上 下
82 / 203

2−5 ニコラスの決定

しおりを挟む
 ニコラスが部屋に戻ると、執事長のモーリスが出迎えた。

「ニコラス様、出発の準備は全て整えております」

「……モーリス」

ニコラスはモーリスを睨みつけた。

「はい、何でございましょう」

「今、ジョナサンの様子を見に行ってきたが……ジェニファーはジョナサンを連れて洗濯をしに行こうとしていたんだぞ? それどころか食事はパンとスープのみだった。着ている服だって、まるで使用人以下のように乏しいものだし……あれで侯爵夫人と言えると思っているのか!? 何故あのような待遇をしている!」

「それはジェニファー様が自分から言い出したことです。自分の洗濯は自分でする。食事はパンとスープで良いと。我々はその言葉に従ったまでです」

眉一つ動かさずにモーリスは答える。

「お前は本気でそんなことを言っているのか? 何処の世界に自ら望んでそんな申し出をする者がいるんだ? そう言わざるをえない環境を作ったからではないのか?」

「お言葉を返すようではありますが……ニコラス様がそれを望んでいたのではありませんか?」

「……何だと?」

その言葉に反応する。

「あれほど、ニコラス様はジェニファー様を恨んでいたではありませんか? あの温和なフォルクマン伯爵でさえ、ジェニファー様の話になると怒りを顕にしていました。所詮、そのような人物なのですよ? それなのにニコラス様は我らの反対を押し切って、あの方を後妻に迎え入れたではありませんか?」

「それはジェニーの遺言だったからだ!」

「だからですよ」

「何?」

モーリスは冷たい笑みを浮かべる。

「ただでさえジェニー様はお身体の弱い方でした。それなのに精神的に、あの者は追い詰めていったのですよ? 外見はジェニー様にそっくりではありますが、とんでもない悪女です。どうせ自分から後妻に入れるように、心優しいジェニー様に命じたに決まっています。そのような者に少々罰を与えて何が悪いのですか?」

「何だと? モーリス……お前は本気でそんなことを言っているのか!?」

ついに我慢できず、ニコラスは声を荒げた。

「ええ、本気です。メイド長も同じ考えです」

相変わらず顔色一つ変えないモーリス。

「……そうか、分かった。今、メイド長も同じ考えだと言ったな?」

「はい」

「なら、お前とメイド長を解雇することにしよう」

「え!? な、何ですって!?」

この時になり、初めてモーリスの顔が青ざめる。

「当主の考えに反抗的な者はこの屋敷には必要ない。当然だろう?」

「ほ、本気で仰っておられるのですか!? 私は先代の御主人様の代から、この屋敷で執事として働いていたのですよ!? その私を解雇すると仰るのですか!?」

「そうだ。以前からお前とメイド長は身勝手な振る舞いが多かった。何しろ、お前たちは俺が当主になるのが気に入らなかったのだろう? ジェニーのことは大切にしていたから、今まで多目に見ていたが……もう我慢の限界だ。今、ここでお前たちはクビだ」

ニコラスは冷たく言い放った――

しおりを挟む
感想 476

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

心の中にあなたはいない

ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。 一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

愛しの貴方にサヨナラのキスを

百川凛
恋愛
王立学園に通う伯爵令嬢シャロンは、王太子の側近候補で騎士を目指すラルストン侯爵家の次男、テオドールと婚約している。 良い関係を築いてきた2人だが、ある1人の男爵令嬢によりその関係は崩れてしまう。王太子やその側近候補たちが、その男爵令嬢に心惹かれてしまったのだ。 愛する婚約者から婚約破棄を告げられる日。想いを断ち切るため最後に一度だけテオドールの唇にキスをする──と、彼はバタリと倒れてしまった。 後に、王太子をはじめ数人の男子生徒に魅了魔法がかけられている事が判明する。 テオドールは魅了にかかってしまった自分を悔い、必死にシャロンの愛と信用を取り戻そうとするが……。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

処理中です...