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3-15 温室の秘密

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――翌日

朝食を終えたジェニファーはジョナサンをベビーカーに乗せて中庭を散歩していた。

「今日も良い天気ね。風がとても気持ちいいと思わない? ジョナサン」

ジョナサンに早く言葉を覚えて貰いたいジェニファーは一生懸命話しかけていた。そのとき、目の前を一匹の蝶が飛んでいく。

「アー?」

ジョナサンは蝶を指さして首を傾げる。

「今のが何か知りたいのね? あれはね、蝶って言うのよ」

「チョー?」

「ふふ、そうよ。蝶よ。羽がとても綺麗でしょう?」

するとジョナサンは手をバタバタさせて、蝶が飛んで行った方角へ行きたがる素振りを見せる。

「もしかしてもっと蝶を見たいの?」

尋ねるとジョナサンは嬉しそうに頷く。

「分かったわ、なら行ってみましょう」

ジェニファーは早速後を追うと、ヒラヒラと飛んでいた蝶が温室の入口へと吸い込まれるように入ってしまった。

「あ! あそこは……」

ジェニファーの顔が暗くなる。そこは最初に立ち入り禁止を言われた温室だったからだ。
執事のカルロスからは立ち入ってはいけない場所は何処もないと言われたものの、とてもではないが中へ入ることなど出来なかった。

(どうして昨日といい、今日といい……)

「チョーチョ、チョーチョ」

しきりに温室へ行きたがるジョナサン。

「ごめんなさい、ジョナサン。駄目なの、あの中へ入ることは出来ないのよ」

「ダーッ」

途端にジョナサンは不機嫌そうな表情を浮かべる。そこでジェニファーはベビーカーからジョナサンを抱き上げた。

「それならお部屋で積み木遊びはどう? ジョナサンは積み木が好きでしょう?」

するとコクリと頷くジョナサン。

「ふふ。ジョナサンは聞き分けの良い子ね。それじゃ、お部屋に戻りましょう」

ジェニファーはジョナサンにおしゃぶりをくわえさせ、再びベビーカーに乗せた時。話し声が風に乗って聞こえてきた。

「今日もジェニーローズは綺麗に咲いていたわね」

「ええ。ジェニー様の瞳の色によく似ているわ。早速エントランスに飾りましょう」

(え!? ジェニーローズ!?)

その言葉に驚いたジェニファーは足を止め、茂みに隠れるように様子を伺った。
すると2人のメイドが楽し気に会話をしている。それぞれメイドは大輪の青いバラの花を手にしていた。

「青いバラ……。ジェニーローズ……まさか、あのバラは……」

メイド達がこちら側に近づいて来たので、慌ててジェニファーは茂みの中にしゃがんでやり過ごそうとした。

「ニコラス様は本当にジェニー様を大切にしてらしたのね。喘息持ちのジェニー様の為に、花粉が少ないバラを品種改良させたのだから」

「青いバラだって珍しいじゃない。今だって、こうやって温室でバラを栽培しているのだから。ジェニー様への思いの深さが伝わってくるわ」

メイド達はジェニファーのすぐ傍まで近づき、会話の内容が一段と良く聞こえてきた。

「ところで、ジェニー様とジェニファー様って怖いくらい良く似ていと思わない。確か従姉妹同士だったわよね」

「!」

話の内容が自分に及び、ジェニファーの肩がピクリと動く。

「ええ。そう聞いているわ。でも、ここだけの話だけど、あまり大切にされていないと思わない? 仕事が忙しいのは分かるけど、手紙の1通も届かないもの。ジェニー様が1人で滞在していたときは3日を空けず手紙が届いていたし、毎日電話もかかってきていたじゃない」

「あ、私もそう思うわ。それでね……」

そのままメイド達は遠ざかって行った。

「……」

暗い気持ちのままジェニファーは立ち上がり、温室を見つめる。

「ジェニーローズ…‥私が入ってはいけないと言われたのはそのためだったのね……。それに、ニコラスはジェニーに手紙や電話を……だけど私には……」

そして改めて気付かされた。
ニコラスにとって、自分は気に掛けてもらえるような存在では無いということを。

「ダーッダッ?」

不意にスカートを引っ張られて、ジェニファーは我に返った。見下ろすとジョナサンがじっと自分を見つめている。

「ごめんなさい、ジョナサン。お部屋に戻りましょうか?」

ジェニファーは悲しい気持ちを押し殺し、ジョナサンに笑いかけるのだった――




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