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1−6 家の為に

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「ダンッ! 何処へ行くの!?」

ジェニファーが慌てて声をかけると叔母が叱責した。

「ジェニファーッ! ほうっておきなさい!」

「ですが、叔母様……」

「お前は本当の家族ではないのだから、口出しはおやめ!」

「!」

その言葉に、ジェニファーの肩がピクリとする。

「酷いわ! 母さん! ジェニファーは私達の家族よ!」

「そうだよ! ジェニファーは俺達の大切な家族だ!!」

サーシャとニックが反論する。

「! 全く、この家の子供たちは何だって反抗的なのよ! それが、お腹を痛めて産んだ母親に対する態度なの!」

「だったら、少しは母親らしい態度を取ったらどうなの! ジェニファーのほうが余程私達の母親らしいわよ!」

「サーシャ……」

その言葉にジェニファーが目を見開く。

「な、何よ……皆して、口を開けばジェニファー、ジェニファーって……本当に面白くないわ!」

アンは乱暴に言い放つと、部屋を出ていってしまった。その様子を目の当たりにしたジェニファーは自分を激しく責めていた。

(どうしよう、叔母様を怒らせてしまったわ……私がもっと稼げればこんなことには……)

すると……。

「大丈夫、ジェニファーは何も悪くないわ。悪いのは全て母さんよ。働きもしないで、文句言う資格はないわ」

「うん。俺もそう思う。ジェニファーは大切な家族だよ」

サーシャとニックが声をかけてきた。

「「僕達、ジェニファーが大好きだよ」」

双子のトビーとマークが頷く。

「ありがとう、皆。私、ダンを探してくるわ。多分外に出て行ったと思うから」

それだけ告げると、ジェニファーはダンを追って外へ出た。


 外へ出ると、夜空には満天の星が輝いていた。
ブルック家は高台にあるので、夜空を隠すような建物が無いのでくっきりと見えた。

「……綺麗な夜空。あ、そんな呑気なこと言ってる場合じゃなかったわ。ダンを捜さなくちゃ!」

ジェニファーは月明りを頼りに、ダンの姿を捜し回った。

「ダーンッ! 何処なの!?」

呼びかけながら周囲を見渡すも、姿は見えない。

「まさか、町に向ったのかしら……?」

けれど、真面目なダンは夜に町へ遊びに行ったことは一度も無い。

「困ったわ……あら」

そのとき、月明かりに照らされて岩の上に背を向けて座っている人物が見えた。

「あの後ろ姿……ダンね」

そこでジェニファーは岩に近付き、声をかけた。

「ダン」

「え? ……ジェニファー? まさか夜なのに俺を捜しに来たのか?」

驚いた様子でダンが振り返る。

「ええ、そうよ」

ジェニファーも岩の上によじ登ろうとし……ダンに腕を掴まれ、引き上げられた。

「ありがとう」

隣に座ると、ダンが躊躇いがちに口を開いた。

「ジェニファー……見合いの話……どう思う?」

「どうって言われても……」

「おふくろの話で誰のことを言っているのか分かったよ。小麦を買い取ってくれている商家があるんだけど、店番をしている女性がいるんだ。いつも俺が行くと、何かに付けて話しかけてきていた。手作りクッキーを貰ったこともあるし」

「……」

ジェニファーは黙って話を聞いていた。

「好きな人はいるのかと聞かれたこともあるよ。……その時はいないって答えたけどな……何しろその女性は俺のこと、何とも思っていないのは分かってるから」

そしてジッとジェニファーを見つめる。

「……告白はしないの?」

「しない。困らせたくないから」

「そう、ダンは優しいのね」

フッとジェニファーは笑う。

「ジェニファーは……本当に好きな男はいないのか?」

「本当は……いたわ。でも、もういいの。だってその人は手が届かない人になってしまったから諦めたの。それに私にはその人を好きになる資格が無いから」

「ジェニファー……」

悲しそうな顔のジェニファーにダンはかける言葉が見つからなかった。代わりに、アカギレだらけのジェニファーの手を見る。

「どうしたの? ダン?」

「い、いや。何でもない。でも、話してスッキリしたよ。俺……見合いするよ」

ダンは岩から飛び降りた。

「え? それでいいの?」

「ああ。相手の女性のことは良く知っているし……あの大きな商家の婿になれるかもしれないからな。それに……」

そこで言葉を切るダン。

「ダン……」

「頭も冷えたことだし、家に帰るか」

「ええ、帰りましょう」

ジェニファーは笑顔で頷いた……。


****

――その後

ダンは母親のアンに言われるままに見合いをし……翌年の冬に商家の娘と結婚して家を出た。

花嫁側からの多額の援助金と引き換えに――


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