女に説明すると、意外な質問をされた。
『……あの、この教会では孤児の子供たちを預かったりはしていないのですか?』
『いえ? この教会では行っておりませんね。あるとすれば、町の中にある教会です』
『では、この教会には孤児の子供たちはいないということですね?』
少女はどこかホッとした笑顔を見せると祭壇の前に跪き、両手を組んで目を閉じた。
恐らく何か祈りを捧げているのだろう。
私は少し離れた場所で少女の祈りが終わるのを待った。
少女は余程信心深いのか、かなり長い時間祈りを捧げ……やがて立ち上がった。
『シスター、ありがとうございました』
『いいえ、それにしてもお嬢さんはとても信心深い方なのですね? こんなに長い間祈りを捧げている人は滅多にいません。さぞかし、清い心の持ち主なのでしょうね』
『いえ……違うんです』
すると少女は悲し気に目を伏せた。何かいけないことを口にしてしまっただろうか?
『どうかなさったのですか?』
『私は……清い心なんか持っていないんです……! わ、私……!』
突如、少女は顔を覆って肩を震わせた。
『もしかして……泣いているのですか?』
すると少女は顔を上げて叫んだ。
『お祈りに来たんじゃないんです! わ、私は……すごく悪い子なんです! だから神様に懺悔する為に、この教会へ来たんです!』
少女の目には、大粒の涙が浮かんでいた——
ポリーと一緒に礼拝堂で待っているとシスターがブリキの箱を抱えて持ってきた。
「ジェニファー様。こちらがジェニー様からお預かりしていたものです」
「え? この箱ですか?」
白く塗られ、バラの模様が描かれたブリキの箱には鍵がかかっている。
「ジェニファー様、これってダイヤル式の鍵ですよね」
ポリーがジェニファーに話しかけてきた。その鍵は4つの数字を並べて解除するものだったのだ。
「そうね……あの、鍵の番号は御存知ですか?」
ジェニファーの質問にシスターは首を振る。
「申し訳ございません。私は番号を聞いておりませんが、ジェニー様がおっしゃっておりました。解除する番号はジェニファー様の誕生日だと」
「え? 私の誕生日?」
「はい、そうです」
自分の誕生日が鍵の解除番号ということを知り、ジェニファーは目を見開く。
(どうしてジェニーは鍵の番号を私の誕生日に設定したのかしら? 確かにジェニーに誕生日を聞かれて教えたことはあったけど……)
「もしかしてジェニファー様以外には箱の中身を見られたくは無かったのではありませんか?」
「そうなのかしら……」
ポリーの話に首を傾げるジェニファー。
「ええ、そうに決まっています。そうでなければシスターに箱を預けるとき、渡す相手をジェニファー様に限定するはずありませんよ」
そこでジェニファーは再度シスターに尋ねてみることにした。
「シスター。差し支えなければ、どのような経緯でジェニーから箱を預かったのか教えて頂けませんか?」
「ええ、いいですよ。ジェニファー様には知る権利がありますから。ジェニー様が初めてこの教会を訪れたのは彼女が12歳になったばかりの頃でした……」
シスターはどこか遠い目で、過去の話を始めた——
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それは穏やかな初夏の風が吹く5月の出来事だった。
『シスター、ではまた来週伺いますね』
『今日も素敵なお話、ありがとうございました』
『エドワード様、マーティス様。お気をつけてお帰り下さいね』
私がブランシュ教会に赴任して半年。
ようやくこの町の生活にも慣れてきた。朝の礼拝に訪れた人々を見送り、中へ入ろうとした時。薄紫色の上品なワンピースを着た10歳前後の美しい金の髪の少女がじっと教会を見つめていることに気付いた。
あの少女は一体……? そこで声をかけてみることにした。
『こんにちは、お嬢さん。何か教会に御用ですか?』
すると少女は躊躇いがちに返事をしてくれた。
『あ、あの……私、礼拝に参加したくて来たのですけど……』
『まぁ、そうだったのですか? 礼拝はたった今終わってしまったところですけど、お祈りならいつでも出来ますよ。中に入りますか?』
『本当ですか? ありがとうございます』
『では、お入り下さい』
『はい』
少女を教会の中に案内すると、感心したかのように上を見上げた。
『……すごい‥…。ここの教会はとても大きいのですね。飾られているステンドグラスもとても素敵です』
『ありがとうございます。この教会は貴族の方たちが大勢お祈りに訪れて、寄付して下さるので他の教会よりも大きくて、内装も整っているのだと思いますよ』
私は隠し立てすることなく少女に説明すると、意外な質問をされた。
『……あの、この教会では孤児の子供たちを預かったりはしていないのですか?』
『いえ? この教会では行っておりませんね。あるとすれば、町の中にある教会です』
『では、この教会には孤児の子供たちはいないということですね?』
少女はどこかホッとした笑顔を見せると祭壇の前に跪き、両手を組んで目を閉じた。
恐らく何か祈りを捧げているのだろう。
私は少し離れた場所で少女の祈りが終わるのを待った。
少女は余程信心深いのか、かなり長い時間祈りを捧げ……やがて立ち上がった。
『シスター、ありがとうございました』
『いいえ、それにしてもお嬢さんはとても信心深い方なのですね? こんなに長い間祈りを捧げている人は滅多にいません。さぞかし、清い心の持ち主なのでしょうね』
『いえ……違うんです』
すると少女は悲し気に目を伏せた。何かいけないことを口にしてしまっただろうか?
『どうかなさったのですか?』
『私は……清い心なんか持っていないんです……! わ、私……!』
突如、少女は顔を覆って肩を震わせた。
『もしかして……泣いているのですか?』
すると少女は顔を上げて叫んだ。
『お祈りに来たんじゃないんです! わ、私は……すごく悪い子なんです! だから神様に懺悔する為に、この教会へ来たんです!』
少女の目には、大粒の涙が浮かんでいた——
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