上 下
40 / 195

3−10 お礼のお返しは

しおりを挟む
「フフフ……本当に、ここは素敵な場所だわ」

今日も雲一つ無い青空の下、ジェニファーは元気よく町へ向って丘を降りていった。
ジェニーには悪いが、ジェニファーは外出する時間をとても楽しみにしていた。
フォルクマン伯爵邸に招かれてから教会へ行くまでの間、殆ど屋敷の外へ出たことが無かったからだ。
あるとすれば、せいぜい屋敷の中庭を散策する位だった。

もともと、家にいた時も田舎の村に住んでいたいので自然が溢れていた。
ジェニファーは朝から晩まで忙しく働いていたので屋敷の中でじっとしているのは性に合わなかったのだ。

辛い家事をしなくて済んでいたことはジェニファーにとっては大きな喜びであったけれども、贅沢を言えば外出して色々な場所を訪れてみたい……。
それがジェニファーのささやかな夢だったのだ。

その夢を、こんな形で叶えてくれたジェニーに感謝の気持で一杯だった。

「今日の出来事は全て教えてあげなくちゃ」

ジェニファーは自分に言い聞かせるのだった――


****


 待ち合わせ場所に行ってみると、既にニコラスの姿があった。

「お待たせ! ニコラス!」

元気よく手を振ると、ニコラスも気づいて手を振り返す。ジェニファーは駆け足で向うと、笑顔で挨拶された。

「こんにちは、ジェニファー」

「こんにちは、ニコラス。ごめんなさい、待った?」

「う~ん。待ったと言っても5分くらいだよ。今日、ジェニファーと遊べるのが嬉しくて早く出てきたんだ」

「そうなの? そう言って貰えると嬉しいわ」

実際、友達らしい友達がいなかったジェニファーにとっては嬉しい言葉だった。

「それで昨日、ジェニファーにどんなお礼をしたいか色々迷ったんだけど……良い考えが浮かばなくて。本とかはどうかな?」

「本?」

「うん、僕は本を読むのが大好きでね。今は伝記を読んでいるんだ。だからお礼に本を考えていたんだけど」

ニコラスの言葉に、ジェニファーは答えをつまらせてしまった。
簡単な文章しか読めないジェニファーは絵本ぐらいしかまだ読むことが出来ない。
今ジェニーになりきっていながら、絵本を手に取ろうものなら怪しまれてしまうかもしれない。

「いいのよ、お礼なんて。だって本当に大したことはしていないもの。救急箱だって教会から借りたものを使わせて貰っただけだし。だから気にしないで?」

「そんなわけにはいかないよ。だって、今日はお礼をするために誘ったんだから」

何としても引こうとしないニコラス。そこでジェニファーは考えた。

(そうだわ、今日はジェニーにお土産を買ってくる約束をしていたから……)

「ね、それなら買物に付き合ってくれる? それがお礼ってことでいいかしら?」

「買物? うん、いいよ。何を買いたいの?」

「あのね、ブローチを買いたいの」

ブローチを一度も買ったことが無いジェニファーは、何処で買うことが出来るのか分からなかった。

「ブローチか……なら、アクセサリー屋さんに行ってみよう。僕が知ってるお店に連れて行ってあげるよ」

「本当、ありがとう」

「こっちだよ、付いてきて!」

ニコラスは笑顔になると、ジェニファーの手を繋いできた。

「あ、あの……」

男の子と手を繋いだことのないジェニファーは戸惑う。

「アクセサリー屋さんのあるお店は分かりにくい場所にあるんだ。迷子に鳴ったら大変だろう?」

「あ……確かに迷子になったら困るわ」

「うん、そうだよ。アクセサリー屋さんはこっちだよ。行こう」

「え、ええ」

笑顔のニコラスに手を引かれて歩くジェニファーの胸の鼓動が……ほんの少しだけ高鳴るのだった――
しおりを挟む
感想 454

あなたにおすすめの小説

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

貴方の事を愛していました

ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。 家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。 彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。 毎週のお茶会も 誕生日以外のプレゼントも 成人してからのパーティーのエスコートも 私をとても大切にしてくれている。 ーーけれど。 大切だからといって、愛しているとは限らない。 いつからだろう。 彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。 誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。 このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。 ーーけれど、本当にそれでいいの? だから私は決めたのだ。 「貴方の事を愛してました」 貴方を忘れる事を。

処理中です...