111 / 203
3-14 ジェニファーの本音
しおりを挟む
(ど、どうしてあの時の写真がここに飾られているの……?)
写真の中のニコラスとジェニファーは無邪気な笑顔で映っている。それは失われてしまった大切な思い出。
ニコラスはもう笑顔をジェニファーに向けてくれることは無いし、ジェニファー自身もフォルクマン伯爵家を追い出されてから、心の底から笑うことが出来なくなってしまった。
いつもどこか、空虚な気持ちを抱えて生きていたのだ。
(もう私は……この頃のように笑うことは出来なくなってしまった……)
呆然と写真を見つめるジェニファー。
一方、何も知らないポリーは、楽しそうに想像を膨らませている。
「この子たちは貴族なのでしょうか? 2人とも良い身なりをしていますよね。顔は似ていないので、兄妹では無さそうですね。ひょっとして、お友達同士なのかも……ジェニファー様はどう思いますか?」
「そ、そうね……多分、仲の良い友達同士なのではないかしら?」
何とか返事をするも、冷静ではいられなかった。
「あら? でもこの写真の子達……何処か見覚えがあるような……?」
ポリーが首を捻ったそのとき。
「ポリー。写真も見たことだし、もういいだろう? ジョナサン様はお休みになられたのだから、寄り道はこれくらいにしておけ」
シドがポリーを窘めた。
「あ、そうでしたね。すみません。初めて写真を見たものですから、つい浮かれてしまいました。ジェニファー様にも、申し訳ございません」
ペコリとポリーは頭を下げた。
「別に気にしなくていいのよ。それでは帰りましょうか?」
出来るだけ平静を装いながらジェニファーは返事をし、3人は岐路へ着いた――
城へ到着したのは16時を少し過ぎた頃だった。
メイドの仕事が残っているポリーとエントランスで別れると、シドが声をかけてきた。
「ジェニファー様、お疲れですよね? 部屋まで送ります」
「え? ええ。ありがとう」
返事をするとシドは口元に少しだけ笑みを浮かべ、2人はジェニファーの部屋へ向かった。
「……あの写真、さぞかし驚かれたのではありませんか?」
歩き始めると、すぐにシドが話しかけてくる。
「そうね、驚いたわ。あの写真は私が持っているはずなのに、何故なのかと思ったの。でも考えてみれば不思議なことではないわよね。だって15年前に、あのお店で写真を撮って貰ったのだから。まさか飾られているとは思わなかったけど……シドは、あの店に写真が飾られていることを知っていた?」
「いいえ、知りませんでした。……何しろ、あの写真屋に行くのは15年ぶりですから」
「シドも?」
「はい。そもそも写真を撮ったこともありませんし……何より『ボニート』へ戻って来たのは15年前ですから。でも聞いたことがあります。写真屋では、良く撮れた写真を当人の許可を取って飾ることがあるのだと」
「え……? それじゃ……」
「はい。恐らくニコラス様が写真を飾る許可を出したのかしれません。それともジェニー様自らが返事をした可能性もありますね」
「そうよね……本当は、何故あの写真が飾られているか知りたかったのだけど……」
ジェニファーがぽつりと呟く。
「もしかして、あの写真……飾って貰いたくはないのですか?」
「ええ。飾って貰いたくないわ。だって……あそこに映っているのはジェニーのふりをした私。偽物の写真だから。ニコラスを騙しているようで……申し訳ないの」
「ジェニファー様は何も悪いことはしておりません。元はと言えば最初に、ジェニー様が自分の身代わりになって欲しいと頼んできたことが原因ではありませんか! それに伯爵邸を追い出されたのも、ジェニー様が現像された写真を取に行くように命じたからですよね? 自業自得です!」
いつになく感情を露わに自分の考えを述べるシドに、ジェニファーは驚く。
「ど、どうしたの? シド」
「い、いえ。何でもありません。ですが、もしこの先も写真が飾られるのが嫌であるなら……俺が写真屋に話に行きましょうか?」
「……ええ、そうねシド。お願い出来る?」
ジェニファーは弱々しく微笑むのだった――
写真の中のニコラスとジェニファーは無邪気な笑顔で映っている。それは失われてしまった大切な思い出。
ニコラスはもう笑顔をジェニファーに向けてくれることは無いし、ジェニファー自身もフォルクマン伯爵家を追い出されてから、心の底から笑うことが出来なくなってしまった。
いつもどこか、空虚な気持ちを抱えて生きていたのだ。
(もう私は……この頃のように笑うことは出来なくなってしまった……)
呆然と写真を見つめるジェニファー。
一方、何も知らないポリーは、楽しそうに想像を膨らませている。
「この子たちは貴族なのでしょうか? 2人とも良い身なりをしていますよね。顔は似ていないので、兄妹では無さそうですね。ひょっとして、お友達同士なのかも……ジェニファー様はどう思いますか?」
「そ、そうね……多分、仲の良い友達同士なのではないかしら?」
何とか返事をするも、冷静ではいられなかった。
「あら? でもこの写真の子達……何処か見覚えがあるような……?」
ポリーが首を捻ったそのとき。
「ポリー。写真も見たことだし、もういいだろう? ジョナサン様はお休みになられたのだから、寄り道はこれくらいにしておけ」
シドがポリーを窘めた。
「あ、そうでしたね。すみません。初めて写真を見たものですから、つい浮かれてしまいました。ジェニファー様にも、申し訳ございません」
ペコリとポリーは頭を下げた。
「別に気にしなくていいのよ。それでは帰りましょうか?」
出来るだけ平静を装いながらジェニファーは返事をし、3人は岐路へ着いた――
城へ到着したのは16時を少し過ぎた頃だった。
メイドの仕事が残っているポリーとエントランスで別れると、シドが声をかけてきた。
「ジェニファー様、お疲れですよね? 部屋まで送ります」
「え? ええ。ありがとう」
返事をするとシドは口元に少しだけ笑みを浮かべ、2人はジェニファーの部屋へ向かった。
「……あの写真、さぞかし驚かれたのではありませんか?」
歩き始めると、すぐにシドが話しかけてくる。
「そうね、驚いたわ。あの写真は私が持っているはずなのに、何故なのかと思ったの。でも考えてみれば不思議なことではないわよね。だって15年前に、あのお店で写真を撮って貰ったのだから。まさか飾られているとは思わなかったけど……シドは、あの店に写真が飾られていることを知っていた?」
「いいえ、知りませんでした。……何しろ、あの写真屋に行くのは15年ぶりですから」
「シドも?」
「はい。そもそも写真を撮ったこともありませんし……何より『ボニート』へ戻って来たのは15年前ですから。でも聞いたことがあります。写真屋では、良く撮れた写真を当人の許可を取って飾ることがあるのだと」
「え……? それじゃ……」
「はい。恐らくニコラス様が写真を飾る許可を出したのかしれません。それともジェニー様自らが返事をした可能性もありますね」
「そうよね……本当は、何故あの写真が飾られているか知りたかったのだけど……」
ジェニファーがぽつりと呟く。
「もしかして、あの写真……飾って貰いたくはないのですか?」
「ええ。飾って貰いたくないわ。だって……あそこに映っているのはジェニーのふりをした私。偽物の写真だから。ニコラスを騙しているようで……申し訳ないの」
「ジェニファー様は何も悪いことはしておりません。元はと言えば最初に、ジェニー様が自分の身代わりになって欲しいと頼んできたことが原因ではありませんか! それに伯爵邸を追い出されたのも、ジェニー様が現像された写真を取に行くように命じたからですよね? 自業自得です!」
いつになく感情を露わに自分の考えを述べるシドに、ジェニファーは驚く。
「ど、どうしたの? シド」
「い、いえ。何でもありません。ですが、もしこの先も写真が飾られるのが嫌であるなら……俺が写真屋に話に行きましょうか?」
「……ええ、そうねシド。お願い出来る?」
ジェニファーは弱々しく微笑むのだった――
447
お気に入りに追加
1,910
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
【完結】高嶺の花がいなくなった日。
紺
恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。
清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。
婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。
※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる