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4−22 ジェニーのお墓参り 3
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「あの、私がどうかしましたか?」
ジェニファーはシスターに尋ねた。
「い、いえ。あまりにもジェニー様に良く似ていらしたので、驚いてしまったのです」
「え!? もしかしてジェニーのことを御存知なのですか?」
「はい。まだ子供だった頃からジェニー様のことは存じ上げております。よく別荘に療養に来られておりましたから」
「療養に……」
そのとき。
「マァマッ! オンモ、イク!」
ジェニファーの腕の中にいたジョナサンが外を指さした。
「あ、ごめんなさい。ジョナサン、お外に行きたいのね?」
優しくジョナサンの頭を撫でると、シスターが目を見開き、身体を震わせた。
「ジョナサン……? ま、まさかその子供は、ジェニー様の……?」
「シスターはジョナサンのことまで御存知だったのですか?」
ジェニファーの問いかけに神妙そうな顔つきでシスターは頷く。
「ええ。ジェニー様は、『ボニート』に来るたびにこの教会を訪ね……『懺悔室』を利用しておりましたから……妊娠中の頃も」
「「懺悔室……?」」
その言葉に、ジェニファーとポリーは首を傾げた——
****
「もうすぐ、ジェニー様のお墓が見えてまいりますよ」
小高い丘を登りながら、先頭に立つシスターが振り返った。周囲には整然と墓標が建ち並んでいる。
シスター自らがジェニーのお墓のある場所まで案内を申し出てくれたのだ。
「圧巻の光景ですね。でも似たようなお墓ばかりで、これではどれがジェニー様のお墓なのか分かりませんね」
ポリーが周囲を見渡す。
「確かにその通りね」
ジョナサンを抱っこ紐で抱きかかえいているジェニファーが返事をしたそのとき。少し離れた場所にいたシスターが手招きしてきた。
「皆さん、こちらです。ジェニー様のお墓はこちらにありますよ」
「ジェニファー様、行きましょう」
「ええ」
シスターはまだ新しい墓標の前に立っていた。
「これがジェニーのお墓ですか?」
「はい、そうです。名前も刻まれていますよ」
シスターが指示した場所にはジェニーの名前と没年、年齢が刻まれている。
「ジェニー・テイラー、享年23歳、ここに眠る……」
刻まれた文字を読み上げ、ジェニファーの胸に熱いものが込み上げてきた。
「なんて可愛そうなの? まだ、たった23歳でこの世を去るなんて……こんなに可愛いジョナサンを残して、さぞかし辛かったでしょうね」
ジェニファーは腕の中にいるジョナサンを抱きしめた。
「ジェニファー様……」
ポリーは悲しげな瞳でジェニファーを見つめる。
「ジェニーは皆に愛されていたわ。ニコラスにも、お父様でいらっしゃるフォルクマン伯爵……それに使用人の人達全てに。私とは違って」
自分が周囲からどう思われているのかは良く分かっていた。ジェニーは愛され、自分は嫌われている。
「いっそ、私がジェニーの身代わりになれれば良かったのに」
するとその言葉にポリーが反論した。
「何を仰っているのですか!? ジェニファー様!」
「ポ、ポリー?」
「私はジェニー様がどのような方だったかは分かりません。ですが、私がお慕いして、仕えている方はジェニファー様なのです! シドさんだってジェニファー様だからニコラス様に頼みこんで、護衛騎士を務めていたのですよ? それに、一番ジェニファー様を必要としているのは……ジョナサン様です。だから……そんなこと言わないで下さい……」
ポリーの目には涙が浮かんでいた。
(ポリーが私の為に、泣いている……?)
「ごめんなさい、ポリー。あなたを悲しませることを言ってしまったわね」
ジェニファーはポリーの頭をそっと撫でた
「ジェニファー様……」
すると今まで黙って様子を見ていたシスターが口を開いた。
「ジェニファー様。先ほどは話が中断してしまいましたが、実はジェニー様から、あなた宛てに預かりしている物があるのです。教会に大切に保管してあります。受け取って頂けますか?」
「え? 私あてに?」
澄み切った青空はいつの間にか灰色の雲に覆われ……湿った風が吹き始めていた——
ジェニファーはシスターに尋ねた。
「い、いえ。あまりにもジェニー様に良く似ていらしたので、驚いてしまったのです」
「え!? もしかしてジェニーのことを御存知なのですか?」
「はい。まだ子供だった頃からジェニー様のことは存じ上げております。よく別荘に療養に来られておりましたから」
「療養に……」
そのとき。
「マァマッ! オンモ、イク!」
ジェニファーの腕の中にいたジョナサンが外を指さした。
「あ、ごめんなさい。ジョナサン、お外に行きたいのね?」
優しくジョナサンの頭を撫でると、シスターが目を見開き、身体を震わせた。
「ジョナサン……? ま、まさかその子供は、ジェニー様の……?」
「シスターはジョナサンのことまで御存知だったのですか?」
ジェニファーの問いかけに神妙そうな顔つきでシスターは頷く。
「ええ。ジェニー様は、『ボニート』に来るたびにこの教会を訪ね……『懺悔室』を利用しておりましたから……妊娠中の頃も」
「「懺悔室……?」」
その言葉に、ジェニファーとポリーは首を傾げた——
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「もうすぐ、ジェニー様のお墓が見えてまいりますよ」
小高い丘を登りながら、先頭に立つシスターが振り返った。周囲には整然と墓標が建ち並んでいる。
シスター自らがジェニーのお墓のある場所まで案内を申し出てくれたのだ。
「圧巻の光景ですね。でも似たようなお墓ばかりで、これではどれがジェニー様のお墓なのか分かりませんね」
ポリーが周囲を見渡す。
「確かにその通りね」
ジョナサンを抱っこ紐で抱きかかえいているジェニファーが返事をしたそのとき。少し離れた場所にいたシスターが手招きしてきた。
「皆さん、こちらです。ジェニー様のお墓はこちらにありますよ」
「ジェニファー様、行きましょう」
「ええ」
シスターはまだ新しい墓標の前に立っていた。
「これがジェニーのお墓ですか?」
「はい、そうです。名前も刻まれていますよ」
シスターが指示した場所にはジェニーの名前と没年、年齢が刻まれている。
「ジェニー・テイラー、享年23歳、ここに眠る……」
刻まれた文字を読み上げ、ジェニファーの胸に熱いものが込み上げてきた。
「なんて可愛そうなの? まだ、たった23歳でこの世を去るなんて……こんなに可愛いジョナサンを残して、さぞかし辛かったでしょうね」
ジェニファーは腕の中にいるジョナサンを抱きしめた。
「ジェニファー様……」
ポリーは悲しげな瞳でジェニファーを見つめる。
「ジェニーは皆に愛されていたわ。ニコラスにも、お父様でいらっしゃるフォルクマン伯爵……それに使用人の人達全てに。私とは違って」
自分が周囲からどう思われているのかは良く分かっていた。ジェニーは愛され、自分は嫌われている。
「いっそ、私がジェニーの身代わりになれれば良かったのに」
するとその言葉にポリーが反論した。
「何を仰っているのですか!? ジェニファー様!」
「ポ、ポリー?」
「私はジェニー様がどのような方だったかは分かりません。ですが、私がお慕いして、仕えている方はジェニファー様なのです! シドさんだってジェニファー様だからニコラス様に頼みこんで、護衛騎士を務めていたのですよ? それに、一番ジェニファー様を必要としているのは……ジョナサン様です。だから……そんなこと言わないで下さい……」
ポリーの目には涙が浮かんでいた。
(ポリーが私の為に、泣いている……?)
「ごめんなさい、ポリー。あなたを悲しませることを言ってしまったわね」
ジェニファーはポリーの頭をそっと撫でた
「ジェニファー様……」
すると今まで黙って様子を見ていたシスターが口を開いた。
「ジェニファー様。先ほどは話が中断してしまいましたが、実はジェニー様から、あなた宛てに預かりしている物があるのです。教会に大切に保管してあります。受け取って頂けますか?」
「え? 私あてに?」
澄み切った青空はいつの間にか灰色の雲に覆われ……湿った風が吹き始めていた——
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