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3−10 お礼のお返しは
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「フフフ……本当に、ここは素敵な場所だわ」
今日も雲一つ無い青空の下、ジェニファーは元気よく町へ向って丘を降りていった。
ジェニーには悪いが、ジェニファーは外出する時間をとても楽しみにしていた。
フォルクマン伯爵邸に招かれてから教会へ行くまでの間、殆ど屋敷の外へ出たことが無かったからだ。
あるとすれば、せいぜい屋敷の中庭を散策する位だった。
もともと、家にいた時も田舎の村に住んでいたいので自然が溢れていた。
ジェニファーは朝から晩まで忙しく働いていたので屋敷の中でじっとしているのは性に合わなかったのだ。
辛い家事をしなくて済んでいたことはジェニファーにとっては大きな喜びであったけれども、贅沢を言えば外出して色々な場所を訪れてみたい……。
それがジェニファーのささやかな夢だったのだ。
その夢を、こんな形で叶えてくれたジェニーに感謝の気持で一杯だった。
「今日の出来事は全て教えてあげなくちゃ」
ジェニファーは自分に言い聞かせるのだった――
****
待ち合わせ場所に行ってみると、既にニコラスの姿があった。
「お待たせ! ニコラス!」
元気よく手を振ると、ニコラスも気づいて手を振り返す。ジェニファーは駆け足で向うと、笑顔で挨拶された。
「こんにちは、ジェニファー」
「こんにちは、ニコラス。ごめんなさい、待った?」
「う~ん。待ったと言っても5分くらいだよ。今日、ジェニファーと遊べるのが嬉しくて早く出てきたんだ」
「そうなの? そう言って貰えると嬉しいわ」
実際、友達らしい友達がいなかったジェニファーにとっては嬉しい言葉だった。
「それで昨日、ジェニファーにどんなお礼をしたいか色々迷ったんだけど……良い考えが浮かばなくて。本とかはどうかな?」
「本?」
「うん、僕は本を読むのが大好きでね。今は伝記を読んでいるんだ。だからお礼に本を考えていたんだけど」
ニコラスの言葉に、ジェニファーは答えをつまらせてしまった。
簡単な文章しか読めないジェニファーは絵本ぐらいしかまだ読むことが出来ない。
今ジェニーになりきっていながら、絵本を手に取ろうものなら怪しまれてしまうかもしれない。
「いいのよ、お礼なんて。だって本当に大したことはしていないもの。救急箱だって教会から借りたものを使わせて貰っただけだし。だから気にしないで?」
「そんなわけにはいかないよ。だって、今日はお礼をするために誘ったんだから」
何としても引こうとしないニコラス。そこでジェニファーは考えた。
(そうだわ、今日はジェニーにお土産を買ってくる約束をしていたから……)
「ね、それなら買物に付き合ってくれる? それがお礼ってことでいいかしら?」
「買物? うん、いいよ。何を買いたいの?」
「あのね、ブローチを買いたいの」
ブローチを一度も買ったことが無いジェニファーは、何処で買うことが出来るのか分からなかった。
「ブローチか……なら、アクセサリー屋さんに行ってみよう。僕が知ってるお店に連れて行ってあげるよ」
「本当、ありがとう」
「こっちだよ、付いてきて!」
ニコラスは笑顔になると、ジェニファーの手を繋いできた。
「あ、あの……」
男の子と手を繋いだことのないジェニファーは戸惑う。
「アクセサリー屋さんのあるお店は分かりにくい場所にあるんだ。迷子に鳴ったら大変だろう?」
「あ……確かに迷子になったら困るわ」
「うん、そうだよ。アクセサリー屋さんはこっちだよ。行こう」
「え、ええ」
笑顔のニコラスに手を引かれて歩くジェニファーの胸の鼓動が……ほんの少しだけ高鳴るのだった――
今日も雲一つ無い青空の下、ジェニファーは元気よく町へ向って丘を降りていった。
ジェニーには悪いが、ジェニファーは外出する時間をとても楽しみにしていた。
フォルクマン伯爵邸に招かれてから教会へ行くまでの間、殆ど屋敷の外へ出たことが無かったからだ。
あるとすれば、せいぜい屋敷の中庭を散策する位だった。
もともと、家にいた時も田舎の村に住んでいたいので自然が溢れていた。
ジェニファーは朝から晩まで忙しく働いていたので屋敷の中でじっとしているのは性に合わなかったのだ。
辛い家事をしなくて済んでいたことはジェニファーにとっては大きな喜びであったけれども、贅沢を言えば外出して色々な場所を訪れてみたい……。
それがジェニファーのささやかな夢だったのだ。
その夢を、こんな形で叶えてくれたジェニーに感謝の気持で一杯だった。
「今日の出来事は全て教えてあげなくちゃ」
ジェニファーは自分に言い聞かせるのだった――
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待ち合わせ場所に行ってみると、既にニコラスの姿があった。
「お待たせ! ニコラス!」
元気よく手を振ると、ニコラスも気づいて手を振り返す。ジェニファーは駆け足で向うと、笑顔で挨拶された。
「こんにちは、ジェニファー」
「こんにちは、ニコラス。ごめんなさい、待った?」
「う~ん。待ったと言っても5分くらいだよ。今日、ジェニファーと遊べるのが嬉しくて早く出てきたんだ」
「そうなの? そう言って貰えると嬉しいわ」
実際、友達らしい友達がいなかったジェニファーにとっては嬉しい言葉だった。
「それで昨日、ジェニファーにどんなお礼をしたいか色々迷ったんだけど……良い考えが浮かばなくて。本とかはどうかな?」
「本?」
「うん、僕は本を読むのが大好きでね。今は伝記を読んでいるんだ。だからお礼に本を考えていたんだけど」
ニコラスの言葉に、ジェニファーは答えをつまらせてしまった。
簡単な文章しか読めないジェニファーは絵本ぐらいしかまだ読むことが出来ない。
今ジェニーになりきっていながら、絵本を手に取ろうものなら怪しまれてしまうかもしれない。
「いいのよ、お礼なんて。だって本当に大したことはしていないもの。救急箱だって教会から借りたものを使わせて貰っただけだし。だから気にしないで?」
「そんなわけにはいかないよ。だって、今日はお礼をするために誘ったんだから」
何としても引こうとしないニコラス。そこでジェニファーは考えた。
(そうだわ、今日はジェニーにお土産を買ってくる約束をしていたから……)
「ね、それなら買物に付き合ってくれる? それがお礼ってことでいいかしら?」
「買物? うん、いいよ。何を買いたいの?」
「あのね、ブローチを買いたいの」
ブローチを一度も買ったことが無いジェニファーは、何処で買うことが出来るのか分からなかった。
「ブローチか……なら、アクセサリー屋さんに行ってみよう。僕が知ってるお店に連れて行ってあげるよ」
「本当、ありがとう」
「こっちだよ、付いてきて!」
ニコラスは笑顔になると、ジェニファーの手を繋いできた。
「あ、あの……」
男の子と手を繋いだことのないジェニファーは戸惑う。
「アクセサリー屋さんのあるお店は分かりにくい場所にあるんだ。迷子に鳴ったら大変だろう?」
「あ……確かに迷子になったら困るわ」
「うん、そうだよ。アクセサリー屋さんはこっちだよ。行こう」
「え、ええ」
笑顔のニコラスに手を引かれて歩くジェニファーの胸の鼓動が……ほんの少しだけ高鳴るのだった――
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