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4−17 シドの確信

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 ジェニファーが城の前まで辿り着くと、突然目の前の扉が開かれてシドが姿を現した。

「お帰りなさいませ、ジェニファー様」

「シ、シド……驚いたわ。まさかあなたが出迎えてくれるなんて」

「申し訳ございません。驚かせてしまいましたか?」

シドが少しだけ悲しそうな顔つきになる。

「いえ、それほどでもないから気にしないで。ところで何故シドがここにいるの?」

「窓の外を眺めていたから、ジェニファー様が戻ってくる姿が見えたからです。大きな荷物を持っていたので扉を開けに来ました」

しかしそれは少し違っていた。本当はずっとジェニファーが帰って来るのを、今か今かと待ちわびていたのだ。

「そうだったのね。ありがとう」

「ところでジェニファー様、その荷物は一体何でしょうか?」

シドは足元に置かれたクロスに包まれた大きな荷物を指さした。

(ジェニファー様の後をつけていたので本当は知っているが……ここでは尋ねた方が自然だろう)

「これはね、ポピーの花が入っているの。ジェニーが好きだった花だから部屋に飾ってあげたくて」

「そうだったのですね。なら俺が運びますよ」

シドは荷物を抱え上げた。

「ありがとう、シド」

「いえ、では行きましょう」

「そうね。ジョナサンも待っているだろうし」

そして2人はジェニファーの部屋へ向かった――


****

「ジェニファー様、随分とお早いお帰りでしたね?」

部屋に戻るとポリーが待っていた。

「ただいま、ポリー。ジョナサンはどうしてるのかしら?」

「ジョナサン様ならたった今、お昼寝に入られたところです」

ベビーベッドにはジョナサンがスヤスヤと眠っている姿が見える。

「私がいなくて、ぐずったりとかはしなかった?」

「ええ、大丈夫でした。ところで……シドさん、その荷物は何でしょうか? 何だかよい香りがしますけど」

ポリーはシドがテーブルの上に置いた大きな荷物を見て首を傾げると、シドがジェニファーに尋ねた。

「ジェニファー様、開けても良いですか?」

「ええ。お願い」

早速シドがクロスの結び目を解くとオレンジや赤にピンクといった大輪の花が現れ、ポリーが目を丸くする。

「まぁ、花だったのですか? とても綺麗ですね」

「ジェニファー様、この花は何という名前ですか?」

あまり花に詳しくないシドがジェニファーに質問した。

「この花はポピーよ。部屋に飾りたくて摘んできたの」

「だったら、しおれる間に花瓶に差した方が良いですね。私、庭師さんの所に行って花瓶を貰ってきます」

「ありがとう、ポリー」

ポリーは笑顔で頷くと元気よく部屋を出て行くと、シドは神妙な面持ちで尋ねた。

「ジェニファー様、この花はどうされたのですか?」

ジェニファーの後をつけていたから、花の出どころは分かっている。自分で卑怯な真似をしていると自覚はあったが、どうしてもシドはジェニファーの口から聞きたかった。

「フォルクマン伯爵が以前所有していた別荘の周りに生えていた花を摘んできたの。ジェニーは窓から見えるこの花が大好きだったから……」

「あの別荘はジェニファー様にとっては良い思い出が無いところではないのですか?
それに何故、ジェニー様の好きだった花を摘んできたのです?」

するとジェニファーの表情が曇った。

「多分、ジェニーの命日が近いと思ったから……彼女への手向けとして、この花を部屋に飾りたかったの……余計なことをしていると思われるかもしれないけど」

「ジェニファー様は、ジェニー様の命日を御存知無かったのですか?」

「え? シドは知っているの?」

「いえ。詳しくは知りませんが、確か命日は今から二カ月程前だったと思います」

「二か月前……お墓の場所は知っている?」

「申し訳ございません。あの頃の俺はニコラス様とは距離を空けていたので分かりません。何しろ、ジェニー様は俺のことを避けていましたから」

シドは吐き捨てるように言った。
もうこの世にはいないジェニーではあったが、シドにとっては今もジェニファーを苦しめる憎い存在だったのだ。

「そう、残念だわ。シドが知っていればお墓参りに行けたのに。ニコラスに聞くわけにもいかないから」

「何故、ニコラス様に聞けないのですか?」

「私がジェニーのお墓参りに行くのを良く思わない気がして」

育ってきた環境から、ジェニファーは人の顔色ばかり伺う臆病な性格になってしまっていた。

「そんなこと無いと思います。多分尋ねれば教えていただけるのではありませんか? 俺はそんな気がします」

「本当に、そう思うの?」

驚いた様にジェニファーはシドを見上げた。

「ええ、そう思います」

「分かったわ、ならニコラスに尋ねてみるわ」

ジェニファーは覚悟を決めた。

そしてこの決断が……やがてニコラスとジェニファーの関係を大きく変えるきっかけになるのだった――





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