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2−14 別々の地へ
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シドが書斎に戻ってみると、ニコラスは既に出立の準備が終わっていた。
「ニコラス様、ジェニファー様に『ボニート』へ行くことを伝えてきました。もう準備を始めていると思います」
「そうか、ご苦労だった」
「では、私も荷物の準備をしてまいります」
シドが書斎を出て行こうとすると、ニコラスが引き留めた。
「待て、シド」
「はい。何でしょう」
「お前は視察について来なくていい。代わりにジェニファーと一緒に『ボニート』へ行ってくれ。他の護衛騎士達を連れていく事にする」
「え……? ですが……」
「ジェニファーとジョナサンには他の護衛騎士をつけようと思っていたが……お前が彼女を任せるのに一番信頼出来そうだからな。それにシドはあの地域に詳しいだろう? 何しろ少年時代を一緒に過ごした仲なのだから」
「ニコラス様……よろしいのですか?」
本当のことを言うと、ジェニファーから詳しく話を聞いてみたいと考えていたところだったので、シドにとっては好ましい提案だった。
「ああ、俺が戻るまでの間ジョナサンとジェニファーを頼む。向こうの屋敷には既に連絡はしてあるからな」
「はい、ニコラス様」
「この小切手をジェニファーに自由に使うようにと言って渡しておいてくれ。後のことを頼む」
ニコラスはそれだけ言うと、シドを残して書斎を出て行った――
****
「ジェニファー様。本当にお荷物はこれだけでよろしいのでしょうか?」
ポリーはジェニファーが用意した、たった2つだけのボストンバックを見て首を傾げる。
「ええ、そうなの。……少なくて恥ずかしいけど」
ジェニファーは眠っているジョナサンを抱きながら顔を赤らめる。その姿にポリーは思った。
(確かにジェニファー様の着ている服は、とてもではないけれど侯爵夫人がお召になるような服とは思えないわ……ジェニファー様に充てがわれる予算は無いのかしら……?)
――そのとき。
開かれていた扉からシドが姿を見せた。
「ジェニファー様」
「あ、シド。どうしたの?」
「お部屋の扉が開いていたので、声をかけさせていただいたのですが……中に入ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「失礼いたします」
ジェニファーに促され、シドは部屋に入ってきた。
「ジェニファー様。俺が一緒に『ボニータ』へ付き添うことになりましたので、よろしくお願いします」
護衛と言えば不安な気持ちにさせてしまうのではないかと感じたシドは、あえて「付き添い」と言い方を変えた。
その言葉を聞いて、ジェニファーの顔に笑みが浮かぶ。
「本当? 嬉しいわ、シドが一緒に来てくれるなら心強いもの」
「そう仰っていただけると、光栄です」
2人の様子を見つめていたポリーが尋ねてきた。
「あの、随分お2人は親しげに見えますが……ひょっとしてお知り合いだったのですか?」
「え?」
その言葉に戸惑うジェニファー。するとすかさず答えるシド。
「いや、初対面だ。ジェニファー様とはつい先程出会ったばかりだ」
「そうだったのですね? 私ったらてっきり……申し訳ございませんでした」
慌てたようにポリーは謝った。
「別に謝ることではない。では、行きましょう。俺が荷物を運びますよ」
シドがジェニファーの荷物を持つとすかさずポリーも荷物を手に取る。
「私もお手伝いします」
「ありがとう、シド。ポリー」
ジェニファーは眠っているジョナサンをベビーカーにそっと乗せると、シドが声をかけた。
「では、早速参りましょう」
「「はい」」
シドの言葉に、2人は返事をした。
こうして……ジェニファーとニコラスは再会して早々に、別々の場所へ向かうことになるのだった――
「ニコラス様、ジェニファー様に『ボニート』へ行くことを伝えてきました。もう準備を始めていると思います」
「そうか、ご苦労だった」
「では、私も荷物の準備をしてまいります」
シドが書斎を出て行こうとすると、ニコラスが引き留めた。
「待て、シド」
「はい。何でしょう」
「お前は視察について来なくていい。代わりにジェニファーと一緒に『ボニート』へ行ってくれ。他の護衛騎士達を連れていく事にする」
「え……? ですが……」
「ジェニファーとジョナサンには他の護衛騎士をつけようと思っていたが……お前が彼女を任せるのに一番信頼出来そうだからな。それにシドはあの地域に詳しいだろう? 何しろ少年時代を一緒に過ごした仲なのだから」
「ニコラス様……よろしいのですか?」
本当のことを言うと、ジェニファーから詳しく話を聞いてみたいと考えていたところだったので、シドにとっては好ましい提案だった。
「ああ、俺が戻るまでの間ジョナサンとジェニファーを頼む。向こうの屋敷には既に連絡はしてあるからな」
「はい、ニコラス様」
「この小切手をジェニファーに自由に使うようにと言って渡しておいてくれ。後のことを頼む」
ニコラスはそれだけ言うと、シドを残して書斎を出て行った――
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「ジェニファー様。本当にお荷物はこれだけでよろしいのでしょうか?」
ポリーはジェニファーが用意した、たった2つだけのボストンバックを見て首を傾げる。
「ええ、そうなの。……少なくて恥ずかしいけど」
ジェニファーは眠っているジョナサンを抱きながら顔を赤らめる。その姿にポリーは思った。
(確かにジェニファー様の着ている服は、とてもではないけれど侯爵夫人がお召になるような服とは思えないわ……ジェニファー様に充てがわれる予算は無いのかしら……?)
――そのとき。
開かれていた扉からシドが姿を見せた。
「ジェニファー様」
「あ、シド。どうしたの?」
「お部屋の扉が開いていたので、声をかけさせていただいたのですが……中に入ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「失礼いたします」
ジェニファーに促され、シドは部屋に入ってきた。
「ジェニファー様。俺が一緒に『ボニータ』へ付き添うことになりましたので、よろしくお願いします」
護衛と言えば不安な気持ちにさせてしまうのではないかと感じたシドは、あえて「付き添い」と言い方を変えた。
その言葉を聞いて、ジェニファーの顔に笑みが浮かぶ。
「本当? 嬉しいわ、シドが一緒に来てくれるなら心強いもの」
「そう仰っていただけると、光栄です」
2人の様子を見つめていたポリーが尋ねてきた。
「あの、随分お2人は親しげに見えますが……ひょっとしてお知り合いだったのですか?」
「え?」
その言葉に戸惑うジェニファー。するとすかさず答えるシド。
「いや、初対面だ。ジェニファー様とはつい先程出会ったばかりだ」
「そうだったのですね? 私ったらてっきり……申し訳ございませんでした」
慌てたようにポリーは謝った。
「別に謝ることではない。では、行きましょう。俺が荷物を運びますよ」
シドがジェニファーの荷物を持つとすかさずポリーも荷物を手に取る。
「私もお手伝いします」
「ありがとう、シド。ポリー」
ジェニファーは眠っているジョナサンをベビーカーにそっと乗せると、シドが声をかけた。
「では、早速参りましょう」
「「はい」」
シドの言葉に、2人は返事をした。
こうして……ジェニファーとニコラスは再会して早々に、別々の場所へ向かうことになるのだった――
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