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4−9 外出の願い
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朝食後――
ココにジョナサンの世話を頼んだジェニファーは手早く入浴を済ませ、身支度を整えるとニコラスの元へ向かった。
「確か、ここがニコラスの書斎だったかしら?」
使用人にあらかじめ、ニコラスの書斎は聞いていた。そこでジェニファーは一度深呼吸すると、扉をノックした。
—―コンコン
すると扉が開かれ、シドが現れた。
「まぁ、シド!」
まさかシドがいるとは思わず、ジェニファーは目を見開いた。
「ジェニファー様ではありませんか。もしかしてニコラス様に会いにいらしたのですか?」
「そうなの。シドがいると言う事は、この部屋が書斎であっているのね? お話があって、訪ねてみたのだけど……今、大丈夫かしら?」
「ニコラス様に聞いてみますので、お待ちください」
「ええ。お願い」
シドはジェニファーを扉の前で待たせると、ニコラスの元へ戻った。
「ニコラス様、ジェニファー様がいらしたのですが」
「え? ジェニファーが? 中に入るように伝えてくれ」
仕事をしていたニコラスが顔を上げる。
「分かりました」
**
シドに招き入れられたジェニファーは丁寧にニコラスに挨拶をした。
「ニコラス様。お仕事でお忙しい中、時間を取っていただきありがとうございます」
「……ああ。それで、何の用だ?」
ジェニファーに対し、色々複雑な気持ちを抱きながら頷くニコラス。
「シドから聞きました。こちらに滞在する期間を1週間程延ばして下さるそうですね? ありがとうございます」
「別に君の為に滞在期間を延長する訳じゃないから、お礼は別に言わなくてもいい」
「!」
ニコラスの何処か冷たい物言いに、シドは肩をピクリと動かした。
(まただ……! 何故ニコラス様はこんなに冷たい態度をジェニファー様に取るのだ?)
シドは何故ニコラスがジェニファーに冷たい態度を取っているのか理由を知らない。
何故ならジェニーがいた頃、彼女はシドの存在を嫌がって遠ざけていたからだ。
夜な夜な、寝言でジェニファーの名を口にして謝罪していたことなど知る由も無い。
けれどジェニファーは左程気にも留めない様子で、言葉を続けた。
「そうだったのですね。それで今度はお願いしたいことがあるのですが……」
「お願い? 何だ?」
「はい。あの……本日外出してきてもよろしいでしょうか? 少し町を見て回りたいのですけど……」
何処か躊躇いがちに尋ねるジェニファー。
「そうか、出掛けたいなら好きにしてくれ。俺に許可を取る必要も無い。大体君は使用人ではないのだからな」
「ありがとうございます。それでジョナサン様のことですが……」
「ジョナサンのことなら使用人に今日は任せるから、気にしなくていいぞ」
「お気遣い、ありがとうございます」
どこかホッとした様子のジェニファーを不機嫌そうに見つめるニコラス。
(何故、いつも俺に対する態度はオドオドしているんだ? 夢の中では俺をニコラスと呼んでいたのに……)
「出掛けるなら、俺がついて行きます。いいですよね、ニコラス様」
突然シドが名乗りを上げ、ニコラスが頷く。
「そうだな、それがいいかもしれない」
「そんな、大丈夫です! 私1人なら、付き添いは大丈夫ですから!」
「ですが……」
尚もシドが食い下がろうとした時、ニコラスが口を挟んできた。
「分かった、たまには1人で出掛けたいときもあるだろう。行ってくるがいい」
「本当ですか? ありがとうございます。ニコラス様」
ジェニファーは口元に笑みを浮かべてお礼を述べたのだった。
****
「よろしかったのですか? ニコラス様」
ジェニファーが部屋を出て行ったあと、シドが神妙な顔つきでニコラスを見つめる。
「仕方ないだろう? ジェニファーは1人で出掛けたいと言ってるのだから。……もしかして誰かと会うのかもしれないし」
「誰かとは、誰のことを言ってるのですか?」
「シド、随分ムキになって聞いてくるな。一体どうしたんだ?」
「い、いえ。別にムキになってるわけではありませんが」
「そうか? でもお前だって俺が誰のことを話しているのか本当は分かっているのだろう?」
「はい……」
2人の脳裏にダンの姿が浮かんだのは……言うまでも無かった――
ココにジョナサンの世話を頼んだジェニファーは手早く入浴を済ませ、身支度を整えるとニコラスの元へ向かった。
「確か、ここがニコラスの書斎だったかしら?」
使用人にあらかじめ、ニコラスの書斎は聞いていた。そこでジェニファーは一度深呼吸すると、扉をノックした。
—―コンコン
すると扉が開かれ、シドが現れた。
「まぁ、シド!」
まさかシドがいるとは思わず、ジェニファーは目を見開いた。
「ジェニファー様ではありませんか。もしかしてニコラス様に会いにいらしたのですか?」
「そうなの。シドがいると言う事は、この部屋が書斎であっているのね? お話があって、訪ねてみたのだけど……今、大丈夫かしら?」
「ニコラス様に聞いてみますので、お待ちください」
「ええ。お願い」
シドはジェニファーを扉の前で待たせると、ニコラスの元へ戻った。
「ニコラス様、ジェニファー様がいらしたのですが」
「え? ジェニファーが? 中に入るように伝えてくれ」
仕事をしていたニコラスが顔を上げる。
「分かりました」
**
シドに招き入れられたジェニファーは丁寧にニコラスに挨拶をした。
「ニコラス様。お仕事でお忙しい中、時間を取っていただきありがとうございます」
「……ああ。それで、何の用だ?」
ジェニファーに対し、色々複雑な気持ちを抱きながら頷くニコラス。
「シドから聞きました。こちらに滞在する期間を1週間程延ばして下さるそうですね? ありがとうございます」
「別に君の為に滞在期間を延長する訳じゃないから、お礼は別に言わなくてもいい」
「!」
ニコラスの何処か冷たい物言いに、シドは肩をピクリと動かした。
(まただ……! 何故ニコラス様はこんなに冷たい態度をジェニファー様に取るのだ?)
シドは何故ニコラスがジェニファーに冷たい態度を取っているのか理由を知らない。
何故ならジェニーがいた頃、彼女はシドの存在を嫌がって遠ざけていたからだ。
夜な夜な、寝言でジェニファーの名を口にして謝罪していたことなど知る由も無い。
けれどジェニファーは左程気にも留めない様子で、言葉を続けた。
「そうだったのですね。それで今度はお願いしたいことがあるのですが……」
「お願い? 何だ?」
「はい。あの……本日外出してきてもよろしいでしょうか? 少し町を見て回りたいのですけど……」
何処か躊躇いがちに尋ねるジェニファー。
「そうか、出掛けたいなら好きにしてくれ。俺に許可を取る必要も無い。大体君は使用人ではないのだからな」
「ありがとうございます。それでジョナサン様のことですが……」
「ジョナサンのことなら使用人に今日は任せるから、気にしなくていいぞ」
「お気遣い、ありがとうございます」
どこかホッとした様子のジェニファーを不機嫌そうに見つめるニコラス。
(何故、いつも俺に対する態度はオドオドしているんだ? 夢の中では俺をニコラスと呼んでいたのに……)
「出掛けるなら、俺がついて行きます。いいですよね、ニコラス様」
突然シドが名乗りを上げ、ニコラスが頷く。
「そうだな、それがいいかもしれない」
「そんな、大丈夫です! 私1人なら、付き添いは大丈夫ですから!」
「ですが……」
尚もシドが食い下がろうとした時、ニコラスが口を挟んできた。
「分かった、たまには1人で出掛けたいときもあるだろう。行ってくるがいい」
「本当ですか? ありがとうございます。ニコラス様」
ジェニファーは口元に笑みを浮かべてお礼を述べたのだった。
****
「よろしかったのですか? ニコラス様」
ジェニファーが部屋を出て行ったあと、シドが神妙な顔つきでニコラスを見つめる。
「仕方ないだろう? ジェニファーは1人で出掛けたいと言ってるのだから。……もしかして誰かと会うのかもしれないし」
「誰かとは、誰のことを言ってるのですか?」
「シド、随分ムキになって聞いてくるな。一体どうしたんだ?」
「い、いえ。別にムキになってるわけではありませんが」
「そうか? でもお前だって俺が誰のことを話しているのか本当は分かっているのだろう?」
「はい……」
2人の脳裏にダンの姿が浮かんだのは……言うまでも無かった――
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