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3−27 懐かしい瞳

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 ニコラスはダンとジェニファーを交互に見た。

ダンはニコラスの視線からジェニファーを隠すように立ちふさがっている。

(まさか自分を犠牲にしてでも、ジェニファーを庇うのか……? それほどまでに大切に思っているのか?)

そのことが何故かショックで少しの間口を閉ざしていると、今度はシドが訴えてきた。

「ニコラス様。確かに本日は突然の来客でジェニファー様はメイドにジョナサン様を託しましたが、それまでは片時もジョナサン様から離れること無くジェニファー様はお世話なさっておりました」

「シド……お前まで……」

その時。

「アーンッ! アーンッ!」

赤児の鳴き声がこちらに向かって近づいてきた。その場にいた全員が声の方向を振り返ると、火が付いたように泣くジョナサンを抱きかかえたポリーが小走りで近づいてきた。

「ジェニファー様! ジョナサン様が泣き止まなくて……! 私では無理です。どうかお願いします!」

困り顔でポリーが訴えてきた。

「ポリー!」

ジェニファーが駆け寄ろうとすると、ニコラスがポリーの前に立ちはだかる。

「あ……ニコラス……様。お帰りなさいませ」

恐縮するポリーにニコラスは声をかけた。

「ジョナサンを渡せ」

「は、はい」

言われるままポリーはニコラスにジョナサンを渡し、その様子を見たジェニファーはショックを受けた。

(ニコラス様自らがジョナサンを……。まさか……もう、私にジョナサンは任せられないという事なの……? そんな……)

青ざめるジェニファーにダンはいち早く気付いた。

「どうしたんだ? ジェニファー。大丈夫か? 顔色が真っ青だぞ?」

「……」

けれど、ジェニファーは返事をしない。視線はニコラスとジョナサンに釘付けだった。

「アーン! アーン!」

ニコラスに抱かれても、ジョナサンは泣き止まない。ますます泣き声が大きくなる。

「ジョナサン! どうしたんだ? パパだぞ? 分からないのか?」

必死で宥めようとしてもジョナサンは泣き止まず、ついにジェニファーに手を伸ばした。

「マンマ~ッ! マンマ~……」

「ジョナサン……!」

(駄目だわ……! もうこれ以上見ていられない!)

ジェニファーはニコラスに駆け寄ると、まっすぐに目を見つめた。

「ニコラス様」

「な、何だ?」

「ジョナサン様を渡して下さい」

手を伸ばすと、ジョナサンは泣きながら必死になってジェニファーの手をつかもうとする。

「マンマ~……ゥウウッマンマァ~ッ!!」

ジョナサンの顔は涙で濡れ、真っ赤になっている。

「お願いです、ニコラス様」

ジェニファーの緑色の美しい瞳は、戸惑った様子のニコラスをしっかりと映し出している。
これほど、まっすぐに見つめられるのは初めてのことだった。

(彼女は……こんな瞳をしていたのか……?)

記憶のどこかで懐かしい瞳だと感じ……気づけばニコラスは頷いていた。

「……分かった……」

ニコラスがジョナサンを手渡すとすぐに彼は泣き止み、安心した様子でジェニファーの頬にすり寄った。

「マーマー?」

「ええ、ママよ。ごめんなさい、ジョナサン」

「ア~」

途端にジョナサンは天使のような笑顔になり、ジェニファーはしっかりとジョナサンを胸に抱きしめた。

「もう大丈夫。ずっと一緒にいるからね?」

ジョナサンに優しく語りかけるジェニファー。

2人の姿は……誰の目からも、本当の親子のように映っていた――
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