130 / 203
3−33 訪ねる人
しおりを挟む
ニコラスの書斎の前に立ったポリーは緊張する面持ちで扉をノックした。
—―コンコン
『誰だ?』
中からニコラスの声が聞こえる。
「私です、ジェニファー様の専属メイドのポリーです。御主人様にお話したいことがございまして、お伺いいたしました」
大きな声で返事をする。
『話……? 入れ』
「はい、失礼いたします」
扉をゆっくり開けると、ニコラスは机に向かってこちらを向いていた。仕事をしていたのか、机の上には書類の束が置かれている。
「お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます」
「それで、俺に話とは何だ?」
「はい、ジェニファー様のことです」
ジェニファーの名前にニコラスは眉をひそめる。
「ジェニファーがどうした?」
「あの……ジェニファー様は、もう少しこちらに滞在されたいようなのですが……いつ頃『ボニート』を出立されるのでしょうか?」
「何故、ジェニファーはもう少し、ここにいたいと言っているのだ?」
「申し訳ございません。理由は聞いておりませんが、独り言のように、漏らしておりましたので」
「……そうか」
そこでニコラスは考えた。
(そう言えば、結婚してからまだ一度もまともに彼女と話をしたことが無かったな……。いくらジェニーの遺言通りの結婚だからと言っても、少しは交流を持つべきかもしれないな。何しろ、ジョナサンがあんなにも懐いているのだから……)
少し俯き加減に考える素振りをしているニコラスのことを、ポリーはじっと待っていた。
「分かった。それでは今夜の食事は一緒に取るように伝えておいてくれ」
「え!? は、はい! 承知いたしました!」
予想外のことを告げられ、ポリーは驚きながらも返事をした。
「それでは早速ジェニファー様に今のお話を伝えて参ります」
「ああ、ついでにシドを書斎に呼んでくれ」
「え? シ、シドさんですか?」
ポリーの表情がこわばる。
「そうだ、話があるからな」
「あの……御存知無かったのですか?」
「何のことだ?」
「シドさんは町へ出掛けたそうですが、ご主人様の指示ではなかったのでしょうか……?」
「何だって? そんな指示など出してはいないぞ? 一体どういうことだ……?」
「そ、それは……何も知らず、申し訳ございません」
すっかり恐縮した様子でポリーは謝罪する。
「いや、別に責めているわけじゃないから気にしなくていい。シドには戻ってきてから、本人に直接聞くことにする。下がっていいぞ」
「はい、失礼いたします」
ポリーは丁寧に頭を下げると書斎を後にした。
—―パタン
扉が閉まると、途端に緊張が解ける。
「ふぅ……やはり当主様とお話するのは緊張するわ。早いところ、ジェニファー様に食事の件を伝えて来なくちゃ!」
ポリーは急ぎ足で、再びジェニファーの部屋を目指した。
シドの行方を気にしながら……。
****
その頃、ダンは宿屋の一室で荷物の整理をしていた。
「大分暗くなってきたな……」
室内が薄暗くなってきたので、ダンは部屋に設置されたランプに灯りを灯した。途端に温かなオレンジ色の光に包まれる。
「よし、これでいいだろう」
—―コンコン
そのとき、部屋にノック音が響き渡る。
「誰だろう?」
訪ねてくる人物に心当たりが無いダンは首を捻ると、扉を開けた。
「はい……あ! あんたは……確か‥…」
「話がある。少し時間を貰えないか?」
マント姿のシドは、静かに尋ねた—―
—―コンコン
『誰だ?』
中からニコラスの声が聞こえる。
「私です、ジェニファー様の専属メイドのポリーです。御主人様にお話したいことがございまして、お伺いいたしました」
大きな声で返事をする。
『話……? 入れ』
「はい、失礼いたします」
扉をゆっくり開けると、ニコラスは机に向かってこちらを向いていた。仕事をしていたのか、机の上には書類の束が置かれている。
「お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます」
「それで、俺に話とは何だ?」
「はい、ジェニファー様のことです」
ジェニファーの名前にニコラスは眉をひそめる。
「ジェニファーがどうした?」
「あの……ジェニファー様は、もう少しこちらに滞在されたいようなのですが……いつ頃『ボニート』を出立されるのでしょうか?」
「何故、ジェニファーはもう少し、ここにいたいと言っているのだ?」
「申し訳ございません。理由は聞いておりませんが、独り言のように、漏らしておりましたので」
「……そうか」
そこでニコラスは考えた。
(そう言えば、結婚してからまだ一度もまともに彼女と話をしたことが無かったな……。いくらジェニーの遺言通りの結婚だからと言っても、少しは交流を持つべきかもしれないな。何しろ、ジョナサンがあんなにも懐いているのだから……)
少し俯き加減に考える素振りをしているニコラスのことを、ポリーはじっと待っていた。
「分かった。それでは今夜の食事は一緒に取るように伝えておいてくれ」
「え!? は、はい! 承知いたしました!」
予想外のことを告げられ、ポリーは驚きながらも返事をした。
「それでは早速ジェニファー様に今のお話を伝えて参ります」
「ああ、ついでにシドを書斎に呼んでくれ」
「え? シ、シドさんですか?」
ポリーの表情がこわばる。
「そうだ、話があるからな」
「あの……御存知無かったのですか?」
「何のことだ?」
「シドさんは町へ出掛けたそうですが、ご主人様の指示ではなかったのでしょうか……?」
「何だって? そんな指示など出してはいないぞ? 一体どういうことだ……?」
「そ、それは……何も知らず、申し訳ございません」
すっかり恐縮した様子でポリーは謝罪する。
「いや、別に責めているわけじゃないから気にしなくていい。シドには戻ってきてから、本人に直接聞くことにする。下がっていいぞ」
「はい、失礼いたします」
ポリーは丁寧に頭を下げると書斎を後にした。
—―パタン
扉が閉まると、途端に緊張が解ける。
「ふぅ……やはり当主様とお話するのは緊張するわ。早いところ、ジェニファー様に食事の件を伝えて来なくちゃ!」
ポリーは急ぎ足で、再びジェニファーの部屋を目指した。
シドの行方を気にしながら……。
****
その頃、ダンは宿屋の一室で荷物の整理をしていた。
「大分暗くなってきたな……」
室内が薄暗くなってきたので、ダンは部屋に設置されたランプに灯りを灯した。途端に温かなオレンジ色の光に包まれる。
「よし、これでいいだろう」
—―コンコン
そのとき、部屋にノック音が響き渡る。
「誰だろう?」
訪ねてくる人物に心当たりが無いダンは首を捻ると、扉を開けた。
「はい……あ! あんたは……確か‥…」
「話がある。少し時間を貰えないか?」
マント姿のシドは、静かに尋ねた—―
479
お気に入りに追加
1,910
あなたにおすすめの小説
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
【完結】高嶺の花がいなくなった日。
紺
恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。
清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。
婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。
※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる