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1−6 傷の手当

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「はい、これでもう大丈夫よ」

ケイトがジェニファーの傷の手当を終えた。

「ケイトおばさん、ありがとうございます。でも……折角手当してもらえたけれど、これでは家の仕事が出来ないわ」

じっとジェニファーは自分の手のひらを見つめた。両手はしっかりと包帯が巻かれていてる。

「何言ってるの? そんな手で家事が出来ると思っているの? 食器洗いなら他の誰かにやってもらいなさい。……まぁ、あの夫人ならやりそうにないけれど、少なくともあの子達なら手伝ってくれそうじゃない」

「だけど、料理や洗濯が……」

「料理は私が作って運んであげる。洗濯だって、やらせればいいのよ。誰もやる人がいなければ、流石に夫人だって家事をしなければならないって自覚が湧くわよ」

「そうでしょうか……?」

けれど、ジェニファーには叔母が素直に家事をするとは到底思えなかった。

「いい? ジェニファー。あなたはまだ10歳、本当なら学校へ通って勉強している年なのよ? なのにあの夫婦は学校へ通わせることもせず、使用人のように仕事ばかりさせているじゃない。こんなこと間違えているのよ?」

ケイトはジェニファーの肩に手を置き、瞳を覗き込んだ。

「でも、叔母様達が来てくれていなければ私は一人ぼっちで……」

「それは違うわ。あの大人たちはジェニファーを利用して乗り込んできたのよ。保護者面して、そのくせ一切の養育義務を果たしていないのよ。元々あの屋敷はジェニファーの物なの。……と言っても、まだあなたは子供だからどうすることも出来ないわよね……他に頼れるような親戚はいないのかしら?」

ケイトの言葉に、ジェニファーは叔母に取られた手紙のことを思い出した。

「そう言えば、今日私宛に手紙が届いたんです。送り主はセオドア・フォルクマンという方で、叔母さんの話だと伯爵様だったみたいなのですが……手紙を取られてしまいました」

「何ですって!? 自分宛の手紙を夫人に取られてしまったのですって!?」

その言葉に、ケイトは目を見開いた。

「はい」

「まるで泥棒と一緒ね。それで、ジェニファーは手紙を読んだのかしら?」

「いえ、読む前に取られてしまいました」

「まぁ! 何処まで酷い人なのかしら……人の手紙を盗むなんて、許されないことよ! それでは内容が分からないというわけね? 当然住所も分からない……わよね?」

ケイトの言葉にジェニファーは頷く。

「はい、その方の名前は聞き覚えがある気がするのですが……住所も知りません」

「一体、どういうつもりで手紙を盗んだのかしら。でも、ジェニファーに直接宛てた手紙なら、あなたに用事があったということよ。しかも相手は伯爵様なら、夫人は黙っていられないでしょうね。この先もしかすると何か動きがあるかもしれないわ」

「そうでしょうか?」

「ええ。きっとジェニファーにとっては良い話に違いないわ。とりあえず、家に帰ったら手紙を返してもらうように話してみなさい? もし返してもらえないようなら私が直接話をするわ」

ケイトには、確信があった。
恐らく手紙を返さないということは、アンにとって不利な内容が書かれていたに違いない。
つまり、ジェニファーにとっては良い話だということだ。

「ありがとうございます、ケイトおばさん」

ケイトに少し勇気づけられたジェニファーは笑顔を浮かべた。

「もうすぐ日が暮れるわ。家まで送るわ」

「いえ、大丈夫です。1人で戻れます、ケイトおばさん。手当してくれてありがとうございます」

笑顔で礼を述べると、ケイトに見送られてジェニファーは帰っていった――
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