40 / 90
3−10 お礼のお返しは
しおりを挟む
「フフフ……本当に、ここは素敵な場所だわ」
今日も雲一つ無い青空の下、ジェニファーは元気よく町へ向って丘を降りていった。
ジェニーには悪いが、ジェニファーは外出する時間をとても楽しみにしていた。
フォルクマン伯爵邸に招かれてから教会へ行くまでの間、殆ど屋敷の外へ出たことが無かったからだ。
あるとすれば、せいぜい屋敷の中庭を散策する位だった。
もともと、家にいた時も田舎の村に住んでいたいので自然が溢れていた。
ジェニファーは朝から晩まで忙しく働いていたので屋敷の中でじっとしているのは性に合わなかったのだ。
辛い家事をしなくて済んでいたことはジェニファーにとっては大きな喜びであったけれども、贅沢を言えば外出して色々な場所を訪れてみたい……。
それがジェニファーのささやかな夢だったのだ。
その夢を、こんな形で叶えてくれたジェニーに感謝の気持で一杯だった。
「今日の出来事は全て教えてあげなくちゃ」
ジェニファーは自分に言い聞かせるのだった――
****
待ち合わせ場所に行ってみると、既にニコラスの姿があった。
「お待たせ! ニコラス!」
元気よく手を振ると、ニコラスも気づいて手を振り返す。ジェニファーは駆け足で向うと、笑顔で挨拶された。
「こんにちは、ジェニファー」
「こんにちは、ニコラス。ごめんなさい、待った?」
「う~ん。待ったと言っても5分くらいだよ。今日、ジェニファーと遊べるのが嬉しくて早く出てきたんだ」
「そうなの? そう言って貰えると嬉しいわ」
実際、友達らしい友達がいなかったジェニファーにとっては嬉しい言葉だった。
「それで昨日、ジェニファーにどんなお礼をしたいか色々迷ったんだけど……良い考えが浮かばなくて。本とかはどうかな?」
「本?」
「うん、僕は本を読むのが大好きでね。今は伝記を読んでいるんだ。だからお礼に本を考えていたんだけど」
ニコラスの言葉に、ジェニファーは答えをつまらせてしまった。
簡単な文章しか読めないジェニファーは絵本ぐらいしかまだ読むことが出来ない。
今ジェニーになりきっていながら、絵本を手に取ろうものなら怪しまれてしまうかもしれない。
「いいのよ、お礼なんて。だって本当に大したことはしていないもの。救急箱だって教会から借りたものを使わせて貰っただけだし。だから気にしないで?」
「そんなわけにはいかないよ。だって、今日はお礼をするために誘ったんだから」
何としても引こうとしないニコラス。そこでジェニファーは考えた。
(そうだわ、今日はジェニーにお土産を買ってくる約束をしていたから……)
「ね、それなら買物に付き合ってくれる? それがお礼ってことでいいかしら?」
「買物? うん、いいよ。何を買いたいの?」
「あのね、ブローチを買いたいの」
ブローチを一度も買ったことが無いジェニファーは、何処で買うことが出来るのか分からなかった。
「ブローチか……なら、アクセサリー屋さんに行ってみよう。僕が知ってるお店に連れて行ってあげるよ」
「本当、ありがとう」
「こっちだよ、付いてきて!」
ニコラスは笑顔になると、ジェニファーの手を繋いできた。
「あ、あの……」
男の子と手を繋いだことのないジェニファーは戸惑う。
「アクセサリー屋さんのあるお店は分かりにくい場所にあるんだ。迷子に鳴ったら大変だろう?」
「あ……確かに迷子になったら困るわ」
「うん、そうだよ。アクセサリー屋さんはこっちだよ。行こう」
「え、ええ」
笑顔のニコラスに手を引かれて歩くジェニファーの胸の鼓動が……ほんの少しだけ高鳴るのだった――
今日も雲一つ無い青空の下、ジェニファーは元気よく町へ向って丘を降りていった。
ジェニーには悪いが、ジェニファーは外出する時間をとても楽しみにしていた。
フォルクマン伯爵邸に招かれてから教会へ行くまでの間、殆ど屋敷の外へ出たことが無かったからだ。
あるとすれば、せいぜい屋敷の中庭を散策する位だった。
もともと、家にいた時も田舎の村に住んでいたいので自然が溢れていた。
ジェニファーは朝から晩まで忙しく働いていたので屋敷の中でじっとしているのは性に合わなかったのだ。
辛い家事をしなくて済んでいたことはジェニファーにとっては大きな喜びであったけれども、贅沢を言えば外出して色々な場所を訪れてみたい……。
それがジェニファーのささやかな夢だったのだ。
その夢を、こんな形で叶えてくれたジェニーに感謝の気持で一杯だった。
「今日の出来事は全て教えてあげなくちゃ」
ジェニファーは自分に言い聞かせるのだった――
****
待ち合わせ場所に行ってみると、既にニコラスの姿があった。
「お待たせ! ニコラス!」
元気よく手を振ると、ニコラスも気づいて手を振り返す。ジェニファーは駆け足で向うと、笑顔で挨拶された。
「こんにちは、ジェニファー」
「こんにちは、ニコラス。ごめんなさい、待った?」
「う~ん。待ったと言っても5分くらいだよ。今日、ジェニファーと遊べるのが嬉しくて早く出てきたんだ」
「そうなの? そう言って貰えると嬉しいわ」
実際、友達らしい友達がいなかったジェニファーにとっては嬉しい言葉だった。
「それで昨日、ジェニファーにどんなお礼をしたいか色々迷ったんだけど……良い考えが浮かばなくて。本とかはどうかな?」
「本?」
「うん、僕は本を読むのが大好きでね。今は伝記を読んでいるんだ。だからお礼に本を考えていたんだけど」
ニコラスの言葉に、ジェニファーは答えをつまらせてしまった。
簡単な文章しか読めないジェニファーは絵本ぐらいしかまだ読むことが出来ない。
今ジェニーになりきっていながら、絵本を手に取ろうものなら怪しまれてしまうかもしれない。
「いいのよ、お礼なんて。だって本当に大したことはしていないもの。救急箱だって教会から借りたものを使わせて貰っただけだし。だから気にしないで?」
「そんなわけにはいかないよ。だって、今日はお礼をするために誘ったんだから」
何としても引こうとしないニコラス。そこでジェニファーは考えた。
(そうだわ、今日はジェニーにお土産を買ってくる約束をしていたから……)
「ね、それなら買物に付き合ってくれる? それがお礼ってことでいいかしら?」
「買物? うん、いいよ。何を買いたいの?」
「あのね、ブローチを買いたいの」
ブローチを一度も買ったことが無いジェニファーは、何処で買うことが出来るのか分からなかった。
「ブローチか……なら、アクセサリー屋さんに行ってみよう。僕が知ってるお店に連れて行ってあげるよ」
「本当、ありがとう」
「こっちだよ、付いてきて!」
ニコラスは笑顔になると、ジェニファーの手を繋いできた。
「あ、あの……」
男の子と手を繋いだことのないジェニファーは戸惑う。
「アクセサリー屋さんのあるお店は分かりにくい場所にあるんだ。迷子に鳴ったら大変だろう?」
「あ……確かに迷子になったら困るわ」
「うん、そうだよ。アクセサリー屋さんはこっちだよ。行こう」
「え、ええ」
笑顔のニコラスに手を引かれて歩くジェニファーの胸の鼓動が……ほんの少しだけ高鳴るのだった――
154
お気に入りに追加
1,534
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】婚約相手は私を愛してくれてはいますが病弱の幼馴染を大事にするので、私も婚約者のことを改めて考えてみることにします
よどら文鳥
恋愛
私とバズドド様は政略結婚へ向けての婚約関係でありながら、恋愛結婚だとも思っています。それほどに愛し合っているのです。
このことは私たちが通う学園でも有名な話ではありますが、私に応援と同情をいただいてしまいます。この婚約を良く思ってはいないのでしょう。
ですが、バズドド様の幼馴染が遠くの地から王都へ帰ってきてからというもの、私たちの恋仲関係も変化してきました。
ある日、馬車内での出来事をきっかけに、私は本当にバズドド様のことを愛しているのか真剣に考えることになります。
その結果、私の考え方が大きく変わることになりました。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる