望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

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4−3 ジェニファーの為に

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 シドは無言のまま、ニコラスの書斎の前で待っていた。
そこへダイニングルームから戻って来たニコラスはシドに気付き、声をかけた。

「ん? シドじゃないか。そんなところで何をしている?」

「黙って外出したことを謝罪する為に、ここでニコラス様をお待ちしておりました。大変申し訳ございませんでした」

「そうか……中へ入って話でもするか?」

付き合いが長い2人、ニコラスはシドが話をしたがっている様子に気付いていたのだ。

「はい。そうさせていただきます」

書斎に入ると2人は向かい合わせにソファに座り、早速ニコラスは尋ねた。

「シド、お前が黙って出掛けるのは珍しいな。一体何処へ行っていたんだ」

「実は……ジェニファー様の従兄弟が宿泊している宿へ行ってきました」

「え!? 何だって? 何故そんな真似をしたんだ?」

予想外の返事にニコラスは目を見開いた。

「……いつまで彼がここに滞在するの知りたかったからです」

「それはジェニファーの為にか? 彼女の従兄弟だからか?」

「そう……です」

ニコラスの質問に、シドは唇を噛む。
何故なら、シドがダンの元へ行ったのは自分の為だからだ。ジェニファーとの関係を、彼女のことをどう思っているか確認せずにはいられなかったからだ。
けれどニコラスの前で口にすることが出来ない。

どんな形であれ、2人は正式な夫婦関係なのだから。

「別に、お前がそんなことをする必要は無いだろう? 何故だ?」

「折角、久しぶりに会えたようですから……すぐに別れるのはどうかと思ったからです」

本心を言えば、2人をこれ以上会わせたくはない。何しろダンはジェニファーを愛していると、はっきり言いきったのだから。
けれどジェニファーはダンの前では一度も見せたことの無いような笑顔を浮かべる。

(今のジェニファー様には……彼の存在が必要なのかもしれない)

シドはそう、結論付けたのだ。

ニコラスは少しの間、無言でシドを見つめていたが……口を開いた。

「実はジェニファーの専属メイドに、いつまでこの城に滞在するのか聞かれたんだ」

「え? ポリーからですか?」

「そうだ。ポリーの話では、ジェニファーはまだ『ボニート』に滞在していたいよう
だと話していた。だから後1週間程、滞在期間を延ばそうかと思っていたんだ。幸い、ここは観光地として有名だし……従兄弟に観光案内をしてあげるのも良いんじゃないか」

「ニコラス様……」

ニコラスの提案はシドにとって驚きだった。

「今日は2人が話をしているところに、俺が現れたことで雰囲気を壊してしまったからな。そのお詫びのつもりだ」

「ありがとうございます。ニコラス様」

するとニコラスは首を傾げる。

「何故、お前が俺に礼を言うんだ?」

「ジェニファー様の希望を叶えて下さったからです」

「おかしな奴だな。シドは」

苦笑するニコラス。

「では、早速ジェニファー様に伝えて参ります」

立ち上がるシドにニコラスは声をかけた。

「ジェニファーならまだダイニングルームにいるかもしれない。まずはそっちへ行ってくれ」

「え? 何故ダイニングルームに? 一緒に戻って来たのではないのですか?」

「いや、1人で戻って来た。……ジェニファーを見ていると……どうしてもジェニーを思い出してならないんだ」

ニコラスは苦し気に頭を押さえた。

「おかしな話だ。何故かジェニファーを見ていると、子供時代のジェニーの顔が思い出されてならないんだ……」

「ニコラス様……」

本当は15年前に会っていたのはジェニファーなのだと今すぐ訴えたい。けれど固く口止めされている以上、シドは真実を話すことは出来ない。
何より、約束を破ってジェニファーの信頼を失ってしまうことをシドは恐れていた。

「今夜は早くお休みされた方がいいでしょう。それではジェニファー様の元へ行って参ります」

シドはそれだけ告げると、足早にジェニファーの元へ向かった――



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