184 / 199
第8章 11 シュバルツ家にて
しおりを挟む「全く…まだリヒャルトの行方が分からないのっ?!」
アグネスは自室で手紙を読んでいた。その手紙は『ベルンヘル』の警察署長の忠実な部下からの手紙だった。手紙には運河のバラック小屋からリヒャルトが忽然と消えてしまい、行方が分からなくなってしまった事。そして署長が麻薬の裏取引に関わっている容疑を掛けられ、警察署内で軟禁状態にされている事が書かれていた。
「何て事なの…?!逃がすなんて…!」
アグネスは忌々しげに手紙を机の上のアルコールランプの炎に近付けた。途端にメラメラと赤い炎を出して燃えてゆく手紙。火の着いたアルコールランプをそのまま暖炉に持っていくと無言で萌え続けている手紙を放り込んだ時にエーリカが部屋の中へ入ってきた。
「ヒック。な~にしてるのよ。お母さん」
エーリカの手には空になった酒瓶が握られている。
「エーリカッ!昼間からお酒を飲んでいるとは何ですかっ!」
「仕方ないでしょう?お酒でも飲まなきゃやってられないわよ!未だにアンドレアの行方は分からないし…マックは相手にしてくれないし…」
「マック?マックって誰よ?」
「あら~知らないの?最近使用人として入ってきた若い男よ。ここにいる使用人の男達は全員味見したけど、マックだけはまだなのよね」
その言葉にアグネスは眉をしかめた。
「全く何て下品なの?本当に大概にしなさいよ。今に子供でも出来たらどうするのよ?」
「それなら大丈夫よ。そのへんは気をつけているから。大体…私が妊娠でもしたら相手の男が一番困るんじゃないの?使用人のくせに仕えている屋敷の娘に手を出したなんて事が世間に知られたら」
「本当に…なんて娘なの?」
アグネスは忌々しげにエーリカを見た。
「ふん、元娼婦のお母さんに何も言われたくないわね」
およそ母娘の会話には思えないような恐ろしい話を扉の外でマック…もとい、シュバルツ家に使用人として潜伏しているジャックは立ち聞きをしていた。
(この母娘…まともじゃないな…それにしても困った。オペラの招待状を渡したいのにエーリカがいるなら部屋に入ることが出来ないし…)
そこへ洗濯物を持った1人の若いメイドがやってきて声を掛けてきた。
「あら、マック。こんなところで何をしているの?」
「あ、いや…奥様とお嬢様宛てにオペラの招待状が届いたからお渡ししたいんだけど、お嬢様が今部屋にいらっしゃるから…」
するとメイドは面白そうに言った。
「そう言えばマックはお嬢様に気に入られていたものね~私が渡してあげましょうか?」
「本当かい?それは助かるよ。その代わりに俺が洗濯物をしまってくるから」
「それだけじゃ嫌だわ」
「?」
ジャックは首を傾げた。
「今日のお昼、2人で中庭で食べてくれる?」
「あ、ああ…いいよ。それくらいのこと。お安い御用さ」
ジャックは笑みを浮かべるとメイドは顔を赤くすると言った。
「ほ、ほら。奥様あてのお手紙貸してよ」
「ああ、宜しく」
ジャックは洗濯物を受け取り、メイドに手紙を渡した。
「それじゃよろしく頼むよ」
「ええ。じゃあ13時に中庭でね。いい?必ず来てくれなくちゃお嬢様に引き合わせるからね?」
半ば脅迫めいた言い方をするメイドにたじろぎながらジャックは返事をした。
「あ、ああ。勿論。必ず行くよ」
「本当?嬉しい!それじゃあまたね」
「ああ」
それだけ返事をするとジャックは足早にその場を後にした。そして歩きながら思った。
早く元の現場に戻りたい…と―。
1
お気に入りに追加
706
あなたにおすすめの小説
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
養子の妹が、私の許嫁を横取りしようとしてきます
ヘロディア
恋愛
養子である妹と折り合いが悪い貴族の娘。
彼女には許嫁がいた。彼とは何度かデートし、次第に、でも確実に惹かれていった彼女だったが、妹の野心はそれを許さない。
着実に彼に近づいていく妹に、圧倒される彼女はとうとう行き過ぎた二人の関係を見てしまう。
そこで、自分の全てをかけた挑戦をするのだった。
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
モブですら無いと落胆したら悪役令嬢だった~前世コミュ障引きこもりだった私は今世は素敵な恋がしたい~
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
前世コミュ障で話し下手な私はゲームの世界に転生できた。しかし、ヒロインにしてほしいと神様に祈ったのに、なんとモブにすらなれなかった。こうなったら仕方がない。せめてゲームの世界が見れるように一生懸命勉強して私は最難関の王立学園に入学した。ヒロインの聖女と王太子、多くのイケメンが出てくるけれど、所詮モブにもなれない私はお呼びではない。コミュ障は相変わらずだし、でも、折角神様がくれたチャンスだ。今世は絶対に恋に生きるのだ。でも色々やろうとするんだけれど、全てから回り、全然うまくいかない。挙句の果てに私が悪役令嬢だと判ってしまった。
でも、聖女は虐めていないわよ。えええ?、反逆者に私の命が狙われるている?ちょっと、それは断罪されてた後じゃないの? そこに剣構えた人が待ち構えているんだけど・・・・まだ死にたくないわよ・・・・。
果たして主人公は生き残れるのか? 恋はかなえられるのか?
ハッピーエンド目指して頑張ります。
小説家になろう、カクヨムでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる