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2−11 抱き合う少女たち
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自室に戻ったジェニファーは、すっかり落ち込んでいた。
出窓の上に座り、膝を抱えて頭を埋め込んでため息をついている。
(どうしよう……ジェニーが花粉で喘息発作を起こすなんて知らなかったわ。私のせいでまた具合が悪くなってしまったらどうしよう。こんなに色々してもらっているのに迷惑かけてしまうなんて……!)
きっと、ジェニーに嫌われてしまったに違いない。ブルック家に送り返されることにジェニファーは覚悟を決めるのだった――
カチコチカチコチ……
あれから、どのくらいの時が過ぎただろう。ジェニファーはゆっくり顔を上げると、時刻は10時になろうとしていた。
「そうだわ……荷造の準備でもしましょう。きっと今日出ていくことになるに決まっているものね」
窓から降りると、ジェニファーは自分のトランクケースを引っ張り出してきた。
室内のクローゼットにはフォルクマン伯爵から買ってもらったドレスや靴が沢山入っている。
でもいくら買ってもらったからと言っても、これらはジェニファーの物ではない。
ブルック家から持参した物だけがジェニファーの持ち物なのだ。
古びた衣類をトランクケースにしまっている最中、ノック音と共に伯爵の声が聞こえてきた。
『ジェニファー。私だ、入ってもいいかい?』
「は、はい! どうぞ!」
いよいよ、自分は追い返されるのだろうと思ったジェニファーは緊張しながら返事をした。
「失礼するよ」
扉が開かれ、伯爵が現れた。
「ジェニファー、話があるのだが……ところで、一体何をしているんだい?」
床に置かれたトランクケースに、衣類が入れられている様子を見た伯爵が尋ねてきた。
「あの、帰り支度をしていました……」
きっとジェニーのことで怒られるに違いない。そう思ったジェニファーは俯きながら返事をした。
「帰る? 一体何故?」
驚いた様子で伯爵は尋ねた。
「それは、私がジェニーを……」
「そうだ、ジェニーのことで話があってきたんだよ」
「ジェニーの?」
その言葉に、ジェニファーはドキリとした。
(きっと、ジェニーは怒っているのだわ)
しかし、伯爵の口からは思いがけない言葉が出てきた。
「ジェニーがジェニファーに謝りたいと言ってるのだよ。一緒に部屋まで来てもらえないか?」
「え? 私に……?」
その言葉に耳を疑ってしまった。
「ジェニーは私のことを怒っていないのですか?」
「いや、怒る? 何故だい」
「それは……」
再び俯くジェニファーに伯爵は声をかけた。
「まぁ、いい。さ、ジェニーのもとへ一緒に行こう。ジェニファー」
「はい」
ジェニファーは顔を上げて、頷いた――
****
「ジェニファー!」
部屋につくやいなや、ジェニーが駆け寄りジェニファーを強く抱きしめてきた。
「ジェニー?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。ジェニファー。私の為にお花を摘んできてくれたのに、あんな態度を取ってしまって……お願い。許して、どこにも行かないで。ずっとここに居て欲しいの……」
肩を震わせるジェニーの声は涙声だった。
「まさか、ジェニー泣いてるの?」
ジャニファーはジェニーの髪を撫でた。
「だ、だって……ジェニファーが居なくなってしまったら、私また一人ぼっちになってしまうんだもの……」
顔を上げたジェニーは涙を流していた。
「大丈夫、どこにも行かないわ。ずっとジェニーのそばにいるから。それより私こそごめんなさい。まさかお花で喘息が出るなんて思わなかったの。……許してくれる?」
「もちろんよ。だって、そんなこと教えていないのだもの。知らなくて当然だわ」
そして2人の少女は互いに笑い合うと、再びしっかり抱きしめあった。
その様子を、フォルトマン伯爵は嬉しそうに見つめるのだった――
出窓の上に座り、膝を抱えて頭を埋め込んでため息をついている。
(どうしよう……ジェニーが花粉で喘息発作を起こすなんて知らなかったわ。私のせいでまた具合が悪くなってしまったらどうしよう。こんなに色々してもらっているのに迷惑かけてしまうなんて……!)
きっと、ジェニーに嫌われてしまったに違いない。ブルック家に送り返されることにジェニファーは覚悟を決めるのだった――
カチコチカチコチ……
あれから、どのくらいの時が過ぎただろう。ジェニファーはゆっくり顔を上げると、時刻は10時になろうとしていた。
「そうだわ……荷造の準備でもしましょう。きっと今日出ていくことになるに決まっているものね」
窓から降りると、ジェニファーは自分のトランクケースを引っ張り出してきた。
室内のクローゼットにはフォルクマン伯爵から買ってもらったドレスや靴が沢山入っている。
でもいくら買ってもらったからと言っても、これらはジェニファーの物ではない。
ブルック家から持参した物だけがジェニファーの持ち物なのだ。
古びた衣類をトランクケースにしまっている最中、ノック音と共に伯爵の声が聞こえてきた。
『ジェニファー。私だ、入ってもいいかい?』
「は、はい! どうぞ!」
いよいよ、自分は追い返されるのだろうと思ったジェニファーは緊張しながら返事をした。
「失礼するよ」
扉が開かれ、伯爵が現れた。
「ジェニファー、話があるのだが……ところで、一体何をしているんだい?」
床に置かれたトランクケースに、衣類が入れられている様子を見た伯爵が尋ねてきた。
「あの、帰り支度をしていました……」
きっとジェニーのことで怒られるに違いない。そう思ったジェニファーは俯きながら返事をした。
「帰る? 一体何故?」
驚いた様子で伯爵は尋ねた。
「それは、私がジェニーを……」
「そうだ、ジェニーのことで話があってきたんだよ」
「ジェニーの?」
その言葉に、ジェニファーはドキリとした。
(きっと、ジェニーは怒っているのだわ)
しかし、伯爵の口からは思いがけない言葉が出てきた。
「ジェニーがジェニファーに謝りたいと言ってるのだよ。一緒に部屋まで来てもらえないか?」
「え? 私に……?」
その言葉に耳を疑ってしまった。
「ジェニーは私のことを怒っていないのですか?」
「いや、怒る? 何故だい」
「それは……」
再び俯くジェニファーに伯爵は声をかけた。
「まぁ、いい。さ、ジェニーのもとへ一緒に行こう。ジェニファー」
「はい」
ジェニファーは顔を上げて、頷いた――
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「ジェニファー!」
部屋につくやいなや、ジェニーが駆け寄りジェニファーを強く抱きしめてきた。
「ジェニー?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。ジェニファー。私の為にお花を摘んできてくれたのに、あんな態度を取ってしまって……お願い。許して、どこにも行かないで。ずっとここに居て欲しいの……」
肩を震わせるジェニーの声は涙声だった。
「まさか、ジェニー泣いてるの?」
ジャニファーはジェニーの髪を撫でた。
「だ、だって……ジェニファーが居なくなってしまったら、私また一人ぼっちになってしまうんだもの……」
顔を上げたジェニーは涙を流していた。
「大丈夫、どこにも行かないわ。ずっとジェニーのそばにいるから。それより私こそごめんなさい。まさかお花で喘息が出るなんて思わなかったの。……許してくれる?」
「もちろんよ。だって、そんなこと教えていないのだもの。知らなくて当然だわ」
そして2人の少女は互いに笑い合うと、再びしっかり抱きしめあった。
その様子を、フォルトマン伯爵は嬉しそうに見つめるのだった――
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