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4−2 夕食の席 2

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 ニコラスの「ジェニー」と言う呟きは、ジェニファーの耳に届いてしまった。

(やっぱり、ニコラスの心の中には……それだけ深くジェニーは愛されていたのね)

悲しくもあったがジェニーへの深い愛を知り、嬉しい気持もあった
ジェニーは愛する人のお姫様になりたがっていた。その夢をニコラスが叶えてくれたからだ。

けれどジェニファーには何も無い。
ニコラスと婚姻関係を続けている限りは誰かと愛し合うことも、自分の子供を産み育てることも叶わないからだ。

(駄目よ、こんな考えを持っては。私の役目はジョナサンの母親代わりになることなのだから)

自分の心に蓋をしてニコラスの様子を伺うと、どこか思い詰めた様子で食事をしている。そこで場の雰囲気を和ませるため、ジェニファーはおもいきって声をかけた。

「誰かと一緒に食事をするのって、いつも以上に美味しく感じられますね」

「……そうか」

けれど返事はそっけない。

「あ、あの……お仕事は忙しかったですか? ニコラス様は色々な国へ行かれたのですよね。さぞかし大変だったのではありませんか? あ、そう言えばジョナサン様の言葉が大分増えたのですよ。なので今は『パパ』という言葉を覚えさせようと思っています」

会話の糸口を見つけたいジェニファーは笑顔で話し続けるが、ニコラスにとってはその笑顔すら作り笑いにしか思えなかった。

(やはり、今日会っていた従兄弟の方がずっと良いのだろう。あのときのほうがずっと生き生きして見える。だったら……)

ニコラスが考えにふけっている間もジェニファーの話は続く。

「そういえば、ニコラス様。今の時間、ジョナサン様をメイドの人達に預けて良かったのでしょうか?」

「別に、食事の時間くらいは他の者に任せておいても大丈夫だ。 その方が君もゆっくり食事が出来るが出来るだろう?」

「ですが……私のここでのお役目はジョナサン様のお世話ですから」

何故かジェニファーの言い方に、良い気がしなかった。

(役目? それ以外の感情は無いのか?)

「ところで、ジェニファー」

「はい」

「従兄弟とは色々楽しく話ができたのか?」

いきなり出てきたダンの話に戸惑うも、返事をした。

「はい……出来ました」

「そうか、それは良かったな。話の邪魔をして酷い態度を取ってしまって悪かったと反省している。すまなかった」

「い、いえ。私なら大丈夫です。どうかお気になさらないで下さい」

「メイドのポリーから、いつまで滞在するのか尋ねられたのだが……君はどうしたい?」

「え? 私は……どちらでも構いません」

「……ポリーからはもう少し、ここにいたいようだと聞かされていたのだがな」

「そ、そうだったのですか? でも私のことはどうぞお気遣いなく。ニコラス様にお任せします」

(俺に任せる………? 随分と下手な態度だ。だが、彼女はジェニーを苦しめてきた張本人だ)

ニコラスや使用人たちの前では、常に明るいジェニーだった。けれどその反面、夢の中でジェニーは毎晩うなされ、ジェニファーの名を口にして詫びていた。
心配になり、どんな夢を見たのかを尋ねても笑顔で「なんでもないわ」と笑うだけのジェニー。

その健気な姿に、より一層愛しく感じ……ジェニファーに悪い感情しか抱けなくなってしまったのだ。

「外見はジェニーとそっくりなのに、性格はまるで似ていないのだな。彼女は常に明るい笑顔をみせていたのに」

つい、本心を口にしてしまった。

「も、申し訳ございません……でも確かにジェニーは明るくて、とても素敵な人でしたね……」

ニコラスの言葉がジェニファーの胸に突き刺さってくる。

(私はもう……心の底から笑えなくなってしまったわ……)

ジェニファーも不幸な境遇に負けず、明るい性格だった。だが15年前のあの出来事をきっかけに、どこか陰のある性格になってしまったのだ。
もう、昔のように無邪気に笑えなくなっていたのは事実だった。

さらにニコラスの言葉がジェニファーを追い詰める。

「だったら何故……ずっとジェニーを苦しめてきたんだ!」

「え? 私が……ですか?」

(ジェニーを苦しめてきたって……あ! もしかして身体の弱いジェニーを1人残して町へ行った話を伯爵から聞かされて……? だけど、あれは15年も昔の話なのに……でも、それしか心当たりがないわ……)

返答に困っているとニコラスが立ち上がった。

「俺は仕事がまだ残っているから先に部屋に戻らせてもらう。ゆっくり食べてくれ」

「え? あ、あの。ニコラス様」

声をかけるも返事をすること無く、ジェニファーを残してダイニングルームを出ていってしまった。

去ってゆくニコラスの背中を寂しげに見つめるジェニファー。

「ふぅ……」

ジェニファーはため息をつくと、食事の続きを再開した。
本当は全く食欲など無かった。
けれど料理を用意してくれた人のことを思うと、どうしても残すことが出来なかったのだ――
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