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4−4 あの頃と同じ
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シドがダイニングルームへ行ってみると、誰もいない食卓でジェニファーは1人食事をしていた。
「ジェニファー様」
背後から声をかけると、ジェニファーは振り返った。
「まぁ、シド。一体どうしたの?」
「先程ニコラス様と話をして、ジェニファー様がまだダイニングルームにいると伺って様子を見に来たのですが……どうなさったのですか? 殆ど料理が減っていないようですが」
皿の上に並べられた料理は殆ど手つかず状態だった。
「ええ。ちょっと食欲がわかなくて……折角こんなに御馳走を用意してもらったのだから、残すわけにはいかないでしょう? だって申し訳ないもの。だけど……」
「ジェニファー様、もしかして食事のときに何かありましたか?」
「え? ど、どうしてそう思うの?」
「それは、普段のジェニファー様でしたらこれほどまでに料理に手つかずだったことがありませんでしたから」
「……」
思わずジェニファーは口を閉ざす。
「何か気に病むことがあるなら、話して頂けませんか? 俺でよければ相談に乗ります」
「シド……」
「はい、何でしょう?」
「あなたはお食事、終わった?」
「いえ、まだですけど」
「あの……もしシドさえよければ、食べるのを手伝ってもらえないかしら? このお皿の料理は全く手を付けていないから」
ジェニファーは肉料理と、野菜のソテー、バゲットを勧めてきた。
「分かりました。では頂きます」
ジェニファーの頼みをシドが断れるはず無かった。
「本当? ありがとう、シド」
「いえ」
笑顔を向けられてシドは思わず赤くなる。けれど燭台のオレンジ色に揺れる炎のお陰でジェニファーには気付かれなかった。
「……美味しいですね」
料理を口にすると、シドはジェニファーに話しかけた。
「ええ、そうね」
ジェニファーは返事をするも、どこかその表情はうつろだ。
「俺はニコラス様の護衛騎士ですが、ジェニファー様の味方ですから」
「え?」
驚いた様にジェニファーは顔を上げた。
「俺ではジェニファー様の力になれませんか?」
「ありがとう。シドは、昔と変わらないのね。あの頃と同じ。親切で、とても頼りになる人だわ」
ジェニファーはシドを見つめ、笑みを浮かべる。
「ジェニファー様。何か心に思い悩むことがあるなら話していただけませんか?」
「……」
すこしの間ジェニファーは口を閉ざしていたが……突然目の前のワイングラスに手を伸ばすと、グイッと一気に飲み干した。
「え? ジェニファー様!?」
グラスをテーブルに戻したジェニファーはポツリと言った。
「私ね……自分では知らなかったけど……ずっとジェニーを苦しめてきたみたいなの……」
「ジェニファー様がですか? そんな、信じられません! むしろ一番苦しめられてきたのはジェニファー様の方じゃないですか!」
「だけど、ニコラスが……それに、テイラー侯爵家でも私は歓迎されていなかったたし……私、自分では意識しないままジェニーを苦しめてきたのか……も」
そこまで言うと、ジェニファーはテーブルの上に突っ伏してしまった。
「え!? ジェニファー様!?」
覗き込むと、ジェニファーは瞳を閉じて寝息を立てていた。酔いが回って眠りについてしまったのだ。
シドは椅子から立ち上がると、眠るジェニファーに声をかけた。
「失礼いたします」
ジェニファーを抱き上げると、シドは廊下へ向かった。
「……ジェニー……ごめんなさい……」
シドの腕の中で寝言を呟くジェニファーの目には、一筋の涙が流れていた。
その姿がシドの胸を締め付ける。
「ジェニファー様……」
シドは眠るジェニファーの額に、そっとキスをした――
「ジェニファー様」
背後から声をかけると、ジェニファーは振り返った。
「まぁ、シド。一体どうしたの?」
「先程ニコラス様と話をして、ジェニファー様がまだダイニングルームにいると伺って様子を見に来たのですが……どうなさったのですか? 殆ど料理が減っていないようですが」
皿の上に並べられた料理は殆ど手つかず状態だった。
「ええ。ちょっと食欲がわかなくて……折角こんなに御馳走を用意してもらったのだから、残すわけにはいかないでしょう? だって申し訳ないもの。だけど……」
「ジェニファー様、もしかして食事のときに何かありましたか?」
「え? ど、どうしてそう思うの?」
「それは、普段のジェニファー様でしたらこれほどまでに料理に手つかずだったことがありませんでしたから」
「……」
思わずジェニファーは口を閉ざす。
「何か気に病むことがあるなら、話して頂けませんか? 俺でよければ相談に乗ります」
「シド……」
「はい、何でしょう?」
「あなたはお食事、終わった?」
「いえ、まだですけど」
「あの……もしシドさえよければ、食べるのを手伝ってもらえないかしら? このお皿の料理は全く手を付けていないから」
ジェニファーは肉料理と、野菜のソテー、バゲットを勧めてきた。
「分かりました。では頂きます」
ジェニファーの頼みをシドが断れるはず無かった。
「本当? ありがとう、シド」
「いえ」
笑顔を向けられてシドは思わず赤くなる。けれど燭台のオレンジ色に揺れる炎のお陰でジェニファーには気付かれなかった。
「……美味しいですね」
料理を口にすると、シドはジェニファーに話しかけた。
「ええ、そうね」
ジェニファーは返事をするも、どこかその表情はうつろだ。
「俺はニコラス様の護衛騎士ですが、ジェニファー様の味方ですから」
「え?」
驚いた様にジェニファーは顔を上げた。
「俺ではジェニファー様の力になれませんか?」
「ありがとう。シドは、昔と変わらないのね。あの頃と同じ。親切で、とても頼りになる人だわ」
ジェニファーはシドを見つめ、笑みを浮かべる。
「ジェニファー様。何か心に思い悩むことがあるなら話していただけませんか?」
「……」
すこしの間ジェニファーは口を閉ざしていたが……突然目の前のワイングラスに手を伸ばすと、グイッと一気に飲み干した。
「え? ジェニファー様!?」
グラスをテーブルに戻したジェニファーはポツリと言った。
「私ね……自分では知らなかったけど……ずっとジェニーを苦しめてきたみたいなの……」
「ジェニファー様がですか? そんな、信じられません! むしろ一番苦しめられてきたのはジェニファー様の方じゃないですか!」
「だけど、ニコラスが……それに、テイラー侯爵家でも私は歓迎されていなかったたし……私、自分では意識しないままジェニーを苦しめてきたのか……も」
そこまで言うと、ジェニファーはテーブルの上に突っ伏してしまった。
「え!? ジェニファー様!?」
覗き込むと、ジェニファーは瞳を閉じて寝息を立てていた。酔いが回って眠りについてしまったのだ。
シドは椅子から立ち上がると、眠るジェニファーに声をかけた。
「失礼いたします」
ジェニファーを抱き上げると、シドは廊下へ向かった。
「……ジェニー……ごめんなさい……」
シドの腕の中で寝言を呟くジェニファーの目には、一筋の涙が流れていた。
その姿がシドの胸を締め付ける。
「ジェニファー様……」
シドは眠るジェニファーの額に、そっとキスをした――
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