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2−20 シドの話 3

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「そう……だったのね……でも、これではっきり分かったわ……」

ジェニファーは泣きたい気持ちを堪えてポツリと呟く。

「何が分かったのですか?」

「ねぇ、シド。あなたはニコラスとジェニーの結婚式には参加したの?」

「……はい。ですが、ジェニー様の前に姿は見せないことを条件にですが。だから目立たない場所で式に参加しました。幸い、大勢の出席客で教会は溢れていましたので。パーティーには、警備という名目で出席しました」

「そう。ジェニーの花嫁姿は、さぞかし綺麗だったのでしょうね」

「そうですね。とてもお美しかったです」

それでもシドは、今目の前にいるジェニファーの方が美しいと思っていた。

「私、ジェニーが結婚したことは彼女からの手紙で知ったの。本当は結婚式に参加したかったけど、呼ばれることは無かったわ。それはフォルクマン伯爵から憎まれていたからだと思っていたのだけど……他にも理由があったのね」

「ジェニファー様……」

「ジェニーの子供の頃の夢はね、いつか王子様が自分を迎えに来てくれて結婚することだったの。ニコラスがそれを叶えてくれたのね。良かったわ、短い結婚生活だったかもしれないけれど2人は愛し合って、可愛いジョナサンまで残すことが出来たのだから。さぞかし幸せだったのでしょうね。でも……お祝いの手紙位は書きたかったわ」

まるで全てを諦めたかのような寂しい言い方に、シドは言い知れぬ感情が湧き上がってきた。

「手紙は書かなかったのですか?」

「書きたかったけどアドレスが無かったから書けなかったのよ。でも仕方ないわね、だって私はジェニーにとっては……困る存在だったのだろうから。それでも彼女は自分が結婚したことを知らせてくれたのよね。やっぱりジェニーは優しい人だったわ」

今にも泣きそうなジェニファーの様子に、もうシドは黙っていられなかった。

「ジェニファー様!」

シドはジェニファーの両肩を掴んだ。

「え? な、何?」

「本気でそんなことをおっしゃっているのですか? ジェニファー様はニコラス様のことを……」

そこでシドは言葉を切る。ジェニファーがニコラスのことを好きだったのは、傍で見ていので良く分かっていたからだ。けれど口に出すのは躊躇われた。

「どうしたの? シド」

ジェニファーが大きな緑の瞳でシドを見つめる。

「い、いえ……何でもありません。ところでジェニファー様」

シドはジェニファーの肩から手を離した。

「何?」

「『ボニート』までは、まだまだ遠いです。今日は色々あってお疲れでしょうから、少し休まれたらいかがでしょうか?」

「そうね、ではそうさせてもらおうかしら」

ジェニファーは眠っているジョナサンを抱き上げ、隣の部屋へ移動する為に立ち上がるとシドに声をかけた。

「シド」

「はい、何でしょう」

「ニコラスのこと、色々教えてくれてありがとう。嬉しかったわ、私からは彼に何も聞くことは出来ないから」

「! それ……は……」

「シドも休んでね。私の為に色々忙しい思いをさせてしまったから」

それだけ告げると、ジェニファーは笑みを浮かべて部屋を出て行った。

――パタン

扉が閉じられ個室に1人きりになると、シドは先程ジェニファーと交わした会話の内容を思いおこす。

15年前にジェニファーの身に起こった真実を知ってしまったのに、そのことをニコラスに告げられないことがもどかしくてならなかった。

「何て気の毒な方なんだ……」

ジェニファーのことを思い、シドはため息をつくのだった――
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