88 / 237
2−11 シドへの頼み
しおりを挟む
「そう言えば、1人でこのホールまで来たのか?」
ニコラスがジェニファーに視線を移す。
「いえ。メイドのポリーさんという方と一緒に、ここまで来ました」
(どうしよう……怒られてしまうかしら……)
ジェニファーはジョナサンをあやしながら、俯き加減に返事をした。
「メイドと一緒にか? だが、当分話は終わらないだろうな。1人で部屋に戻れそうか?」
ホールでは残った使用人たちが、急遽筆頭執事となったライオネルの話を聞いている真っ最中だった。
「申し訳ございません、私はまだこちらのお屋敷に来たばかりですので……戻れません」
「そうか……なら仕方ないな。シド」
「はい、ニコラス様」
名前を呼ばれてシドが返事をする。
「ジェニファーをジョナサンの子供部屋に案内してくれ。場所は覚えているか?」
「はい、覚えております」
「では、部屋まで案内したらすぐに書斎へ来い」
「承知いたしました」
次にニコラスはジェニファーに声をかけた。
「聞いていた通りだ。シドに部屋まで案内してもらうといい。引き続きジョナサンの世話をするように」
「はい、ニコラス様」
ジェニファーが返事をすると、ニコラスは急ぎ足で去っていった。
(ニコラス……私、また貴方を怒らせてしまったのかしら……)
悲しい気持ちで遠ざかっていくニコラスを見つめていると、シドが声をかけてきた。
「では、行きましょうか?」
「は、はい」
ジェニファーは返事をすると、腕の中のジョナサンをベビーカーに入れた。
「ごめんなさい、ジョナサン。お部屋につくまでこの中にいてね」
その様子をじっと見つめるシド。
「すみません、お待たせいたしました」
「……いえ。では行きましょう」
シドはジェニファーの前に立つと、歩き始めた。
「「……」」
少しの間、2人は無言で廊下を歩いていたが……ジェニファーには尋ねたいことがあった。
(どうしよう……何だ話しかけにくいわ……でも……)
そこで勇気を振り絞って、ジェニファーは声をかけようとしたそのとき。
「……あなたは、あのときのジェニー様なのですよね?」
「え……!?」
シドの言葉にジェニファーは血の気が引いた。
「その反応……やはり、そうだったのですね。15年前、あのときあなたは自分のことをジェニー・フォルクマンと名乗っていました。ですが本当の名前はジェニファー様なのですよね? 一体これはどういうことなのですか?」
「そ、それは……」
(どうしよう……! 私が嘘をついていたことがシドにバレてしまったわ……! このことがニコラスやフォルクマン伯爵に知られたら……怒られてしまう!)
怒りの眼差しを向けるニコラスやフォルクマン伯爵の顔がジェニファーの脳裏に浮かぶ。
「ご、ごめんなさい!!」
ジェニファーは大きな声で謝った。
「え?」
シドの顔に戸惑いが浮かぶ。
「そうです。私は15年前、ジェニーのフリをして2人に会っていました。でも、どうかお願いします! ニコラスには黙っていて下さい! もし、嘘がバレたら……私……」
ジェニファーは震えながら懇願した。
何故恨まれているのかは分からなかったが、ニコラスはジェニファーにとって、初恋の相手だ。これ以上、憎まれたくは無かったのだ。
「落ち着いて下さい、ジェニファー様。何も責めているのでは、ありません。どうしてもニコラス様に知られたくないというのであれば、俺からは何も報告しませんから安心して下さい」
「シド……さん……」
ジェニファーは肩を震わせながら。シドを見上げる。
「それと15年前にも言いましたが、俺のことはシドと呼んで下さい。敬語もなしです。いいですか?」
そこまで話したとき、ジョナサンの部屋の前に到着した。
「あ……ここは……」
「はい、ジョナサン様の部屋の前です。ニコラス様に呼ばれているので、これで失礼します」
「ありがとう、シド」
シドは礼を述べるジェニファーに頷くと、その場を去って行った――
ニコラスがジェニファーに視線を移す。
「いえ。メイドのポリーさんという方と一緒に、ここまで来ました」
(どうしよう……怒られてしまうかしら……)
ジェニファーはジョナサンをあやしながら、俯き加減に返事をした。
「メイドと一緒にか? だが、当分話は終わらないだろうな。1人で部屋に戻れそうか?」
ホールでは残った使用人たちが、急遽筆頭執事となったライオネルの話を聞いている真っ最中だった。
「申し訳ございません、私はまだこちらのお屋敷に来たばかりですので……戻れません」
「そうか……なら仕方ないな。シド」
「はい、ニコラス様」
名前を呼ばれてシドが返事をする。
「ジェニファーをジョナサンの子供部屋に案内してくれ。場所は覚えているか?」
「はい、覚えております」
「では、部屋まで案内したらすぐに書斎へ来い」
「承知いたしました」
次にニコラスはジェニファーに声をかけた。
「聞いていた通りだ。シドに部屋まで案内してもらうといい。引き続きジョナサンの世話をするように」
「はい、ニコラス様」
ジェニファーが返事をすると、ニコラスは急ぎ足で去っていった。
(ニコラス……私、また貴方を怒らせてしまったのかしら……)
悲しい気持ちで遠ざかっていくニコラスを見つめていると、シドが声をかけてきた。
「では、行きましょうか?」
「は、はい」
ジェニファーは返事をすると、腕の中のジョナサンをベビーカーに入れた。
「ごめんなさい、ジョナサン。お部屋につくまでこの中にいてね」
その様子をじっと見つめるシド。
「すみません、お待たせいたしました」
「……いえ。では行きましょう」
シドはジェニファーの前に立つと、歩き始めた。
「「……」」
少しの間、2人は無言で廊下を歩いていたが……ジェニファーには尋ねたいことがあった。
(どうしよう……何だ話しかけにくいわ……でも……)
そこで勇気を振り絞って、ジェニファーは声をかけようとしたそのとき。
「……あなたは、あのときのジェニー様なのですよね?」
「え……!?」
シドの言葉にジェニファーは血の気が引いた。
「その反応……やはり、そうだったのですね。15年前、あのときあなたは自分のことをジェニー・フォルクマンと名乗っていました。ですが本当の名前はジェニファー様なのですよね? 一体これはどういうことなのですか?」
「そ、それは……」
(どうしよう……! 私が嘘をついていたことがシドにバレてしまったわ……! このことがニコラスやフォルクマン伯爵に知られたら……怒られてしまう!)
怒りの眼差しを向けるニコラスやフォルクマン伯爵の顔がジェニファーの脳裏に浮かぶ。
「ご、ごめんなさい!!」
ジェニファーは大きな声で謝った。
「え?」
シドの顔に戸惑いが浮かぶ。
「そうです。私は15年前、ジェニーのフリをして2人に会っていました。でも、どうかお願いします! ニコラスには黙っていて下さい! もし、嘘がバレたら……私……」
ジェニファーは震えながら懇願した。
何故恨まれているのかは分からなかったが、ニコラスはジェニファーにとって、初恋の相手だ。これ以上、憎まれたくは無かったのだ。
「落ち着いて下さい、ジェニファー様。何も責めているのでは、ありません。どうしてもニコラス様に知られたくないというのであれば、俺からは何も報告しませんから安心して下さい」
「シド……さん……」
ジェニファーは肩を震わせながら。シドを見上げる。
「それと15年前にも言いましたが、俺のことはシドと呼んで下さい。敬語もなしです。いいですか?」
そこまで話したとき、ジョナサンの部屋の前に到着した。
「あ……ここは……」
「はい、ジョナサン様の部屋の前です。ニコラス様に呼ばれているので、これで失礼します」
「ありがとう、シド」
シドは礼を述べるジェニファーに頷くと、その場を去って行った――
452
お気に入りに追加
1,791
あなたにおすすめの小説

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始

王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います
真理亜
恋愛
ここセントール王国には一風変わった習慣がある。
それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。
要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。
そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、
「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」
と言い放ったのだった。
少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる