31 / 90
3−1 出発
しおりを挟む
――翌日
昼食を一緒に食べた後、2人の少女はジェニーの部屋で話をしていた。
「これが教会に持って行って欲しいお菓子よ」
ジェニーは紙袋に入った花模様が描かれた美しい缶を取り出し、蓋を開けた。
「まぁ、とても美味しそうなクッキーね」
缶の中には、丸いジャムクッキーが並べられていた。
「ええ、お父様が買ってきてくれたの。私は以前に食べたことがあるから、教会の子どもたちと一緒にジェニファーも食べてね?」
ニコニコしながらジェニーは缶の蓋を閉めると紙袋に戻した。
「私まで貰っていいのかしら?」
「もちろんよ。だってジェニファーだけ食べないのは変でしょう?」
「分かったわ。それでどう? この格好」
今日のジェニファーはいつもよりも、良い服を着ていた。何しろジェニーの身代わりとなって教会に行くのだから、それなりの身なりで出掛けなければならない。
「素敵よ、よく似合っているわ。教会の人たちは一度しか会っていないから、誰もあなたを見ても、別人だとは思わないはずよ」
「本当? なら自信が湧いてきたわ」
もしバレたらどうしようと不安に思っていただけに、ジェニーの言葉は心強かった。
「ジェニファー、もう教会の場所は覚えたかしら?」
「ええ、大丈夫よ。だって、このお屋敷は丘の上にあるから教会の屋根が見えるもの。それに実は今朝一度教会に下見に行ってるのよ」
朝が早いジェニファーは他の使用人たちが起き出す前に、こっそり屋敷を抜け出して教会まで行ってきたのだった。
「え!? そうだったの!?」
これにはジェニーも驚いた。
「だいたい片道歩いて20分位で行けたわ」
「すごい……歩いて20分で行けるなんて。私は無理ね。歩いて行ける自信もないわ」
その様子は少し寂しげだった。
「大丈夫よ。丈夫になれば、きっとジェニーも歩いて色々な場所へ行けるようになるはずだから」
「そうね……頑張って丈夫にならないとね」
その時。
ボーン
ボーン
ボーン
午後1時を告げる鐘の音が部屋に響き渡った。
「それじゃ、そろそろ行ってくるわね」
ボンネットを被り、ポシェットを肩から下げたジェニファーは紙袋を手にした。
「あ、ちょっと待ってジェニファー」
部屋を出ようとすると、ジェニーが呼び止める。
「どうしたの?」
「あのね、お願いがあるの。絶対に屋敷の人たちには教会へ行くことは言わないでくれる?」
「もちろんよ。だってもし言ったら、教会へ行ったのはジェニーじゃないことがバレてしまうものね?」
「ええ、そうなの」
「もし誰かに聞かれたら散歩に行ってくると話しておくわ。それじゃ行ってくるわね」
ジェニファーは元気よく手を振ると、ジェニーの部屋を後にした。
****
屋敷の外に出ると、ジェニファーは空を見上げた。
「今日も素晴らしい青空ね。空気もおいしいし、遠くに見える山も緑の草原も何もかも素敵。……ダンとサーシャにも見せてあげたいわ……2人とも、元気にしているかしら」
ジェニファーがここへ連れてこられて、早いもので半月が経過していた。
何度も2人に手紙を書こうと思ったが、叔母にとり上げられてしまうのではないかと思うと書けずにいたのだ。
「さて、それじゃ行きましょう」
気を取り直したジェニファーは、教会へ向かって元気よく歩きだすのだった――
昼食を一緒に食べた後、2人の少女はジェニーの部屋で話をしていた。
「これが教会に持って行って欲しいお菓子よ」
ジェニーは紙袋に入った花模様が描かれた美しい缶を取り出し、蓋を開けた。
「まぁ、とても美味しそうなクッキーね」
缶の中には、丸いジャムクッキーが並べられていた。
「ええ、お父様が買ってきてくれたの。私は以前に食べたことがあるから、教会の子どもたちと一緒にジェニファーも食べてね?」
ニコニコしながらジェニーは缶の蓋を閉めると紙袋に戻した。
「私まで貰っていいのかしら?」
「もちろんよ。だってジェニファーだけ食べないのは変でしょう?」
「分かったわ。それでどう? この格好」
今日のジェニファーはいつもよりも、良い服を着ていた。何しろジェニーの身代わりとなって教会に行くのだから、それなりの身なりで出掛けなければならない。
「素敵よ、よく似合っているわ。教会の人たちは一度しか会っていないから、誰もあなたを見ても、別人だとは思わないはずよ」
「本当? なら自信が湧いてきたわ」
もしバレたらどうしようと不安に思っていただけに、ジェニーの言葉は心強かった。
「ジェニファー、もう教会の場所は覚えたかしら?」
「ええ、大丈夫よ。だって、このお屋敷は丘の上にあるから教会の屋根が見えるもの。それに実は今朝一度教会に下見に行ってるのよ」
朝が早いジェニファーは他の使用人たちが起き出す前に、こっそり屋敷を抜け出して教会まで行ってきたのだった。
「え!? そうだったの!?」
これにはジェニーも驚いた。
「だいたい片道歩いて20分位で行けたわ」
「すごい……歩いて20分で行けるなんて。私は無理ね。歩いて行ける自信もないわ」
その様子は少し寂しげだった。
「大丈夫よ。丈夫になれば、きっとジェニーも歩いて色々な場所へ行けるようになるはずだから」
「そうね……頑張って丈夫にならないとね」
その時。
ボーン
ボーン
ボーン
午後1時を告げる鐘の音が部屋に響き渡った。
「それじゃ、そろそろ行ってくるわね」
ボンネットを被り、ポシェットを肩から下げたジェニファーは紙袋を手にした。
「あ、ちょっと待ってジェニファー」
部屋を出ようとすると、ジェニーが呼び止める。
「どうしたの?」
「あのね、お願いがあるの。絶対に屋敷の人たちには教会へ行くことは言わないでくれる?」
「もちろんよ。だってもし言ったら、教会へ行ったのはジェニーじゃないことがバレてしまうものね?」
「ええ、そうなの」
「もし誰かに聞かれたら散歩に行ってくると話しておくわ。それじゃ行ってくるわね」
ジェニファーは元気よく手を振ると、ジェニーの部屋を後にした。
****
屋敷の外に出ると、ジェニファーは空を見上げた。
「今日も素晴らしい青空ね。空気もおいしいし、遠くに見える山も緑の草原も何もかも素敵。……ダンとサーシャにも見せてあげたいわ……2人とも、元気にしているかしら」
ジェニファーがここへ連れてこられて、早いもので半月が経過していた。
何度も2人に手紙を書こうと思ったが、叔母にとり上げられてしまうのではないかと思うと書けずにいたのだ。
「さて、それじゃ行きましょう」
気を取り直したジェニファーは、教会へ向かって元気よく歩きだすのだった――
135
お気に入りに追加
1,534
あなたにおすすめの小説
転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!
akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。
そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。
※コメディ寄りです。
〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
あめふりバス停の優しい傘
朱宮あめ
青春
雨のバス停。
蛙の鳴き声と、
雨音の中、
私たちは出会った。
――ねぇ、『同盟』組まない?
〝傘〟を持たない私たちは、
いつも〝ずぶ濡れ〟。
私はあなたの〝傘〟になりたい――。
【あらすじ】
自身の生い立ちが原因で周囲と距離を置く高校一年生のしずくは、六月のバス停で同じ制服の女生徒に出会う。
しずくにまったく興味を示さない女生徒は、
いつも空き教室から遠くを眺めている不思議なひと。
彼女は、
『雪女センパイ』と噂される三年生だった。
ひとりぼっち同士のふたりは
『同盟』を組み、
友達でも、家族でも恋人でもない、
奇妙で特別な、
唯一無二の存在となってゆく。
虹ノ像
おくむらなをし
歴史・時代
明治中期、商家の娘トモと、大火で住処を失ったハルは出逢う。
おっちょこちょいなハルと、どこか冷めているトモは、次第に心を通わせていく。
ふたりの大切なひとときのお話。
◇この物語はフィクションです。全21話、完結済み。
◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。
アルファポリスでホクホク計画~実録・投稿インセンティブで稼ぐ☆ 初書籍発売中 ☆第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞(22年12月16205)
天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
~ これは、投稿インセンティブを稼ぎながら10万文字かける人を目指す戦いの記録である ~
アルファポリスでお小遣いを稼ぐと決めた私がやったこと、感じたことを綴ったエッセイ
文章を書いているんだから、自分の文章で稼いだお金で本が買いたい。
投稿インセンティブを稼ぎたい。
ついでに長編書ける人になりたい。
10万文字が目安なのは分かるけど、なかなか10万文字が書けない。
そんな私がアルファポリスでやったこと、感じたことを綴ったエッセイです。
。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。.
初書籍「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」が、レジーナブックスさまより発売中です。
月戸先生による可愛く美しいイラストと共にお楽しみいただけます。
清楚系イケオジ辺境伯アレクサンドロ(笑)と、頑張り屋さんの悪役令嬢(?)クラウディアの物語。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。.
傷物にされた私は幸せを掴む
コトミ
恋愛
エミリア・フィナリーは子爵家の二人姉妹の姉で、妹のために我慢していた。両親は真面目でおとなしいエミリアよりも、明るくて可愛い双子の妹である次女のミアを溺愛していた。そんな中でもエミリアは長女のために子爵家の婿取りをしなくてはいけなかったために、同じく子爵家の次男との婚約が決まっていた。その子爵家の次男はルイと言い、エミリアにはとても優しくしていた。顔も良くて、エミリアは少し自慢に思っていた。エミリアが十七になり、結婚も近くなってきた冬の日に事件が起き、大きな傷を負う事になる。
(ここまで読んでいただきありがとうございます。妹ざまあ、展開です。本編も読んでいただけると嬉しいです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる