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1−10 ニコラスからの返事
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ニコラスに手紙の返事を送り、10日後――
この日、ジェニファーは仕事が休みで朝から家事に追われていた。
「ジェニファー。手紙の返事は届いたのかしら?」
庭で畑仕事をしているジェニファーの元に、アンが現れた。
「いいえ、まだですけど」
ジェニファーは採取していたトマトをカゴに入れながら返事をする。
「ふ~ん……嘘をついてないでしょうね?」
「嘘なんてついていません。手紙が届いた翌日にはポストに投函していますから」
「あら、そう。ならいいけど……ところで、そのトマトはどうするのかしら?」
「今夜の夕食の材料ですけど?」
「……そう、とにかく返事が届いたらすぐに教えなさいよ」
「分かりました」
返事をすると、アンはさっさと家の中へ入っていった。
「……さて。次はじゃがいもの収穫をしなくちゃ」
そしてジェニファーはじゃがいもの畑へ向った――
太陽が真上に登っても、ジェニファーはまだ野菜の収穫作業をしていた。カゴの中には様々な野菜が入っている。
「これだけあれば、今夜の夕食の材料は足りるわね」
ジェニファーが家に入ろうとしたそのとき。
ガラガラと荷馬車の音が聞こえ、顔を上げた。見ると、郵便配達の馬車が近づいてきている。
「もしかして、郵便かしら……」
そのまま待っていると門の外で荷馬車が止まり、配達員がやってきた。
「ブルックさんですか?」
「はい、そうです」
「速達が届いています」
配達員はカバンの中から手紙を手渡してきた。やはり思っていた通り、その手紙はニコラスからのものだった。
「ありがとうございます」
「ではこの受取用紙にサインをお願いします」
配達員から用紙とペンを預かると、ジェニファーはサラサラとサインして手渡した。
「お願いします」
「……はい、確かにサイン頂きました。ではこれで失礼しますね」
配達員が再び荷馬車に乗って去って行くのを見届けると、早速ジェニファーは、逸る気持ちを抑えて手紙を開封した。
『早速の返事、確認させてもらった。それでは、結婚を了承したということで話を進めさせてもらう。まずは自分の釣り書きと戸籍を用意すること。必要な物は全てこちらで揃えるので、特に持参する必要はない。旅費は同封した小切手を使うように。準備が出来次第、すぐにこちらに向ってくれ。アドレスは手紙と同じだ。屋敷の者たちには分かるようにしておく』
手紙にはそれだけが書かれていた。
「え……? これだけ……?」
思わずジェニファーは首を傾げてしまった。
結婚の申込みを受けたというのに、ニコラスからの手紙には何の感情も伴っていない。
ただ、淡々と……まるで事務的な内容だ。そんな手紙にジェニファーは違和感を抱かずにはいられなかった。
「結婚申込の返事って、普通はこんなものなの……?」
ジェニファーはニコラスからの返事を頭の中で描いていた。結婚の申し込みを受けたことに対する感謝の気持ちが綴られているかと思っていた。
これからは夫婦として仲良くしていこう……そんな言葉が綴られているのではないかと期待していた。
それなのにニコラスからの手紙には、結婚をむしろ嫌がっているように感じられてならない。
「ニコラス……もしかして、本当は私と結婚したくないの……?」
思わずジェニファーの口から不安な気持ちが言葉として出てしまった。
その予感が当たっていたことを、いずれジェニファーは知ることになる――
この日、ジェニファーは仕事が休みで朝から家事に追われていた。
「ジェニファー。手紙の返事は届いたのかしら?」
庭で畑仕事をしているジェニファーの元に、アンが現れた。
「いいえ、まだですけど」
ジェニファーは採取していたトマトをカゴに入れながら返事をする。
「ふ~ん……嘘をついてないでしょうね?」
「嘘なんてついていません。手紙が届いた翌日にはポストに投函していますから」
「あら、そう。ならいいけど……ところで、そのトマトはどうするのかしら?」
「今夜の夕食の材料ですけど?」
「……そう、とにかく返事が届いたらすぐに教えなさいよ」
「分かりました」
返事をすると、アンはさっさと家の中へ入っていった。
「……さて。次はじゃがいもの収穫をしなくちゃ」
そしてジェニファーはじゃがいもの畑へ向った――
太陽が真上に登っても、ジェニファーはまだ野菜の収穫作業をしていた。カゴの中には様々な野菜が入っている。
「これだけあれば、今夜の夕食の材料は足りるわね」
ジェニファーが家に入ろうとしたそのとき。
ガラガラと荷馬車の音が聞こえ、顔を上げた。見ると、郵便配達の馬車が近づいてきている。
「もしかして、郵便かしら……」
そのまま待っていると門の外で荷馬車が止まり、配達員がやってきた。
「ブルックさんですか?」
「はい、そうです」
「速達が届いています」
配達員はカバンの中から手紙を手渡してきた。やはり思っていた通り、その手紙はニコラスからのものだった。
「ありがとうございます」
「ではこの受取用紙にサインをお願いします」
配達員から用紙とペンを預かると、ジェニファーはサラサラとサインして手渡した。
「お願いします」
「……はい、確かにサイン頂きました。ではこれで失礼しますね」
配達員が再び荷馬車に乗って去って行くのを見届けると、早速ジェニファーは、逸る気持ちを抑えて手紙を開封した。
『早速の返事、確認させてもらった。それでは、結婚を了承したということで話を進めさせてもらう。まずは自分の釣り書きと戸籍を用意すること。必要な物は全てこちらで揃えるので、特に持参する必要はない。旅費は同封した小切手を使うように。準備が出来次第、すぐにこちらに向ってくれ。アドレスは手紙と同じだ。屋敷の者たちには分かるようにしておく』
手紙にはそれだけが書かれていた。
「え……? これだけ……?」
思わずジェニファーは首を傾げてしまった。
結婚の申込みを受けたというのに、ニコラスからの手紙には何の感情も伴っていない。
ただ、淡々と……まるで事務的な内容だ。そんな手紙にジェニファーは違和感を抱かずにはいられなかった。
「結婚申込の返事って、普通はこんなものなの……?」
ジェニファーはニコラスからの返事を頭の中で描いていた。結婚の申し込みを受けたことに対する感謝の気持ちが綴られているかと思っていた。
これからは夫婦として仲良くしていこう……そんな言葉が綴られているのではないかと期待していた。
それなのにニコラスからの手紙には、結婚をむしろ嫌がっているように感じられてならない。
「ニコラス……もしかして、本当は私と結婚したくないの……?」
思わずジェニファーの口から不安な気持ちが言葉として出てしまった。
その予感が当たっていたことを、いずれジェニファーは知ることになる――
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