望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
83 / 237

2−6 騒ぎの原因

しおりを挟む
――その頃。

ベビーベッドの上でお座りしているジョナサンの元へ、哺乳瓶を持ったジェニファーが姿を見せた。

「ンマンマ」

途端にジョナサンは両手を伸ばして、訴える。

「フフフ。ジョナサンはおりこうね、今ミルクをあげるわね」

ベビーベッドからジョナサンを抱き上げてソファに座ると、ジェニファーは慣れた手つきでミルクをあげた。

コクンコクンと喉を鳴らしてミルクを飲むジョナサンをジェニファーは愛しげに見つめる。

「本当にジョナサンはジェニーに良く似ているわね。その青い瞳……海のように綺麗だわ」

すると傍らでシーツ交換をしていたポリーが尋ねてきた。

「私は前の奥様にお会いしたことが無かったのですが、ジェニファー様とジェニー様は従姉妹同士だったのですか?」

「……え、ええ。そうです。ジェニーは私の……大切な従姉妹でした」

(でも、今の私にはそんなこと言える立場ではないわ……私のせいでジェニーは死にかけてしまった過去があるのだから……)

ジェニーのことを思い出すと、申し訳ない気持ちで今もジェニファーの胸は痛くなる。

その時。

廊下が不意にバタバタと騒がしくなった。
多くの足音が行き来する足音が聞こえてくる。

「あら? 何だか騒がしくなりましたね?」

ミルクを上げながらジェニファーは扉の方を振り向いた。

「ええ、確かにそうですね。一体何事なのでしょう? 少し様子を見てきますね」

ポリーはシーツを籠にいれると、扉に向った。


「え!? な、何!」

扉を開けたポリーは驚いた。
何故なら大勢の使用人たちが慌ただしく同じ方向に向かって歩いているのからだ。誰もが不安げな表情を浮かべている。

そこでポリーは眼の前を通り過ぎようとする、年若いフットマンに慌てて声をかけた。

「あ、あの! 一体これは何事ですか?」

「何も知らないのか? 先ほど当主様が執事長とメイド長にクビを言い渡したんだよ。それで使用人は全員ホールに集まるように指示があったんだよ」

「え!? そんな話、初耳です!」

「なら、お前もすぐにホールに来いよ。当主様の命令なんだからな」

フットマンはそれだけ言うと、足早に去っていく。

「大変だわ……ジェニファー様に声をかけたらホールに行かなくちゃ!」

ポリーは急いで部屋に入った。


「大変です! ジェニファー様!」

「どうかしたのですか?」

ジェニファーは丁度ミルクを飲み終えたジョナサンを抱き上げ、背中をなでているところだった。

「実は当主様が先程、執事長とメイド長をクビにしたそうです。そして全ての使用人はホールに集まるように指示されました。なので私も今から行ってまいります!」

「え!? そうなのですか!?」

その言葉にジェニファーの顔は青ざめ、すぐに自分が原因なのではないかと察した。

「仕事の途中なのに、申し訳ありません。ジェニファー様。失礼いたします」

ポリーが部屋を出ようとしたところを、ジェニファーが引き止めた。

「待って下さい! ポリーさん!」

「? どうかしましたか?」

「はい。私もホールに連れて行って下さい」

ジェニファーは真剣な顔でポリーを見つめた。

「え? で、ですが……ジョナサン様が……」

「ジョナサン様なら、大丈夫です。ミルクも飲みましたし、今はご機嫌なので一緒に連れていきます。もし泣いたリ、ぐずったりした場合は部屋に戻りますので……どうか私も連れて行って下さい。お願いします」

ジェニファーはポリーに頭を下げた――
しおりを挟む
感想 551

あなたにおすすめの小説

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います

真理亜
恋愛
 ここセントール王国には一風変わった習慣がある。  それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。  要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。  そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、 「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」  と言い放ったのだった。  少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ! 完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。 崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド 元婚家の自業自得ざまぁ有りです。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位 2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位 2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位 2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位 2022/09/28……連載開始

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...