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1−15 新しい部屋

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釣り書きを見せ、ニコラスに冷たい言葉を投げかけられてジェニファーは部屋を出た。

――パタン

扉を閉め廊下に出たジェニファーは、ニコラスのあまりの変貌ぶりに我慢できず、とうとう目に涙が浮かんでしまった。

「……うっ……」

(駄目よ、泣いたりしたら……泣いたら、もっと私の立場が悪くなってしまうわ……)

ジェニファーは必死に自分に言い聞かせ、目をゴシゴシこすったそのとき。

「ジェニファー様でいらっしゃいますか?」

不意に背後から声をかけられ、ジェニファーは振り向いた。

「は、はい」

すると、そこにいたのはジェニファーとさほど年齢が変わらないメイドだった。
メイドは振り返ったジェニファーに会釈した。

「私、本日よりジェニファー様の身の回りのお世話をさせていただくことになりましたメイドのジルダと申します。よろしくお願いいたします」

会釈してきたジルダにジェニファーも慌てて挨拶した。

「こちらこそよろしくお願いします。ジルダさん」

「私はメイドなので、ジルダで結構です。それではまずはお部屋にご案内させていただきます」

表情一つ買えず、ジルダは前に立って歩き出したので、ジェニファーも後をついていくことにした。

テイラー侯爵家は少女時代、一時的にお世話になっていたジェニーの別荘よりもずっと大きかった。
長い廊下を歩いていると途中何人ものメイドやフットマンに出会った。けれど、皆挨拶するどころかジェニファーをチラリと一瞥するだけだった。まるでジェニファーには少しも興味を抱いていない様子だ。

(ニコラスの態度で分かったけど……ここで働いている人たちからも、私はよく思われていないのね……)

そのことが、ますます悲しかった。
ニコラスは明らかに自分を憎んでいるし、使用人たちも自分が誰なのか分かっているはずなのに冷たい態度を取っている。
ここには、自分の味方が誰一人いないのだということをジェニファーは感じていた。

けれど、何故ここまで自分がテイラー侯爵家から憎まれているのか分からなかった。
ただ、一つ思い当たることがあるとすれば……。

(きっとニコラスが私のことを憎んで……それで、ここにいる人達に悪く言っていたのでしょうね……。ジェニーの遺言状さえなければ、ニコラスは私の顔すら見たくなかったはずだわ)

だとしたら、自分はこれからこの屋敷でどのように暮らしていけばいいのだろう?
そんなことを考えていた時。

「こちらがジェニファー様のお部屋になります」

不意にジルダが足を止めて、ジェニファーを振り返った。

「ここが……私の部屋ですか?」

眼の前の白い扉は、ジェニファーの背丈よりもずっと大きかった。ドアノブは金色に輝いている。

「どうぞお入り下さい」

ジルダが扉を開けると、今まで見たこともないような美しく整えられた部屋がジェニファーの目に飛び込んできた。

日当たりの良い大きな窓。
高い天井には見事なシャンデリアが吊り下げられて、窓際には天蓋付きの大きなベッドが置かれている。
他にも生活必需品の家具が置かれ、まるで昔ジェニーが暮らしていた部屋を思い出させた。

「あの、本当にこんなに素晴らしい部屋を私が使って良いのですか?」

部屋を見た途端にジェニファーは悲しい気持ちが吹き飛び、笑顔でジルダに尋ねる。

「え? ええ、さようでございます。それでは少しの間、こちらのお部屋でお待ちになって下さい。時期に執事長が参りますので。では失礼致します」

「こちらこそ、ありがとうございました」

ジェニファーもお礼を述べるとジルダは怪訝そうな表情を浮かべるも、「失礼いたします」と部屋を出て行った。

パタンと扉が閉じ、室内はジェニファーだけとなる。そこでカウチソファに座ると背もたれに寄りかかった。

「こんなに素敵な部屋を用意してくれるなんて……やっぱりニコラスは良い人なのね」

(結婚式も無い、書類にサインしただけの結婚となったけど……ニコラスの良い妻となるために頑張らなくちゃ……)

旅の疲れのせいで、ジェニファーはソファに座ったまま眠りについてしまった。
今まで以上に辛い生活が、これから始まるとは夢にも思わずに――
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