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1−9 叔母の命令
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――騒がしい夕食後
ジェニファーはアンの部屋に呼び出されていた。
「叔母様。何の御用でしょうか?」
「ほら、手紙を返してあげるわ」
アンはジェニファーに手紙を差し出した。
「ありがとうございます!」
まさか手紙を返してもらえると思わなかったので喜んで手紙を受取り、部屋を出ようとした矢先。
「待ちなさい、ジェニファー。一体何処へ行くつもりなの?」
「え? あの……部屋で手紙を読もうかと……」
「手紙なら今ここで読みなさい。その後、私の言う通りに伯爵に手紙を書くのよ」
「今、ここでですか?」
部屋でゆっくり手紙を読みたかったのに、まさかここで読むように言われるとは思いもしなかった。
しかも、手紙の返事を叔母の言う通りに書けとは。あまりに理不尽な話だった。
けれどまだ子供のジェニファーは逆らえるはずも無い。
「分かりました……」
「なら、ここにお座り」
夫人に言われるままに椅子に座ると、早速ジェニファーは手紙を読み始めた。
『ジェニファー。元気にしているかい? 私のことを覚えているだろうか……』
手紙の内容によるとジェニファーと同い年のセオドアの娘が病気で療養中の為、何処にも出ることが出来ずに寂しい思いをさせているので、話し相手として屋敷に来てくれないだろうかという内容の手紙だった。
もし、承諾してくれるなら迎えの者を寄越すとも書かれていた。
(そうだったわ、確か伯爵様には私と同じ年の女の子がいたわ。小さい頃一緒に遊んだことがあったっけ……)
「ジェニファー」
不意にアンに声をかけられ、我に返った。
「はい、叔母様」
顔を上げるとアンは向かい側の席に座り、ジェニファーをじっと見つめている。
「あなた、どうして伯爵家と親戚だったことを黙っていたの? 大体、あなたの父親の兄とはどういうことかしら?」
腕組みをしたアンは冷たい視線を向けてくる。
「あの……お父様に聞いたのですが、まだ子供だった頃に子供に恵まれなかった伯爵家にお兄様が養子に貰われていったそうです」
「お兄様が貰われていったの? 長男だったのに?」
(何故、逆じゃなかったのかしら! だとしたら、私は今頃伯爵家と親戚関係だったかもしれないのに!)
アンは自分があまりにも身勝手な考えを持っていることに気づいていない。
「お父様とお兄様は双子で、お兄様の方が伯爵家の方々に良く懐いていたそうです。それで、貰われていった……と聞いています……」
ジェニファーは何とか思い出しながら、説明した。
「フン、そうだったの。それじゃお葬式には来ていたのかしら?」
「はい、いらっしゃいました。私、会っていますから」
「あら、そう。私には挨拶をしなかったのね。……弟の妹だって言うのに」
自分に挨拶をしなかったのが、アンは気に入らなかった。
その言葉に何も言えず、ジェニファーが俯く。
「まぁ、いいわ。今からこのメモどおりに手紙を書くのよ」
メモを手渡されたジェニファーは目を通し……驚いた。
その文面には、伯爵家に行っている間の手当として金銭を要求する内容が記載されていたのだ。
しかも相当な金額で、ブルック家の生活費1年分に相当する。
「叔母様! こんな金額を要求するなんて、いやです!」
これからお世話になる身なのに、お金まで要求するような図々しい娘だとは思われたくなかった。
「おだまり!! こっちは先方の我儘であなたを差し出すのよ! その間、誰が家事をすると思っているの? 金銭を要求するのは当然の権利なのよ! ここを追い出されたくなければ言う通りにしなさい!」
ここを追い出されれば、ジェニファーは行き場を無くしてしまう。まだ子供のジェニファーには叔母にそのような権利が無いことを知るはずもなかった。
「わ、分かりました。叔母様……」
ジェニファーは震える手でペンを取り……叔母に言われた通りに嫌々手紙を書くのだった――
ジェニファーはアンの部屋に呼び出されていた。
「叔母様。何の御用でしょうか?」
「ほら、手紙を返してあげるわ」
アンはジェニファーに手紙を差し出した。
「ありがとうございます!」
まさか手紙を返してもらえると思わなかったので喜んで手紙を受取り、部屋を出ようとした矢先。
「待ちなさい、ジェニファー。一体何処へ行くつもりなの?」
「え? あの……部屋で手紙を読もうかと……」
「手紙なら今ここで読みなさい。その後、私の言う通りに伯爵に手紙を書くのよ」
「今、ここでですか?」
部屋でゆっくり手紙を読みたかったのに、まさかここで読むように言われるとは思いもしなかった。
しかも、手紙の返事を叔母の言う通りに書けとは。あまりに理不尽な話だった。
けれどまだ子供のジェニファーは逆らえるはずも無い。
「分かりました……」
「なら、ここにお座り」
夫人に言われるままに椅子に座ると、早速ジェニファーは手紙を読み始めた。
『ジェニファー。元気にしているかい? 私のことを覚えているだろうか……』
手紙の内容によるとジェニファーと同い年のセオドアの娘が病気で療養中の為、何処にも出ることが出来ずに寂しい思いをさせているので、話し相手として屋敷に来てくれないだろうかという内容の手紙だった。
もし、承諾してくれるなら迎えの者を寄越すとも書かれていた。
(そうだったわ、確か伯爵様には私と同じ年の女の子がいたわ。小さい頃一緒に遊んだことがあったっけ……)
「ジェニファー」
不意にアンに声をかけられ、我に返った。
「はい、叔母様」
顔を上げるとアンは向かい側の席に座り、ジェニファーをじっと見つめている。
「あなた、どうして伯爵家と親戚だったことを黙っていたの? 大体、あなたの父親の兄とはどういうことかしら?」
腕組みをしたアンは冷たい視線を向けてくる。
「あの……お父様に聞いたのですが、まだ子供だった頃に子供に恵まれなかった伯爵家にお兄様が養子に貰われていったそうです」
「お兄様が貰われていったの? 長男だったのに?」
(何故、逆じゃなかったのかしら! だとしたら、私は今頃伯爵家と親戚関係だったかもしれないのに!)
アンは自分があまりにも身勝手な考えを持っていることに気づいていない。
「お父様とお兄様は双子で、お兄様の方が伯爵家の方々に良く懐いていたそうです。それで、貰われていった……と聞いています……」
ジェニファーは何とか思い出しながら、説明した。
「フン、そうだったの。それじゃお葬式には来ていたのかしら?」
「はい、いらっしゃいました。私、会っていますから」
「あら、そう。私には挨拶をしなかったのね。……弟の妹だって言うのに」
自分に挨拶をしなかったのが、アンは気に入らなかった。
その言葉に何も言えず、ジェニファーが俯く。
「まぁ、いいわ。今からこのメモどおりに手紙を書くのよ」
メモを手渡されたジェニファーは目を通し……驚いた。
その文面には、伯爵家に行っている間の手当として金銭を要求する内容が記載されていたのだ。
しかも相当な金額で、ブルック家の生活費1年分に相当する。
「叔母様! こんな金額を要求するなんて、いやです!」
これからお世話になる身なのに、お金まで要求するような図々しい娘だとは思われたくなかった。
「おだまり!! こっちは先方の我儘であなたを差し出すのよ! その間、誰が家事をすると思っているの? 金銭を要求するのは当然の権利なのよ! ここを追い出されたくなければ言う通りにしなさい!」
ここを追い出されれば、ジェニファーは行き場を無くしてしまう。まだ子供のジェニファーには叔母にそのような権利が無いことを知るはずもなかった。
「わ、分かりました。叔母様……」
ジェニファーは震える手でペンを取り……叔母に言われた通りに嫌々手紙を書くのだった――
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