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3−16 落胆の気持ち、そして……
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――翌日
今日も外は快晴だった。
「それじゃ、そろそろ時間だから行ってくるわね?」
外出準備を終えたジェニファーは椅子に座って自分を見つめているジェニーに声をかかた。
「ええ、ニコラスによろしくね。それと、これを持っていって。必要だから」
ジェニーがレースのついた巾着袋をジェニーに手渡してきた。巾着袋は重みを感じられる。
「これってまさか……お金なの?」
「そうよ、金貨が5枚入ってるわ」
「金貨5枚!? それって大金じゃないの!」
週に一度もらっている金貨を一度に5枚も持たされたのだから驚くのも無理はない。
けれどジェニーは首を傾げる。
「金貨5枚って、そんなに大金かしら? でも今日写真を撮るのだから、それくらいは必要になるはずよ」
「え……? 写真を撮るのって、そんなにお金がかかるの?」
この時代、まだまだ写真は珍しく貴重なもので、一部のお金持ちしか写真を撮ることが出来なかったのだ。
けれど、それすらジェニファーは知らなかった。それほど貧しい暮らしを余儀なくされていたからであった。
「そんなに高いのかしら? でも以前お父様と写真を撮ったとき、やっぱりそのくらいの金貨を支払っていたわ」
「そ、そうなのね……なら落とさないようにしっかり持っていくわ」
緊張しながらジェニファーは巾着袋を自分のショルダーバッグにしまった。何しろ、このお金でニコラスの写真を撮らなければならないのだから絶対に落とすわけにはいかない。
けれど、生まれて初めて写真を撮ることにジェニファーはワクワクする気持ちもあった。
(自分の写真を見るのって、どんな気持ちかしら……)
そんなことを考えていると、思いがけない言葉をジェニーに告げられた。
「そうそう。言い忘れていたけど、写真はニコラスだけを撮ってきてね?」
「え?」
その言葉に、ジェニファーはドキリとした。
「現像出来たら、ニコラスの写真を額に入れて飾りたいのよ。だって、とても素敵な人なのでしょう?」
頬を赤く染めて無邪気に笑うジェニー。
(え……? 撮るのはニコラスだけ……?)
自分も写真を撮れるのだと思っていただけに落胆は大きかった。
「そ、そうね。確かにニコラスは素敵な人よ。それじゃ、そろそろ行ってくるわね」
言葉に詰まりそうになりながら、ジェニファーは何とか笑顔で返事をする。
「ええ、行ってらっしゃい」
笑顔で手を振るジェニーの胸元には、昨日買ったウサギのブローチが光っていた――
****
青い空の下、帽子を被ったジェニファーは丘を降りて町を目指していた。
片道20分というのは、決して近い距離ではない。
馬車を使えば、すぐに町に行けるのだがジェニファーは居候の身。
とても馬車を出して欲しいとは言える立場では無かったのだ。
「急がなくちゃ、昨日はニコラスを待たせてしまったもの」
本当は擦りむいた膝が痛かったが、ジェニファーは我慢して急ぎ足でニコラスとの待ち合わせ場所へ向った。
「良かった……今日は私が最初だったわ」
待ち合わせ場所が見えてくると、ニコラスはまだ来ていない。
(絶対ニコラスは何処かの貴族の人に違いないわ。そんな人を待たせてしまうわけにはいかないものね)
懐中時計を見ると約束の時間までは後10分近くある。そこでジェニファーはベンチに座ろうとしたとき。
「こんにちは、お嬢さん」
不意に背後から声をかけられ、ジェニファーは振り向いた――
今日も外は快晴だった。
「それじゃ、そろそろ時間だから行ってくるわね?」
外出準備を終えたジェニファーは椅子に座って自分を見つめているジェニーに声をかかた。
「ええ、ニコラスによろしくね。それと、これを持っていって。必要だから」
ジェニーがレースのついた巾着袋をジェニーに手渡してきた。巾着袋は重みを感じられる。
「これってまさか……お金なの?」
「そうよ、金貨が5枚入ってるわ」
「金貨5枚!? それって大金じゃないの!」
週に一度もらっている金貨を一度に5枚も持たされたのだから驚くのも無理はない。
けれどジェニーは首を傾げる。
「金貨5枚って、そんなに大金かしら? でも今日写真を撮るのだから、それくらいは必要になるはずよ」
「え……? 写真を撮るのって、そんなにお金がかかるの?」
この時代、まだまだ写真は珍しく貴重なもので、一部のお金持ちしか写真を撮ることが出来なかったのだ。
けれど、それすらジェニファーは知らなかった。それほど貧しい暮らしを余儀なくされていたからであった。
「そんなに高いのかしら? でも以前お父様と写真を撮ったとき、やっぱりそのくらいの金貨を支払っていたわ」
「そ、そうなのね……なら落とさないようにしっかり持っていくわ」
緊張しながらジェニファーは巾着袋を自分のショルダーバッグにしまった。何しろ、このお金でニコラスの写真を撮らなければならないのだから絶対に落とすわけにはいかない。
けれど、生まれて初めて写真を撮ることにジェニファーはワクワクする気持ちもあった。
(自分の写真を見るのって、どんな気持ちかしら……)
そんなことを考えていると、思いがけない言葉をジェニーに告げられた。
「そうそう。言い忘れていたけど、写真はニコラスだけを撮ってきてね?」
「え?」
その言葉に、ジェニファーはドキリとした。
「現像出来たら、ニコラスの写真を額に入れて飾りたいのよ。だって、とても素敵な人なのでしょう?」
頬を赤く染めて無邪気に笑うジェニー。
(え……? 撮るのはニコラスだけ……?)
自分も写真を撮れるのだと思っていただけに落胆は大きかった。
「そ、そうね。確かにニコラスは素敵な人よ。それじゃ、そろそろ行ってくるわね」
言葉に詰まりそうになりながら、ジェニファーは何とか笑顔で返事をする。
「ええ、行ってらっしゃい」
笑顔で手を振るジェニーの胸元には、昨日買ったウサギのブローチが光っていた――
****
青い空の下、帽子を被ったジェニファーは丘を降りて町を目指していた。
片道20分というのは、決して近い距離ではない。
馬車を使えば、すぐに町に行けるのだがジェニファーは居候の身。
とても馬車を出して欲しいとは言える立場では無かったのだ。
「急がなくちゃ、昨日はニコラスを待たせてしまったもの」
本当は擦りむいた膝が痛かったが、ジェニファーは我慢して急ぎ足でニコラスとの待ち合わせ場所へ向った。
「良かった……今日は私が最初だったわ」
待ち合わせ場所が見えてくると、ニコラスはまだ来ていない。
(絶対ニコラスは何処かの貴族の人に違いないわ。そんな人を待たせてしまうわけにはいかないものね)
懐中時計を見ると約束の時間までは後10分近くある。そこでジェニファーはベンチに座ろうとしたとき。
「こんにちは、お嬢さん」
不意に背後から声をかけられ、ジェニファーは振り向いた――
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