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3-4 約束と決めごと
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「ジェニファー様。こちらのお部屋をどうぞお使いください」
ジェニファーがメイドに案内されたのは白い扉に銀のドアノブが付いた部屋だった。
メイドが扉を開けると、広々とした室内が現れる。
大きな窓に高い天井。部屋に置かれたアンティークな調度品はどれも見るからに高級な物ばかりだった。
「まぁ! なんて素晴らしいお部屋なのでしょう!」
ポリーが目を輝かせる。
「ええ、素敵ね。あの、本当に私がこの部屋を使ってもいいのでしょうか?」
ジョナサンを腕に抱いたジェニファーの質問にメイドは少し困った様子を見せた。
「はい。そのように執事から仰せつかっておりますが」
「ジェニファー様、何も遠慮することはありません。あなたはニコラス様の妻なのですから」
シドがジェニファーに、きっぱりと言い切る。
「シド……」
ジェニファーは思わず大きな瞳でシドを見上げた。
「もっと、御自分に自信をもって下さい。ジェニファー様」
「そ、そうね。ありがとう」
するとメイドが説明を始めた。
「後程執事長がお部屋に伺うと思うので、それまでジェニファー様はどうぞゆっくりお休みください。こちらに滞在中は、自由に過ごして頂いて構いません。図書室もありますし、中庭を散策して頂いても構いません」
「まぁ、図書室もあるの? 素敵だわ」
その言葉にジェニファーの顔が明るくなる。
ずっと働き詰めだったジェニファーは本を読む時間すら無かった。いつか時間が取れれば好きなだけ本を読むのが夢だったのだ。
「読書が好きなのですか?」
シドが尋ねてきた。
「好きなのだけど、今まであまり読む暇がとれなかったの」
「それでしたら、これからは本を読むことが出来ますね」
ポリーが笑顔で話しかける。
「中庭もあるのなら、ジョナサンを連れてお散歩も出来そうだし……」
(きっとテイラー侯爵家で過ごすよりは、窮屈な思いをしなくて済むかもしれないわ。使用人も悪い人達では無さそうだし……ニコラスが私を気遣ってくれたのよね。感謝しないと)
ジェニファーの様子を少しだけ見つめていたメイドは次にシドとポリーに声をかけた。
「それでは、シドさんとポリーさんのお部屋も案内いたします。こちらへどうぞ」
メイドは2人を連れて部屋を出ようとしたとき、何か思い出したのかジェニファーを振り返った。
「そう言えば一つ肝心なことを申し上げるのを忘れておりました。基本的に城内や敷地内は自由に散策して頂いて構いません。ですが、お約束して頂きたいことが2点あります」
「何かしら?」
「こちらの城には白い扉にバラのレリーフが施されたお部屋と、中庭には温室が一つあります。そこへはどうぞ立ち入らないようにして下さい」
「分かったわ。入らないようにするわ」
「何故、入ってはいけないのですか?」
ジェニファーが頷くと、そこへ好奇心旺盛なポリーが尋ねる。
「バラの扉のお部屋と温室は、亡き奥様であるジェニー様の大切な思い出の場所だからです」
「「「!!!」」」
メイドの言葉に3人が凍り付いたのは……言うまでも無かった――
ジェニファーがメイドに案内されたのは白い扉に銀のドアノブが付いた部屋だった。
メイドが扉を開けると、広々とした室内が現れる。
大きな窓に高い天井。部屋に置かれたアンティークな調度品はどれも見るからに高級な物ばかりだった。
「まぁ! なんて素晴らしいお部屋なのでしょう!」
ポリーが目を輝かせる。
「ええ、素敵ね。あの、本当に私がこの部屋を使ってもいいのでしょうか?」
ジョナサンを腕に抱いたジェニファーの質問にメイドは少し困った様子を見せた。
「はい。そのように執事から仰せつかっておりますが」
「ジェニファー様、何も遠慮することはありません。あなたはニコラス様の妻なのですから」
シドがジェニファーに、きっぱりと言い切る。
「シド……」
ジェニファーは思わず大きな瞳でシドを見上げた。
「もっと、御自分に自信をもって下さい。ジェニファー様」
「そ、そうね。ありがとう」
するとメイドが説明を始めた。
「後程執事長がお部屋に伺うと思うので、それまでジェニファー様はどうぞゆっくりお休みください。こちらに滞在中は、自由に過ごして頂いて構いません。図書室もありますし、中庭を散策して頂いても構いません」
「まぁ、図書室もあるの? 素敵だわ」
その言葉にジェニファーの顔が明るくなる。
ずっと働き詰めだったジェニファーは本を読む時間すら無かった。いつか時間が取れれば好きなだけ本を読むのが夢だったのだ。
「読書が好きなのですか?」
シドが尋ねてきた。
「好きなのだけど、今まであまり読む暇がとれなかったの」
「それでしたら、これからは本を読むことが出来ますね」
ポリーが笑顔で話しかける。
「中庭もあるのなら、ジョナサンを連れてお散歩も出来そうだし……」
(きっとテイラー侯爵家で過ごすよりは、窮屈な思いをしなくて済むかもしれないわ。使用人も悪い人達では無さそうだし……ニコラスが私を気遣ってくれたのよね。感謝しないと)
ジェニファーの様子を少しだけ見つめていたメイドは次にシドとポリーに声をかけた。
「それでは、シドさんとポリーさんのお部屋も案内いたします。こちらへどうぞ」
メイドは2人を連れて部屋を出ようとしたとき、何か思い出したのかジェニファーを振り返った。
「そう言えば一つ肝心なことを申し上げるのを忘れておりました。基本的に城内や敷地内は自由に散策して頂いて構いません。ですが、お約束して頂きたいことが2点あります」
「何かしら?」
「こちらの城には白い扉にバラのレリーフが施されたお部屋と、中庭には温室が一つあります。そこへはどうぞ立ち入らないようにして下さい」
「分かったわ。入らないようにするわ」
「何故、入ってはいけないのですか?」
ジェニファーが頷くと、そこへ好奇心旺盛なポリーが尋ねる。
「バラの扉のお部屋と温室は、亡き奥様であるジェニー様の大切な思い出の場所だからです」
「「「!!!」」」
メイドの言葉に3人が凍り付いたのは……言うまでも無かった――
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