望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

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1−11 横暴なアン

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「叔母様、ニコラス様から手紙の返事が届きました」

ジェニファーは自室で本を読んでくつろいでいるアンの元にやってきた。

「そうなのね!? 早く見せなさい!」

アンは読んでいた本を閉じると、手を突き出してきた。

「はい。この手紙です」

ジェニファーの手から手紙をひったくりると、訝しげに首を傾げた。

「開封されているわ。まさかもう読んだの?」

強い口調で問い詰めてくる。

「あ、あの……宛先が私だったので……読んでしまいました」

「いつも言っているでしょう!? この家の主は私なのよ? 先に私に手紙を見せるのが筋でしょう!」

「すみません……次回から気をつけます……」

「全く……いつまでたっても融通が効かないんだから……」

ブツブツいいながら、アンは手紙に目を通し……眉をひそめた。

「……何よ。この手紙……随分素っ気ないわね。命令口調なのも気に入らないわ」

アンは自分のことを差し置いて手紙の内容にケチをつけてくる。

「ねぇ、ジェニファー。本当にこの相手は、あなたを妻に望んでいるのかしらねぇ? 私には相手が少しも乗り気が無いように見えるのだけど」

「……そう、ですよね……」

痛いところを突かれてジェニファーは俯く。

「まぁいいわ。相手がどんな人物だろうと、こちらにお金を融通してくれればよいのだから。それでいくら私達に支払ってくれるのかしら? 小切手があるのよね?」

手紙に小切手が同封されていることが記されているので、アンは尋ねた。

「はい、これです」

エプロンのポケットから、小切手を出したジェニファー。

「よこしなさい」

「で、ですが……この小切手は、ニコラス様の元へ行く為の小切手で……」

「いいから寄越すのよ!!」

アンの叱責が飛んできて、ジェニファーは思わず肩をすくめた。

「わ、分かりました……」

ついに観念したジェニファーはアンに小切手を手渡す。

「全く、始めから素直に渡せば良いものを……あら、まぁ! すごいじゃない。金貨50枚ですって! これだけあれば、半年は余裕で暮らせそうだわ」

「叔母様、ですがその金貨には旅費も含まれていて……」

するとアンから驚きの言葉が出てくる。

「何を言ってるの! 旅費ぐらい自分で何とか出しなさい! こっちはねぇ、あなたという貴重な働き手を先方に渡すのよ? むしろ、金貨50枚なんて足りないくらいよ。だいたい、私の言った通り結婚相手に援助金の申し出はしたの!?」

「!」

その言葉にジェニファーはビクリとする。ニコラスに援助金の申し出など、出来るはずも無かった。

「い、いいえ……していません……」

「やっぱりね。そうだと思っていたわ。だからこの小切手は全額貰うわ」

「そ、そんな! それではニコラス様の元へ行けません! お願いです、叔母様。せめて旅費だけでも下さい!」

ジェニファーは必死で訴える。

「だったら、もう一度手紙を書くなり、電報を打つなりしてお金を請求しなさい! 元はと言えば、私の言うことに背いたからよ! そんなことより、早く昼食の用意でもしてきたらどうなの!」

ヒステリックにアンが喚いた。

「……分かりました……食事の用意をしてきます……」

ジェニファーは諦めて、台所へ向った。

(どうしよう……私の貯金はサーシャの結婚費用に貯めていたものだし、そのお金を使っても足りるか分からないわ……それに着ていく服も無いし……)

それにニコラスのどこか冷たい印象が漂う手紙も気がかりだった。

(私、本当にニコラスに嫁いでも良いのかしら……)

憂鬱な気分でジェニファーは食事の用意にとりかかりはじめた――
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