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2−9 集められた使用人たち 3

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 ニコラスに指示され、中心になって騎士たちに命じる青年をジェニファーは扉の陰からじっと見つめていた。

栗毛色の髪の青年は、昔少しの間交流のあった少年シドの面影を残している。
そしてジェニファーとすれ違うとき、2人の目と目があったのだ。その瞬間、驚いたように青年は目を見開いた。

「……多分、あの人は……ニコラスの護衛をしていたシドに違いないわ……」

ジェニファーは、このまま様子を伺うことにした。


「ニコラス様に反抗した使用人たちは全員確保しました。その際に抵抗した者は縛っております」

栗毛色の青年……シドがニコラスに報告した。

「そうか、良くやってくれた。シド」

ニコラスは頷くと、自分に抵抗した使用人たちを見渡した。彼らは騎士たちによって囲まれ、半数近い使用人たちが両手を紐で縛られている。当然、そこにはモーリスやメイド長、そして反論してきた執事の姿もある。

「ニコラス様! こ、このような身勝手な真似をなさって……大旦那様がこのことを知ったなら大事になりますよ! それにパトリック様にイザベラ様も黙ってはおられないでしょう! 一体何をお考えなのですか!」

モーリスが顔を赤らめて抗議した。

「俺はパトリックと後継者争いの末、父から正式にテイラー侯爵家の家督を継いだのだ。当主の俺に歯向かえる者など、もういない! お前たち! 捕らえた使用人たちを各自の部屋に連れていき、荷造りをさせろ!」

『はいっ!』

騎士たちはニコラスの命令に声を揃えて返事をすると、クビを命じられた使用人たちを取り囲むように連行していく。
「……」

その様子をジェニファーは縮こまりながら見つめていると、何やら強い視線を感じた。

「!」

思わず、その方向を見つめてジェニファーは息を呑んだ。連れ出されていく使用人たちの中に専属メイドとして紹介されたジルダと、シッターのダリアの姿があったからだ。
彼女たちは憎しみを込めた目で、ジェニファーを睨みつけながら他の使用人たちと同様に連れ去られていく。

(そ、そんな……まさか、あの人達までニコラスに歯向かったなんて……)

呆然と彼女たちの後ろ姿を見届けていたそのとき。

「小娘! 何故お前がここにいる!!」

突如背後で恐ろしい声が聞こえ、ベビーカーの中にいたジョナサンが怯えて激しく泣き出した。

「ワアアアァアアンッ!!」

「ジョナサンッ!」

慌ててジェニファーはベビーカーからジョナサンを抱き上げ、振り向いた。すると執事のモーリスが恐ろしい形相でこちらを睨みつけている。
モーリスは2人の騎士たちに押さえつけられながらも、ジェニファーを怒鳴りつけた。

「お前のせいだ! こんな事になってしまったのは全てお前の!! どうしてくれるのだ!!」

「あ……」

火が付いたように泣くジョナサンを抱きしめながら、ジェニファーは震えながら後ずさった。

(何もかも……私が悪かったの? あのとき、ジェニーを見捨ててしまったから……こんな事になってしまったの……?)

15年前の出来事が脳裏に蘇ってくる。フォルクマン伯爵に怒鳴りつけられ、重い荷物を抱えて追い出されるジェニファーに冷たい視線を送る使用人たち。

「も、申し訳……ありませ……」

思わず俯いたその時、突然シドがジェニファーとモーリスの前に立ちはだかった。

「いい加減にしろ! 当主に逆らう貴様はもはや罪人だ! お前たち、その男は牢屋に連れて行け!」

「はいっ!」

取り押さえていた一人の騎士が返事をすると、モーリスの顔が青ざめる。

「な、何だと!? この私を牢屋に入れるだと!? ふざけるな! 離せ! 私を誰だと思っている! テイラー侯爵家の筆頭執事なのだぞ!」

いくら叫んで暴れても、騎士の力には敵わない。
モーリスは抵抗を続けながら、騎士たちに連行されていった。

「あ、あの……ありがとうございます」

場が落ち着き、ようやく泣き止んだジョナサンをあやしながらジェニファーはシドに声をかけた。
するとシドはゆっくり振り向き……。

「ひょっとして……ジェニー様ですか?」

驚きの言葉を口にした――
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