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3−22 ジェニファーの葛藤
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「え……? まだ写真が出来上がっていないんですか?」
写真屋に、ジェニファーの落胆した声が響く。
「はい、申し訳ありません」
申し訳無さそうに謝罪する店主に、ニコラスが尋ねた。
「この間写真を撮影したときには、10日後に出来上がるって言ってましたよね?」
「はい、そうです。予定では後2時間もあれば仕上げられるのですが」
「2時間……」
ジェニファーはその言葉に、焦った。
(そんな、後2時間も写真が出来るのに時間がかかるなんて……! ジェニーの具合が悪いから早く帰らないといけないのに……!)
本当は今すぐにでもジェニーの元に戻りたかった。酷い咳をしていたジェニーが気がかりでならなかったのだ。
だけど、手ぶらで帰るわけにもいかない。
何よりもジェニーは体調が悪いにもかかわらず、写真の為に自分を送り出したからだ。
(駄目だわ……! 写真を持たないとジェニーのところに戻れない……!)
ジェニファーの様子に気付いたのか、 ニコラスが声をかけてきた。
「大丈夫、ジェニー。何だか顔色が悪いけど……具合でも悪いの?」
「う、ううん。そんなこと無いわ。ただ、写真が出来上がっていないのが……」
そこでジェニファーは言葉を切った。
店主を責めるようなことを言っては、悪いと感じたからだ。その代わり、お願いすることにした。
「あの、出来るだけ急いで写真を下さい。お願いします!」
そして必死の思いで頭を下げる。
「そんな……貴族のお嬢様が私のような者に頭を下げるとは……分かりました! 出来るだけ急いで現像作業を行います。1時間後にもう一度来て頂けますか?」
「1時間後ですね。分かりました、それじゃ行こう。ジェニー」
「ええ……」
ニコラスに促され、ジェニファーは店を出た。その後ろをシドが黙ってついてくる。
「ねぇ、ジェニー。もしかして、今日は急ぎの用事でもあるの?」
写真屋を出ると、直ぐにニコラスが尋ねてきた。
「急ぎの用事っていうか……じ、実は今日は家で大人しくしているように言われていたのだけど無断で出てきてしまったから……お父様が帰るまでに家に戻りたかったの」
必死で言い訳を考えるジェニファー。
「それじゃ、ひょっとして今日は無理に家を出てきたってこと?」
「……そうなの」
嘘をついている罪悪感から、小声でジェニファーは返事をした。
「ごめん……ジェニー」
「え? どうしてニコラスが謝るの?」
「だって、僕のせいで家の人の約束を破らせてしまったから……」
申し訳なさそうに謝ってくるニコラスに慌ててジェニファーは首を振る。
「そんなことないわ! だって私もニコラスに会いたくて出てきたのだから、謝らないで」
「それ……本当の話?」
その言葉にニコラスが笑顔になる。
「勿論本当の話よ。だって、私達……友達でしょう?」
「友達……うん、そうだね。僕達、友達だもんね。それで……ジェニー。今日もあのブローチは付けていないんだね? やっぱり勿体ないと思ってるからなの?」
「え? そ、そうなの。ニコラスからの大切なプレゼントだから……無くしたらいけないでしょう? 大切に宝箱にしまってあるわ」
突然ブローチの話を持ち出され、ジェニファーは必死で言い訳をした。
「……なら、もう一つプレゼントさせてよ」
「え!? でも……それじゃ悪いわ」
「悪いこと無いよ、ジェニーは大切な友達だからプレゼントしてあげたいんだよ」
真剣な眼差しで見つめるニコラス。
「ニコラス……」
けれど、ニコラスからのプレゼントが欲しいのは事実だった。
「よし、それじゃまたアクセサリー屋さんへ行こうよ」
「え、ええ……」
ジェニファーはニコラスに手を引っ張られるようにアクセサリー屋へ向った。
影のようにひっそりと付き従うシドも一緒に――
写真屋に、ジェニファーの落胆した声が響く。
「はい、申し訳ありません」
申し訳無さそうに謝罪する店主に、ニコラスが尋ねた。
「この間写真を撮影したときには、10日後に出来上がるって言ってましたよね?」
「はい、そうです。予定では後2時間もあれば仕上げられるのですが」
「2時間……」
ジェニファーはその言葉に、焦った。
(そんな、後2時間も写真が出来るのに時間がかかるなんて……! ジェニーの具合が悪いから早く帰らないといけないのに……!)
本当は今すぐにでもジェニーの元に戻りたかった。酷い咳をしていたジェニーが気がかりでならなかったのだ。
だけど、手ぶらで帰るわけにもいかない。
何よりもジェニーは体調が悪いにもかかわらず、写真の為に自分を送り出したからだ。
(駄目だわ……! 写真を持たないとジェニーのところに戻れない……!)
ジェニファーの様子に気付いたのか、 ニコラスが声をかけてきた。
「大丈夫、ジェニー。何だか顔色が悪いけど……具合でも悪いの?」
「う、ううん。そんなこと無いわ。ただ、写真が出来上がっていないのが……」
そこでジェニファーは言葉を切った。
店主を責めるようなことを言っては、悪いと感じたからだ。その代わり、お願いすることにした。
「あの、出来るだけ急いで写真を下さい。お願いします!」
そして必死の思いで頭を下げる。
「そんな……貴族のお嬢様が私のような者に頭を下げるとは……分かりました! 出来るだけ急いで現像作業を行います。1時間後にもう一度来て頂けますか?」
「1時間後ですね。分かりました、それじゃ行こう。ジェニー」
「ええ……」
ニコラスに促され、ジェニファーは店を出た。その後ろをシドが黙ってついてくる。
「ねぇ、ジェニー。もしかして、今日は急ぎの用事でもあるの?」
写真屋を出ると、直ぐにニコラスが尋ねてきた。
「急ぎの用事っていうか……じ、実は今日は家で大人しくしているように言われていたのだけど無断で出てきてしまったから……お父様が帰るまでに家に戻りたかったの」
必死で言い訳を考えるジェニファー。
「それじゃ、ひょっとして今日は無理に家を出てきたってこと?」
「……そうなの」
嘘をついている罪悪感から、小声でジェニファーは返事をした。
「ごめん……ジェニー」
「え? どうしてニコラスが謝るの?」
「だって、僕のせいで家の人の約束を破らせてしまったから……」
申し訳なさそうに謝ってくるニコラスに慌ててジェニファーは首を振る。
「そんなことないわ! だって私もニコラスに会いたくて出てきたのだから、謝らないで」
「それ……本当の話?」
その言葉にニコラスが笑顔になる。
「勿論本当の話よ。だって、私達……友達でしょう?」
「友達……うん、そうだね。僕達、友達だもんね。それで……ジェニー。今日もあのブローチは付けていないんだね? やっぱり勿体ないと思ってるからなの?」
「え? そ、そうなの。ニコラスからの大切なプレゼントだから……無くしたらいけないでしょう? 大切に宝箱にしまってあるわ」
突然ブローチの話を持ち出され、ジェニファーは必死で言い訳をした。
「……なら、もう一つプレゼントさせてよ」
「え!? でも……それじゃ悪いわ」
「悪いこと無いよ、ジェニーは大切な友達だからプレゼントしてあげたいんだよ」
真剣な眼差しで見つめるニコラス。
「ニコラス……」
けれど、ニコラスからのプレゼントが欲しいのは事実だった。
「よし、それじゃまたアクセサリー屋さんへ行こうよ」
「え、ええ……」
ジェニファーはニコラスに手を引っ張られるようにアクセサリー屋へ向った。
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